8話 第三章 メインヒロイン、キター!
「勇者様!この度の、貴方様の素晴らしいご活躍ぶりに、我々はただ感服するばかりであります。」
貴族の一人がそう言った。
「今回この会議場に押し寄せてきた悪党どもを撃退し、私たちの命を救ってくださった。
貴方こそが真の勇者様です!」
また一人の貴族がそう言った。
俺たちは今、褒賞の授与を受けていた。
それはそうだ。俺達はこの貴族達を守り抜いたのだ。
それぐらいの褒美はあって当然だろう。
「勇者様。誠に勝手な頼みかもしれませんが……
どうかこれからも、この都市を、いや――
この世界を守ってください。」
会議長が恭しくこちらに懇願してきた。
やはり、そこまで頼まれたとなれば、それに応えぬわけにもいかないのだろう。
そして――
「勿体なきお言葉、この身に余る光栄です。
これからも貴方たちの為に尽くしましょう。
この――
――セタスの名に懸けて。」
セタスはそう答えたのだった。
彼の一言に……
会議場中が歓声に包まれた――
「勇者セタス様、万歳!」
割れんばかりの拍手喝采。
「よッ!勇者セタス様!」
溢れんばかりの賞賛の言葉。
それらは全て、俺では無く――
セタスに向けられたものだった……。
「さすがは勇者セタス様!
その働きぶりはまるで勇者の名に恥じないものであったとか……」
……おかしい。
「この度の戦闘ではクリスタ嬢と『二人』で目覚ましいご活躍をされたとか……」
……なんでこいつが勇者扱いされてんだ。
「従者の方は廊下の端っこで、なにやら動かない『モノ』をひたすら攻撃していて全く助けてくれないにもかかわらず、それでもクリスタ嬢と息の合った連係で悪党どもの襲撃を防いだとか……」
うっ!耳が痛い!
セタスへの賞賛にちょこちょこ挟んでくる俺へのディスが、俺の心を的確に傷つけていく。
しかも俺はセタスの従者という事になったらしい。
そしてさらに極めつけは会議長の言葉。
会議長はそんなセタスに対し、ある事を提案する。
「どうだろうか……。
もしセタス様さえ良ければ、私の娘であるクリスタを……
側においてやっては頂けぬだろうか。」
会議長は、真剣な表情だ。
「ちょ、ちょっとお父様!
勝手なこと言わないでよ⁉」
会議長の急な申し入れに、慌ててそれをたしなめるクリスタ。
だが――
俺は見逃さなかった……
彼女のその顔が――
ほんのりと紅く染まっているのを……
しかし、最初はそんな事を言っていたクリスタだったが、やがて彼女はその紅い顔を俯かせ、両手の指同士をもじもじと絡ませると――
「で、でも……こんな私で良いのなら……
そ、その……ぜひ、お願いします。」
しおらしく、恥らいながらそう呟いたのだ。
俺は愕然とする……
俺の……ヒロインが……セタスに奪われた……
これが……
これが噂に聞く……
NTRというものかッ……⁉
俺は自分の服の袖を引き裂かんばかりに噛んでいた。
そして今にも、『この、泥棒ネコめッ』と毒づきそうな勢いでセタスの方を振り返った。
が、しかし……
セタスの反応はというものの……
「申し訳ありません。貴方のような素敵な方にそう言って頂けるのは心から嬉しく思います……。
しかし……まだ私は未熟者であるため、貴方を幸せに出来る自信がございません。」
信じられない事に、何故か奴はその申し入れを断ったのだ。
……え?なにやってんのこいつ……馬鹿なの?死ぬの?
セタスのその言葉に、クリスタは表情を陰らせ、顔を俯かせた。
「ご、ご謙遜をセタス様!
貴方のような方にこそ、我が娘を貰って頂きたいのです。」
会議長は尚もセタスに食い下がる。
しかしそこまでの頼みであっても、セタスが首を縦に振る事は無かった。
「せっかくそこまで言ってくださっているのに、申し訳ありません。
ただ、クリスタ様をお守りするには、私では力不足です。
これは――」
そしてセタスはどこか自嘲するような、そんな表情を浮かべて……
「謙遜ではないのです。」
呟くように、そう告げたのだった……
その後――
俺達は貴族たちに見送られながら、この会議場を後にしようとしていた。
「この道をまっすぐ行くと、そこに要人専用の高級旅館があります。
もちろん、支払いはこちらで持ちましょう。」
会議長が俺達二人にそう申し出てきた。
いや、厳密に言うとセタスに対してだな、これは。
俺の方など見向きもしない。
そしてセタスが礼を言うと、再び会議長が口を開く。
「貴方の意志は尊重しますが、もしも気が変わったとなればいつでもお声掛けください。
私はいつでも貴方をお待ちしておりますぞ。」
そう言ってセタスににこやかな笑みを見せる。
「はい。そうさせて頂きます。
何はともあれ、この度はせっかくのお誘いを辞退してしまい、誠に申し訳ありません。」
「そうお気になさらないでください!
こちらこそ、急にこのような事を頼んでしまって申し訳ありません。」
謝罪するセタスに、会議長は慌ててそう返した。
こいつ、マジで後悔するよ?
すると、会議長の後ろからはクリスタがヒョコッと顔を出す。
「セタス様。また近いうちにお会いしましょう。」
彼女は顔を赤らめながら、控えめにそう言った。
「……。」
しかし、セタスはそれに対しては特に何も言わず、代わりに顔を綻ばせて見せたのだった。
そして――
俺達は会議長に背を向けて歩き出す。
何はともあれ――
俺も一応は報奨金が貰えた。
金貨二十枚。この世界の貨幣価値はまだよく分からないが、恐らくかなりの金額だろう。
宿代も持ってくれるみたいだし、当分の間は贅沢出来る。
俺が意気揚々と足を踏み出したその時――
「ああ、そうだった。
おい。おい待て!お前だ!そこのお前!
そこの……えっと、なんだっけ?……自称勇者!」
「あ、ハイ。」
後ろから掛けられた『自称勇者』という言葉に、俺はつい反射的に返事をしてしまう。
『呼んだ?』という顔で後ろを振り返ると、どうやらその声の主は会議長のようで……
彼は鼻をほじりながら、俺を指さして、こう言った。
「お前……傷つけた廊下の鎧、弁償しろよ?
――金貨二十枚な。」
この世界は……とことん俺の事が嫌いなようだ。
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