第26話 奇襲

 真夜中…結界に反応があった!

 俺は飛び起きてアリーセや皆に危険を知らせる鐘を屋敷に鳴り響かせた。

 そしてすぐにアリーセの部屋に入る。


「ルーカス!?何事なの!?」

 アリーセは寝間着に上着を羽織り不安そうにしがみつく。


「結界を壊そうとしている。きっとライル先輩にケビっていう悪魔だ。ここは見つかった!」


「そんなっ!!」


「お嬢様!!ルーカス何事かね?」

 オットマーとロミーやケーテも起きてきた。


「見つかったらしいわ!王子達が来たのよ!」


「何と!すぐに逃げなくては!とりあえずお嬢様を連れどこでもいいから逃げるんだルーカス!私達のことは気にするな!」


「オットマー!!」


「お嬢様!お元気で!これ、僅かですが少し食料と治療薬です!」

 とケーテがリュックを渡す。私は手早く受け取り最後にロミーが…


「お嬢様を頼みましたよ!ルーカス!必ず逃げて幸せになるのです!」


「判った…元気で!」

 と私とルーカスは結界が割れたと同時に消えて森に着地したが…


 ボウンっと大きな音がして見ると隠れ家が燃えている!!


「そんなっ!!ケーテ!ロミー!」

 ついでにオットマー!!


「アリーセ!罠だ!俺達をおびき寄せる気だ!俺が行くからアリーセはここに隠れていて!」

 悪い予感がした。


「いやっ!ルーカス私も行くわ!」


「ダメだ!アリーセを狙ってるんだぞ!?ここに隠れているんだ!」

 その時野犬の吠える声が聞こえてなんとダミアンの声が聞こえた。


「どこだ!アリーセ嬢!近くにいるのは判っている!!早く出てこい悪魔!使用人たちは本当に死んでしまうぞ!?」


「くっ…ここで出て行ったら…見つかる!」

 ルーカスは悔しそうにしている。


「どうせ犬を連れてるから見つかるわ!皆を助けてまたすぐ移動しましょう…」


「罠だ…きっと王子も中にいる!俺をアリーセの目の前で殺させる気だ!そしたらアリーセは!!」


「ルーカス!!命令よ!!戻って!!」


「くっ………!!」

 ルーカスは私を抱えて燃える館に戻った。部屋の中央に皆が縛られていた。そして火が回らないよう一応術で守っている王子とライル先輩がいた。


「やあ、アリーセ…迎えに来たよ?」


「エドヴィン王子…なんなの…その目…」


「ふふっ…ごめんよ、君を取り戻す為に必要だったんだ…」


「貴方は!私なんかより可愛い子と恋をする運命よ!私に恋なんてしてるのは一時のこと!それに私の使用人にこんなことするなんて!!」


「ライル…アリーセを眠らせろ!」

 するとライル先輩がパチンと指を鳴らすと私の意識が途切れた。


「アリーセ!!」

 とルーカスの声が遠のいた。


 *


「うっ…」

 それから私は重い目蓋を開けると身体が自由でないことに気付いた。どこ?


 手枷…。それにぴちゃんと水音がした。

 顔をゆっくりとそちらに向けると…、心臓をグサリと異様な黒い剣に刺されて呻いているルーカスが黒い十字架に磔にされていた!それにダミアン達に普通の剣で何度も刺されている。

 足元にはルーカスの血が滴っている。


「ルーカス!!いやっ!!」

 すると灯を持ったエドヴィン王子が近づく。


「ひっ!!」

 私はベッドに寝かされ手枷を嵌められている。


「やあ…アリーセ……」

 ブツブツと蕁麻疹や吐き気が出る!


「困ったね…それ…仕方ないやはり眠っている間に君のハジメテをもらおう…これでも譲歩したんだ…2番目はダミアンになると思うけど君は眠っているから大丈夫。怖くないからね?」

 と恐ろしいことを言った!!


 こいつらっ!私を眠らせてる間に犯すつもりだわ!最低!!


「それもほら、ルーカスの目の前で愛してあげようね」

 ととんでもないことを言った!!

 ルーカスは今も心臓を刺されたまま…ダミアンや悪魔達に傷をつけられるが治ってはすぐにまた傷を受けている!酷い!それでもルーカスは


「アリーセに近づくな!!」

 と叫ぶ!!

 ルーカス…涙が溢れ出た。


「ふふふ…あれは冥府の黒剣でね?悪魔の能力を封じられるのさ。まぁ傷の自動回復はしちゃうんだけどね?ああやって黒剣が悪魔の心臓に突き刺している限りは奴は動けない。無様だろう?」


「貴方の方が悪魔だわ!一体どうしたの!?エドヴィン様!貴方そんなに酷い人でしたの?」

 私は叫ぶがまるで聞いていないかのようにエドヴィンは微笑む。


「それにダミアンもだわ!貴方それでも騎士なの!?」

 ダミアンは私の声に反応して振り向いて叫んだ。


「悪魔を滅ぼすのは騎士の務めだ!アリーセ嬢はこの悪魔に騙されているだけだ!こいつさえいなくなれば!!」


「貴方達だって悪魔を呼び出しておいて都合がいいわ!ふざけないでっ!!ルーカスを離してよ!!私が貴方達に処女を奪われたって!私の心はルーカスのものよ!!絶対に許さないから!この卑怯者たち!!」

 しかしエドヴィンは楽しそうに笑うだけだった。


 *

「ライル先輩…ケビ…」

 俺は契約に逆らえない先輩やケビの名を呼んだが、やはり無駄だった。主との契約は破れない。アリーセが犯されるのを見届けさせたら俺を殺すだろう…。もうなす術はないのか。


 しかしそこへ傷だらけの今にも死にそうなパトリックとアウロラが現れた!!


「お…遅れてごめんよ…ルーカスさん…アウロラの力が封じられててそれを解くのにちょっと無茶なことをした…」


「私の主を傷つけた!お前達!!許さない!!」

 アウロラは怒りで巨大な蛇へと変貌して襲いかかった!それにライル先輩とケビは応戦して俺への攻撃が止まった。

 しかしこの心臓に刺さっている剣が抜けず俺はまだ動けない!


 アリーセは吐いて気絶していた。くっ!!


「眠らせる前に気絶したか。大丈夫。少し綺麗にしてから僕が愛してあげようね…。」

 とエドヴィンがアリーセを抱き抱え風呂場に行こうとしている!くそっ!!


 そこにボロボロになったパトリックが俺の心臓に刺さっている剣を抜こうとしているがびくともしない…。パトリックは


「ごめん…僕操られて居場所を吐かされて僕のせいだ…ごめんルーカスさん…」

 と泣きながら力を入れてパトリックの傷口から血が溢れている!こいつ!死ぬぞ!?


 パトリックはダミアンに向かい叫んだ!


「ダミアン!!お願いだよ!手伝ってこれを抜いて!!アリーセ嬢が!エドヴィンに!!き、君は騎士だろ!!間違ったことする王子を止めてよ!!僕のことなんか後で痛めつけていいから!」

 ダミアンは…


「お、俺は…俺だってアリーセ嬢を愛してるんだ!エドヴィンは親友だ!親友が次にアリーセを抱かせてくれると言ったんだ!!」


「な、なんだよそれ…ダミアン…最低だ…アリーセ嬢は…君達のおもちゃじゃない!!酷いよ!アリーセ嬢が可哀想だ!!うっ!!どうしてだよダミアン!!」


「…………って…俺だって!」

 ダミアンは自分の無くなっている指を見た。


「ちくしょう!!」

 そして俺の心臓に刺さっている剣を抜き始めた!!


「ダミアン!!」


「休んでろもやし野郎!!ケビ!!ライルを抑えろ!」

 とダミアンが叫び、ケビは


「ライル先輩…すんません…うちの真面目主は打ち勝ったみたいだ…」

 とライル先輩に言い、ケビはライル先輩を羽交い締めにして動きを止める。


「まぁ…いいさ…俺はルーカスを殺すのが命令だ…」

 そしてアウロラが蛇の口から巨大な矛を出現させそれをライル先輩とケビもろとも投げかけた!!


 矛が二人を貫いたと同時に俺の心臓に刺さっていた剣がダミアンにより引き抜かれて傷が塞がる。俺は


「アウロラ!すまない!」

 と言い、アリーセと王子を急いで追った。

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