第22話 公爵令息とヒロイン

 パトリックは気付いた。

 時々お茶会をしにお茶や菓子を持ち寄り隠れ家の館へ行くと悪魔ルーカスとアリーセ嬢の纏うオーラが濃いピンク色になっている。

 このオーラは恋人同士という証のようなものだ。


 そうか…ついに2人は想いが通じたんだな。僕はどうやら失恋したね。でもアリーセ嬢が幸せならそれでいい。僕は身を引こう。あの2人と同じように見られるのは嫌だし。素直に祝福して上げようと街までお祝いの品を買いに行くことにした。


 ついでに僕の悪魔アウロラにも何か欲しいものがないか聞いた。しかし悪魔は特に欲しいものはなく強いて言えば血が欲しいとか童貞が欲しいとか言う。アウロラは子供の姿をしているけど本当は変化している。契約する時彼女が欲しがったものはやはり童貞だったのでまだアリーセ嬢を想っていた僕にはあげれなかったので変わりに手にキスをした。


 そんなんでいいのかと思ったがいいらしい。アウロラはめんどくさがりだから。


 アウロラと街を歩いていても僕はこの前髪のおかげと変装で全然貴族に見られないし人のオーラが見えるから怪しいオーラの人には近寄らないようにしている。


 そこで曲がり角の方から変な何かを企んでいるような紫のオーラの気配を感じたので僕は違う道から行くかなとアウロラに言うとアウロラは言った。



 未来を少し見通せるアウロラの目は


「この先にいるピンク頭の女…これから主にぶつかって誘惑して味方につけようとしている。何故か主のこと知ってるみたい。それに…主を利用してルーカスに近付こうとしているみたい」

 と言った。


「ええ?ピンク頭の女の子なんか僕知らないよ?会ったこともない。何かの力でも持ってるの?…利用?それにルーカスさんに近付く?」

 不穏な気配がするな。僕はアウロラに頼みこっそりそのピンク頭の姿を確認する為にアウロラに透明になる術をかけてもらい静かに物陰に隠れながら観察することにした。


 路地裏でスタンバイしているピンク色の髪で紺色の瞳の女の子が今か今かと誰かを待ち構えているようだ。


「おかしいわねぇ?今日はパトリックがお忍びで街に来る日じゃなかったかな?あれ?日にち間違えた?」

 とブツブツ言っている。しかも僕の名を呼び捨てにしていた。仮にも僕は公爵の令息で庶民に呼び捨てにされる謂れはないし、会ったこともない女の子だ。何だ?本当に何かアウロラみたいに未来が見える力があるのかな?ともかく危険だと思って僕はアウロラとさっさとお祝いの品を買う為にお店に入った。


「何がいいかな?」


「適当で」

 とアウロラはめんどくさそうに言った。


「ダメだよぉ…アウロラ…ちゃんと祝福してあげないと」


「主はアリーセを諦めていいなんて凄いね。他の人間なら何とか奪ってやろうとするもんよ。主だってその前髪を分けるだけで女の子にモテモテよ?いいの?ルーカスにあげて」


「ふふふっアウロラ…いいんだよ。あの2人の幸せなオーラが見えるのにそれを壊してまでアリーセ嬢を悲しませたりは僕はしない…。アリーセ嬢に笑っていて欲しいし、ルーカスさんもいい悪魔だ。あのエドヴィンやダミアンよりよほど僕は許せる…もし相手がエドヴィンやダミアンやヘンドリックなら僕は諦めなかったさ。君を呼び出したのもその為と言ってもいい。必要なくなっちゃったけど」

 と言うとアウロラは


「酷い!アウロラはパトリックに必要ないとか!」

 と怒った!


「わあ、違うよ!ごめんねアウロラ!呼び出した僕が悪いからね?でもアリーセ嬢の為に何かできることがまだあるかもしれないからやはりアウロラは必要だよ!協力してエドヴィンやダミアン…それにあのピンクの頭の子からルーカスさんやアリーセさんの幸せを邪魔しないように守ろうよ!」

 と言うとアウロラは


「主はお人好しだわ…。仕方ない」

 と一緒に可愛いカップのセットを買い、ついでにアウロラのリボンも買ってあげると


「こんなの別に後でコピーして術で出せるのに」

 と言っていたけど


「術は幻でしょ?これは消えないからまぁ持っておくといいよ」

 と言っておいた。アウロラはとりあえず首に巻いて縛った。頭につけるものなのに。まぁいいか。


 気を取られていてオーラに気付かなかった僕は店から出るとピンク頭とぶつかった!アウロラもリボンを気にしていたので先見が遅れたのだ。


 げっ!どうしよ!


「いたた…いたーい!足を捻ったわー!立なぁーい!」

 と彼女は猫撫で声で僕に助けを求める。

 ちょっとおかしい!ぶつかって足なんか捻る?演技だなと思った。


「…すみません、大丈夫ですか?」

 と言うと


「痛くて立ません!抱き上げてくださいます?」

 と言う。何でそんなことしないといけないんだろ!?初対面の人に恋人でもないのに!?図々しいと言うか、僕にはそんな体力あまりない。ダミアンやエドヴィンならともかく…。


 僕はとりあえず治療代を彼女に渡して


「す、すみません!急いでるので失礼します!!」

 とアウロラとさっさと逃げることにした。

 関わりたくない!!

 しかし彼女は逃すまいと僕の服を引っ張り僕はずっこけた。


「ちょっと、逃さないわよ?」

 とズリズリと馬乗りにさせられて僕の髪の毛をかき揚げ顔を確認した!


「あら、やはりイケメンだわ!!まぁ、あの方には及ばないけどこっちもキープはしとかないとね!」

 と意味不明なことを言ってる。

 しかしアウロラがドンっとピンク頭を突き飛ばして


「んぎゃっ!」

 とピンク頭は転がって壁に頭を打って気絶したようだ!


「今のうちに行くわよ主!」

 とアウロラに助け起こされて僕は隠れ家まで逃げた!!


 *


 私は隠れ家まで逃げてきたというパトリックの話を遠くから聞いた。


「そんなことが…」


「あのピンクの髪の人と知り合いなのですか?ルーカスさんに近付こうと僕を利用する為だと先見したアウロラが言ってましたけど」

 と言われる。やはり…ヒロインはルーカスを探してるんだわ!!


「ピンク頭?誰ですかね?」

 もはやルーカスは頭の色さえ記憶にないようだ。はぁっとため息をついて私は私たちを祝福してお揃いのカップまでプレゼントしてくれたパトリックを信用することにして全てを話した。


 パトリックは驚いていた。


「ええ…じゃああの人僕のことも狙っていたということ?キープってそういうことなんだ…」

 と納得していた。なんだか可哀想である。


「本来ならパトリック様ルートならヒロインのあの子と恋に落ちるところでしたのに」

 と言うと嫌な顔をしたパトリックは


「ええ…嫌です…あの子のオーラ企んでるの判ったから…ああいう人には近寄らないようにしてるんです僕」

 と言った。


「それがいいですわ。パトリック様、触らぬ神に祟りなしですわ。私の前世でのことわざ…ですわ」


「ことわざ…?」

 と首を傾げた。ルーカスは


「そのピンク頭のヒロインとか言うの何で俺を探してるの?他の攻略対象とやらに行くのが普通じゃないの?」

 と言うと


「ううん…だから私と街に行った時にルーカスにぶつかってルーカスに惚れたのだと思うわ…ルーカスはイケメン…カッコいいから」

 と言うとルーカスは照れて赤くなる。


「俺?そんなカッコいい?アリーセから言われると嬉しいけど他の女の子に言われても全然嬉しくないけど…何でだろ?」

 と言う。流石だわルーカス…。全然判ってない!


「ええ…ルーカスさんカッコいいですよ?あー…つまり顔がいいんですよ?自分で気付いてないのですか?」

 パトリックが助け舟を出した。オットマーも


「ふむ…ルーカス…お前は顔がいいのだぞ!?自覚なかったのか?王子とも渡り合えるくらいだ。私たちはお前の顔が悪かったらお嬢様との恋を応援してなかったかもな…」

 おい、オットマー!流石に失礼よ!?ほんと余計な一言言うわね!嫌い!


「お、俺って顔良かったのか!?あ、悪魔はあまり鏡を見ないんだよ…鏡見たら生気を持ってかれるような気がしてね」

 とアウロラをチラリと見るとアウロラもうなづいた。


「そ、そうだったの…じゃあアウロラちゃんも美少女だって気付いてないの?」

 と言うとアウロラちゃんは首を振った。


「私は魔界にいる頃に男の悪魔たちからモテた!いっぱい貢物してくれる奴多かったからそれなりに自分の顔は良いのだろうなと思っていたわ、そこのルーカスは鈍いだけじゃないの?」

 と言った。


「えええ!?あ…俺きっと男子校だったからだ!それにいつもライル先輩がいたし!!」

 とルーカスは納得したようだけど。


「ふーん、そのライル先輩とかいう悪魔…大丈夫なの?ルーカスのこと好きなんじゃないの?」

 とアウロラが言う。えっ!ライル先輩ってそっち系!?


 ルーカスは…


「うん、ライル先輩いい人だから俺も好きだよー?それがどうかしたの?」

 おおっ…なんてことだ…。

 そしてその場にいたルーカス以外の全員の顔が白くなった。

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