三章 銀の街 1
一日目は何も見つけることはできなかった。僕達は日が落ちるとともに、木陰で野宿することにした。
空腹と喉の渇きは、木の幹を爪で傷つけることでにじみ出てくる樹液で満たすことが出来た。それは白くほんのり甘く、水っぽかった。
ルカは相変わらずだった。僕の口からそれを飲むことを欲した。薄いせいだろうか、味は彼女にはなかなか伝わらなかった。それにしょせんは樹液なので一回の口移しで与えられる量は少なく、もう十分だと思えるほど彼女に飲ませるにはひどく時間がかかった。僕達二人が樹液を飲み終わったころには、すっかり日は落ちて真っ暗になっていたし、僕の唇はふにゃふにゃにふやけていた。
ルカ、大丈夫かい?
月のない夜だった。深い闇に怯えていないかと心配になり、彼女を抱き寄せ尋ねた。
「……問題ない」
ルカは落ち着いているようだった。僕の胸に顔をうずめながら静かに答えた。
明日はちゃんとしたものが食べられるといいね。
「? ケリフィンの樹液はお前にとって好ましくないのか?」
悪くないと思うんだけど、食べ応えはないかなあ。
「食べ応え? よくわからんな。ケリフィンの樹液の成分は人の乳とほぼ同じだぞ」
乳? 母乳ってこと?
「ああ。したがって、栄養素の過不足はないはずだ」
栄養かあ……。
そんなもんなんだろうか。ピンと来なかった。むしろ、そんなことを知ってるルカのほうが不思議に思えた。考えてみれば、最初に会ったときもあの村に着いたときも、ルカは妙にこの森のことに詳しかったし。
君はもしかして、勉強好きの女の子だったのかな?
「勉強? 私が、か?」
闇の中、ルカは首を傾げたようだった。変な質問をしてしまったようだ。いや、君が僕の知らないことをいっぱい知っているから、と言い訳のように補足した。
「そうか。言われてみれば、確かにそのようだな……」
と、今気づいたみたいなことを言う。今まで自覚がなかったのだろうか。
「ライム、私は変か?」
いや、物知りってだけじゃないか。いいことだよ。
「しかし、それではお前と私が同じということにはならないのではないか」
同じって?
「もしかすると……私とお前は、違う、のかもしれない」
ものすごく真面目な口調でルカは言う。僕は思わずふき出してしまった。
「なにがおかしい」
だって、そんなの当たり前だろう。違う人間なんだから、知ってることが違っても変じゃない。
「……そうだろうか」
そうだよ。体の大きさだって性別だって君と僕とでは違うんだ。それと同じことだろう。
僕はお互いの体の違いがわかるように、彼女を強く抱き寄せながらささやいた。そして、サキと話したことを思い出し、君が知っていることは、「胞子の記憶」ってやつの影響かもしれない、と言った。
「胞子の記憶……ライブラリだな」
ライブラリ? そうとも呼ぶの?
「ああ……人の記憶の墓場だ」
ルカの口調はいつになく淡々としていた。まるで頭の中にある本を朗読してるみたいな言い方だ。ルカの中には、いったいどれくらいの知識があるんだろう。そして、それはいつか僕の意識にも介入してくるものなんだろうか。そう、「情報の海」の水がしみこんでくるように……。
考えても今の僕にはわからないことだった。やがてルカが髪をといて横になったので、僕もそのとなりに横たわった。風は昼間よりは冷たかったが、耐えられないほどではなかった。上を仰ぐと黒い布の上にビーズを散らしたみたいに、星がたくさん瞬いていた。
明日はどっちへ行こうか。
「日が昇るほうに進もう。明るいほうが、探し物も見つかりやすい。……きっと」
そうだね。
ルカがそう答えたことに僕は強く安堵した。明日も、このまま眠って目が覚めたあとも、ルカはルカのままでいられるのだと思った。
僕達はそのまま身を寄せ合って眠った。冷たい風も、僕達の体の間には入ってこなかった。
翌日、森を歩いていると妙なにおいに気づいた。なまぐさいにおいだった。なんだろう。僕達は風上に向かって歩いた。すると、木々の根元にたくさんの獣の死体が転がっているのを発見した。
獣はいずれも銃弾を体に浴びて息絶えているようだった。傷口から鮮血が流れていた。さらに、奥には獣のそばにうずくまっている人影があった。壮年の男のようだった。ベストとハーフパンツといった軽装で、口元にはマスクをつけている。
「そこで何をしている」
ルカが男に声をかけた。男はすぐにこちらに振り返った。茶色の髪と目をした男だ。その手にはナイフが握られている。
「見てわからないかい。樹機獣狩りだよ」
マスクごしのくぐもった声で男はこう答えた。そして、こちらを珍しそうにじっと見つめて、
「へえ、驚いたな。マスクをしてないなんて。肺に何かチップを埋め込んでるのかい?」
と、半ば独り言のように尋ねてきた。
「樹機獣狩りとは何だ」
ルカは男の質問を無視してさらに尋ねた。「樹機獣狩りは、樹機獣狩りだよ」男はいったんめんどくさそうに答えたが、ふと、はっとしたように「あ、もしかして君達、この星に来たばっかりとか?」と言った。
ここは、そういうことにしておいたほうが話を聞きやすそうだった。僕はルカを介して「そうだ」と答えた。ついでに「それで、道に迷っているんだ」とも。
「そうかい。じゃあ、近くの街まで乗っていくかい?」
男はさらに奥を指差した。見ると、そこに男のものらしいヘリコプターがあった。
僕達はその誘いを受けることにした。男が獣の死体から何かを取り出し終わるのを待って、ともに飛行機に乗り込んだ。
一人用の小型ヘリだった。余分な座席はなかったので、僕達は後ろの貨物スペースの床に座った。そこは血のにおいがいっそう濃く充満していた。見ると、血が中から染み出してきている大きなずだ袋がいくつも積まれていた。
「そこにあるのは、全部樹機獣の角なんだぜ」
男は操縦桿を握りながら誇らしげに説明した。こんなに集めてどうするんだろう、それに樹機獣はもう……そう不思議に思っていると、男が何か発見したようだった。操縦桿の横のほうに手を伸ばし何か操作した。たちまち、銃声が床の下から響いてきた。これはヘリに備え付けられている銃器の類によるものだろうか。
「……少し待ってな」
男はヘリを開けたところに着陸させ、外に出て行った。そしてしばらくすると、根元から血を滴らせている樹機獣の角をいくつも抱えて帰ってきた。
「今日はついてる。大猟だ」
男はにこにこしながらそれらをずだ袋に詰めていく。
「樹機獣狩りというのは、樹機獣の角を集めることを指すのか?」
「ああ、なんせ一番多く集めた人間には、賞金五百万ドル! おまけにこの星の土地を好きなだけ買える権利がもらえるって話だ」
ルカの問いに、男は上機嫌で答えた。そして、さらに、「賞金もすごいが購入権のほうが何倍もすごいんだ。金持ち連中が血眼で狙ってるからな。転売すれば何千万ドルになるか……」と、興奮し始めた。
「これはいわば、開発事業団による入植キャンペーンなのさ。こいつらはそのためだけにこの星に放されたんだぜ。……君達、本当に何も知らないのかい?」
樹機獣の角を袋に詰め終えた男は、タオルで手についた血を拭きながら、不思議そうに、少し訝しげに尋ねてきた。僕はルカを介して、「そういえば、そんな話を聞いたことがあったかな」と、適当に話をあわせた。
「はは。まあ、そうだろう。どこの街もこの話で持ちきりだからな」
男は操縦席に戻った。そして、再びヘリを離陸させた。
やがて前方に街が見えてきた。透明の天蓋に覆われた大きな街のようだった。中には高いビルがいくつもそびえており、日の光を受けて銀色に輝いていた。
男は街のすぐそばのペリポートに降りると、そこで僕達を降ろした。
「じゃあな、君達もうまくやれよ」
操縦席から男が手を振るのが見えた。やがて、下に何か施設があるのだろう、男のヘリはペリポートの地下に降りていった。
僕達は街の門のほうへ歩いた。それはヘリポートからすぐ近くにあった。近づいていくと、丸いボールのような小型の機械が空中を飛びながら僕達に話し掛けてきた。「身分を証明するものをお持ちですか?」そんなもの持っているはずはなかったが、試しにジャケットの右ポケットを探ると、カードが二枚出てきた。僕達の顔写真が貼られた、真面目で、立派なでたらめがたくさん書かれているカードだ。それを見せると小型のボールは中心のランプを赤から緑に切り替えて「オーライ、承りました。よい旅を!」と、用がすんだみたいに向こうへ飛んでいった。
僕はもう、カードが出てきたことも、絶滅したはずの樹機獣があんなにいたことも驚かなかった。それらは、最初に訪れた村と同じ理屈で僕達の前に現れただけのことだろう。そう、この街も……。二重になっている門を通って、中に入ると、そこはとても活気のあるところのようだった。街の出入り口に近いせいだろうか、往来は広く、きちんと舗装整備されて、歩道を行き交う人は多かった。歩道と車道の間には街路樹や植え込みの緑が見えた。また、この街の車はすべて無人で動くタイプのようだ。道沿いに軒を並べる飲食店の前には、無人のタクシーが何台も停まっており、そのドアのところのスロットに金を入れて乗り込む人の姿も見えた。
それらの景色に僕はかすかだが見覚えがある気がした。かつて、僕はこの街にいたことがあったのかもしれない。そう、だから僕達はここにたどり着いたんだろう。過去を見つけるために……。
ジャケットの左ポケットには札束が入っていた。これも、ここにとどまるために必要なものだから現れただけだろう。不思議にも思わなかった。歩いているとハンバーガーの屋台が目に止まったので、そこから適当に一枚抜いて、ハンバーガーを二つ買った。札束は全部百ドル札のようでお釣りがたくさん返ってきた。一気にお金持ちになったようだった。
ルカはハンバーガーを渡しても口をつけようともせず、物欲しそうにこちらの口元を見るばかりだった。やっぱりそうなるのか。僕達はそこで、いったん近くのホテルに入り部屋を取った。こざっぱりとした落ち着いた雰囲気のホテルで、フロントも廊下も部屋も全て白を基調としたシンプルな内装だった。
僕達が取ったのはごく一般的なダブルの部屋だった。中に入るとすぐベッドに腰かけて、僕はルカにハンバーガーを食べさせた。おいしいハンバーガーだった。ルカも「これは好ましい味だ」と、それがすぐにわかったようだった。
「ライム、私はこの街を知っているのかもしれない」
お互いハンバーガーを食べ終えて、少しくつろいでいると、ルカが僕の膝の上でつぶやいた。
そうか。君もなんだね。
「? お前もか?」
うん。だから僕達はここに――はるか昔に失われた街に着いたんだと思う。
僕はホテルの窓から街の大通りをじっと見つめた。街は相変わらず活気があった。森のみどりに対する恐怖や不安など行き交う人々は少しも抱いていないようだった。
「ならば、探しに行こう。私達の失ったものを」
ルカは勢いよく膝の上から降りた。僕はうなずいた。僕達は再び街へと出た。
街は「樹機獣狩り」の拠点であると同時に観光地でもあるようだった。いかにも昨日今日来たばかりといった風情の人がそこかしこを歩いていた。通りには彼ら観光客を楽しませるためのバーやカジノがたくさん並んでいた。また、樹機獣が描かれた看板を掲げたガンショップも彼らには人気のようだった。「樹機獣狩り」は賞金目当てのためだけではなく、レジャーとしても楽しまれているのだろう。ボウガンやライフルを携えた人々を乗せたバギーやジープが門のほうへ向かうのを時折見かけることが出来た。
さまざまな施設に立ち寄った際に話を聞く限りでは、やはり、人々は森のみどりが人を飲み込むことなんて少しも知らないようだった。彼らにとって森は森、いやただの「緑化システム」だった。今は酸素濃度が高めになっているが、じきに何らかの新たなシステムが導入され、大気の状態はよくなるはずだ――みな一様にそういう認識のようだった。
街は大きく広かった。その日は何も見つけることはできなかった。
続きはまた明日にして、そろそろホテルに戻ろう。
街の中心から少し外れた住宅街にさしかかったところで僕はルカに言った。もう日は暮れかかっていたし、僕はすっかり疲れていた。
「わかった。そうしよう」
ルカも疲れているようだった。そして、それが薄々自分でもわかるのかもしれない。二つ返事でうなずいた。僕達は踵を返した。帰りは無人タクシーを使うことにして、それが拾えそうな通りに向かった。
しかし、ある一軒の家の前を通りかかったとき、ルカはふと足を止めた。
ルカ?
振り返ると、彼女は門越しにその家の庭のある一箇所をじっと見ているようだった。屋敷と言ってもいいくらいの大きな家だった。今は人が住んでいないようで「売家」の看板が門前に掲げられている。
いったい、何を見ているんだろう。その視線の先を追ってみた。庭は長い間手入れをされていないのだろう、草が生い茂っていた。隅には錆びたブランコが夕暮れの陽光を受けて、微風にかすかに揺れていた。
ルカが見ているのはその庭の真ん中辺りに転がっている人形のようだった。元はどんな人形だったんだろう。それは長い間風雨にさらされていたらしく、すっかりぼろぼろになっているようで、ここからではよくわからなかった。
ルカ、あれが気になるんだね? 僕が取ってこようか?
僕は彼女の手を握り、話し掛けた。
しかし、そのとたん、
「いや、その必要はない」
ルカは僕の手を振り払った。
僕はびっくりした。ルカが自分から僕の手を振り払うなんて今まで一度もなかったからだ。それに、今の口調……まるで頑なに拒むような強い口調だった。いったい、どうしたんだろう。
「ライム、ホテルに戻るぞ」
と、ルカは急に早足で歩き出した。僕はあわててその後を追った。
ホテルに着くまでルカは一切何も話さなかった。何かを考えているようだった。その顔色は悪かった。心配になってタクシーの中でいろいろ話し掛けてみたが、やはりルカは僕の手を振り払うばかりで何も答えなかった。
やがて、ホテルに着き、廊下を歩いていると、ルカはまた急に足を止めた。そして――その場に崩れ落ちるように倒れてしまった。
ルカ!
すぐに彼女を抱き起こした。と、そのとたん、僕は体中に強い痛みを感じた。思わず膝をついた。
これは――ルカの今感じている痛み?
見ると彼女の顔は真っ青だった。その額には脂汗がにじみ、瞳は苦悶で強く固く閉ざされている。いったい、ルカの身に何が起きたんだろう。わけがわからなかったが、彼女をここに置いておくわけにはいかなかった。伝わってくる痛みをこらえながら、再び彼女を抱き上げ、部屋の中に、ベッドの上に運んだ。
ルカ、だいじょうぶかい?
ベッドに横たわる彼女の手を取り、強く握りしめた――と、そこでニットの袖が下に垂れ、彼女の肘が半ばまであらわになった。僕は驚いた。彼女の肘は無数の痣や傷でどす黒く変色していた。
これはまさか――。
僕はすぐに彼女のニットの裾をまくった。そこには同じようにたくさんの痣や傷が出来ていた。伝わってくる痛みからして、おそらく体中こんなふうに傷だらけなんだろう。でも、どうして……。信じられない気持ちでいっぱいだった。昨日まではこんな傷はなかったはずなのに。
ああ、でも、そんなの今は考えてるときじゃない。こんなにたくさん怪我してるんだ。手当てしないと。僕は再び彼女の手を握った。ルカ、すぐに医者を呼ぶから待ってて。
しかし、僕がそう呼びかけたとたん、
「……その必要は……ない」
ルカは弱々しく首を振った。
どうして? こんなに怪我をしてるのに――。
「怪我? 違う、これは……壊れただけだ。医者など意味はない……」
ルカは朦朧としているようだった。僕ではなく天井の一点をあやうく見つめながら答えた。その顔はやはり真っ青で、その傷はとても痛々しくて、胸が張り裂けそうになってくる。でも、でも……、僕は懸命に彼女に訴えた。君はこんなに痛がっているじゃないか。
「……痛い? 私が? 何を馬鹿な。私は何も……感じない……」
感じない? そんなの嘘だ。今だって、こんな――。
「感じない! 痛くない。苦しくない。悲しくない。怖くない。さみしくない。私はそういうふうにあるべきなのだ……。何も感じてはいけないのだ……」
と、ルカの声音が大きく揺らぎ、かすれた。その黒い瞳から涙があふれてきた。彼女はわきあがってくるそれをどうしたらいいのかわからないという表情で、顔をゆがめ、手で目元を覆った。
ルカ、それは違う。
僕は彼女に触れ、呼びかけた。
君は痛がってる。苦しんでいる。僕にはわかる。伝わってくる――。
「そのようなものはまやかしだ。現実ではない。ただの……思い込みだ」
ルカはまるで僕の言葉を聞き入れない。目元を手で覆ったまま首を振る。
「……そうだ。ルカという娘など、初めからどこにもいなかった。あったのは、そう名付けられた――人形だけだ」
人形?
「人形は痛みを感じない。苦しみも、悲しみも、恐怖も、孤独も、何も感じない。何もないのだ。だから……私も何も……」
ルカの嗚咽がいっそう激しくなった。僕はたまらなくなって、彼女の腕を強くつかんで引き寄せた。彼女の泣きはらした瞳が僕の目に飛び込んできた。
ルカ、泣かないで。
そのまま彼女の震える体をいっぱいに抱きしめた。彼女の感じている痛みが再び伝わってきたが、それよりも何より、僕は彼女が苦しんでいることが辛かった。
「ライム……お前はいつだってそうだ。そうやって……私を明るいところに連れて行こうとする……」
ふと、彼女は僕の胸に額を押し当て、かすれた声でつぶやいた。
「私のいるべきところは闇だ。それなのに、お前が光の中で呼びかけるから、私は……夢を見てしまう。あの日のように……」
あの日?
「あの日……私は初めて光を見た。お前がいた。お前は笑って……私は……違う私になれるのではないかと思った。ああ……でも、お前は歌わなかった」
ルカ、何を言って……?
「歌って欲しかった。お前の歌を聞きたかった。涙の海はとても冷たくて暗い。だから私は……お前と一緒に……」
ルカ? さっきから何の話を――。
「……もう、何もかも終わったのだ。お前と会ったあの日の夜、あの女は私の首を締めた。固く締めて……私は……ルカと名付けられた人形は壊れて……動かなく……なった……」
と、そうつぶやいたとたん、彼女の頭が、腕が、力を失ったようにだらりと下に垂れた。その体もたちまち冷たくなっていく。
ルカ! ルカ!
彼女の体を強く揺さぶり呼びかけた。しかし、彼女のまぶたは開くことはなかった。その呼吸も糸が切れるように止まり、やがて彼女は――消えた。
「……っ!」
それは本当に一瞬の出来事だった。ほんのわずかの間に僕の懐から彼女の体が、その重みが、影が、何もかも一切が消えてしまったのだ。
ルカ――。
愕然とするより他になかった。わずかの希望を託して周りを見回してみたが、やはり彼女の姿はどこにもなかった。窓際のローテーブルの上に食べ終わったあとのハンバーガーの包み紙が二枚置かれているのが目に止まっただけだった。
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