第27話 悪魔の怒り

 うぐっ……


 薄れる意識の中誰かに口をすすがれている。

 気持ち悪い…吐き気が治らない…。


 触れている指はルーカスじゃないと判るし女の指でもない…。本能的にゾワリとして私はまた吐いた。


「あっ!!」

 洗面台で私を抱き抱えているのはエドヴィン王子だ。片目が無い。私は王子を突き飛ばした。


「……アリーセ…何をするんだい?折角綺麗にしてあげようとしているのにダメじゃないか!」


 エドヴィンは立ち上がり近付いた。


「来ないで!!変態!!」


「不敬だよ?アリーセ…変態だなんて?ヘンドリックじゃないんだから」


「あいつもおかしいけど王子も変だわ!!自分で気付かないの?いつもと違うわよ?貴方!!」

 そう…エドヴィンは明らかにおかしい。少なくとも無理矢理アリーセにこんなことをする奴ではなかった。思えばヘンドリックもダミアンも少しおかしい。


 まさか…やはり悪魔が関係してるの?

 でも私はルーカスと何の変化もないわ。両想いくらいで。


「おかしいかな?ただ君が好きなだけさ…。ねぇアリーセ…君は僕の婚約者なんだよ?何故逃げるのさ?他の誰にもあげないよ」


「そんなこと言って!さっきダミアンにも私を犯させるとか言ってたじゃない!この変態!!」


「ああ…そうだね?済まなかったよ…君が僕以外嫌ならダミアンは諦めてもらうよ…さあ、こっちにおいで?口に吐瀉物つけたままじゃ気持ち悪いだろう?」

 とエドヴィンは私に手を伸ばして髪をガシリと掴み浴槽にそのまま投げ入れた!!


「ガボっ!!」


「ふふふ…少しは綺麗になったかな?」

 おかしいし怖い…。

 こんなのエドヴィン王子じゃないと私でも判った。


「さあ、アリーセ…服も濡れたし着替えようね?ごめんよ?ベッドじゃないけど…」

 と私にジリジリ近寄ってきて怖すぎる!!私は石鹸を投げたりタオルや桶も投げつけた。


「あはは、可愛い抵抗だね?」


「こないで!また吐くわっ!吐いたらキスできないわよっ!蕁麻疹だってさっきから凄いわ!」


「それなら君を殴ってでも気絶させてから楽しむよ…」

 と彼は私の頰をバシッと殴った!


「いっ!!」


「本当はこんなことしたくないけど、君のハジメテは僕のもの…だから言うこと聞いてよ…」

 と王子は目のある方の目で涙を流していた。


「貴方は悪魔よ!!」


「…………違うよ…僕は君の王子様さ悪魔なんかと…一緒にするなっ!」


 またバシッと叩かれる。

 そして王子は浴槽から私を引っ張り上げ乱暴に固い冷たい床に寝かせて跨った。


 ひいいいいっ!!犯される!!!

 変態王子!!怖っ!キモっ!!

 うげ…吐き気…。


 しかしエドヴィンは笑いながら私の服をビリビリ破いている!!ぎゃっ!!あるあるパターンだ!!やだー!!胸見えちゃう!!


 助けて…ルーカス!!


 バガン!!


 っと浴室の扉が破壊され火球が王子にヒットしエドヴィンは浴槽まで飛ばされてバチャンと落ちた!!


「アリーセ!!」

 本物の王子来た!!王子じゃなくて悪魔だけど!!


「ルーカス!!ルーカス!!」

 と飛びつく!


「ぐっ!!クソが!何をしてるライル!!」

 エドヴィンは苦々しくルーカスを睨みつけ


「アリーセから離れろ悪魔!!」

 と言うと


「アリーセは俺の恋人だ!!触るな!!」

 ルーカスは私を抱き寄せ手をかざしまた火球を浮かび上がらせた。


「ふざけるな!彼女は僕のものだ!僕の婚約者なんだ!!初めて見た時から好きなんだ!」

 しかしルーカスは今まで見たこともないくらい怒りに満ちた声で


「アリーセの処女を無理矢理奪おうとする変態にアリーセを好きになる資格なんかない!例え王子でもだ!欲に負けた愚かな人間め!!このまま殺してやろうか!!」

 と怒る。


「ルーカス!一応人殺しはダメよ!」


「アリーセは甘いな…可哀想に…顔が腫れてる…あいつに叩かれたな?」

 めっちゃ叩かれた。痛かったわ。そういや。

 ちょっと私もエドヴィンを睨んだ。女の顔叩くなんて最低だわ。このDV野郎!!


「くっ!ライル!!来い!!早くっ!何してんだ!!」


 エドヴィンが呼ぶとゆらりとライル先輩が現れた。


「ライル先輩…」

 ルーカスは私を後ろに隠す。

 ライル先輩の胸には矛が刺さったままだ。

 それをズルリと引き抜きエドヴィンの前に立つ。


 ていうかこんな狭い浴室で戦うつもり!?


「ルーカス諦めろ…俺はお前より強い…解ってるだろ?お前を痛めつけるのは辛いんだ…」


「ライル先輩…俺は…怒ってるんだ!俺の大切なアリーセに酷いことして!ゆ、許せない!!」

 しかしライル先輩は先程ルーカスを貫いていた黒い剣をまた出現させた。


「くっ!」

 ルーカスは大きな火球を投げつけるがその火球はライル先輩の黒い剣が吸い取り消えた。そして代わりに黒剣の周りに炎が宿った!


「無駄だルーカス!俺には勝てない!お前がさっさとお嬢様の処女を奪っておかないからだよ。今更遅いがな!」

 するとライル先輩はいきなり王子から奪った緑の目をウインクした。


 え?何?エドヴィンはライル先輩の後ろにいるからウインクは見えてない。私達にだけ判る何かの合図だ。


 ルーカスは何も言わない。


 あ、これ解ってないわ。ルーカス…残念ながら理解及ばずだわ…。


「お前はほんと悪魔学校でも落ちこぼれだよな!何回俺がフォローしてもダメだった。悔やむんだな!!」

 と今度はまた緑の目をパチパチさせていた。

 これ絶対なんか伝えようとしている!!

 ルーカスはようやく気付いて


「ライル先輩……目が痒いんですか?掻いてもいいよ?」

 と言った。


 ライル先輩と私は白目になった。

 絶対違う!ルーカス!!


 しかしルーカスは


「アリーセ!ここから離れるんだ!」


「ルーカス!?」

 するとルーカスは


「グウウウウッ」

 と唸り姿を綺麗な黒豹に変えた!

 黒豹のルーカスは薄ら赤い炎を全身に纏いライル先輩の方へ向かい首に噛み付いた!!


「バカが!そうじゃねぇよ…」

 とボソリと言うライル先輩…。


 それに後ろのエドヴィンがこちらにやって来ようとして私は逃げた!ここでエドヴィンに捕まるわけにはいかない!!

 浴室を出て私は逃げた!

 エドヴィンは追ってくる!!

 くっ!何てしつこい!!

 館に着けられた火が逃げ道を塞ぐが廊下を必死で逃げるとついに突き当たりに!


「そこまでだよ!可愛いアリーセ!!」


「来ないで!吐くわよ!!」

 こうなったらその綺麗な顔にゲロ吐いてやる!と私は覚悟する!


 しかしそこで手前の部屋から誰か出てきた。


「あ…そんな…」

 エドヴィンはニヤリと笑った。

 出てきたのは騎士のダミアンだった。

 ああああっバッドエンドーーー!!


「やあ親友!よく来たな!アリーセを捕まえろ!」

 と命令するエドヴィン。しかしダミアンは腰から剣を抜くと…


 王子にギラリと突きつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る