第12話 悪魔ヒロインと衝突する

 私とルーカスは早速魔女アルファに相談に行くことにした。オットマーは


「お嬢様、私も付いて行きましょうか?」

 と言ったが、


「ごめんなさいオットマー…ルーカスの指パッチンで連れて行ってもらうからすぐに戻るわ。オットマーまでルーカスにくっついてきたら流石に私も蕁麻疹出るし、オットマーの加齢臭で吐きそうになるかもしれないから留守番していてね」

 と言うとオットマーは


「お嬢様…行ってらっしゃいませ!」

 と涙目で見送った。


 ルーカスは私の肩を抱き指でパチンとやり一瞬で魔女アルファの家に到着する。

 アルファの家はこじんまりとしていて庭にはいくつかのハーブが植えられている。中から派手な音が聞こえた。


 ガシャーン!!


 ボンッ!!


 窓から白い粉が舞い、ルーカスと2人で顔をしかめた。

 とりあえず来訪のベルを鳴らす紐を引っ張ると中からアルファの弟子の白髪の赤目のメガネ少女が出てきた。


「お客さんらあ、へへっ」

 と粉まみれになった弟子アデリナが出てきた。


「アデリナ!お前!また失敗したな!?」

 と怒った顔の魔女アルファがやってきた!スラリとした身長に弟子と同じ白髪に赤い目だが肌は赤黒い褐色をしていた。

 私に気付くとニヤリと笑う。


「待っていたよ、アリーセに悪魔ルーカス!」


「待っていた?」

 私は不思議そうに聞くと


「ああ、先見の力でね。お前達が困ってここに来ることなんぞお見通しじゃぞい!」

 と胸を張る。


「……ここにも王子達が来てアルファ様は彼等に本を売ったのですね?」

 と言うとアルファは


「んーまぁ、商売だからのぅ、飯を食うには金がいるんだ!で、お前はルーカスの本を小さくして胃に隠そうとしているね?だが、ルーカスが気絶したら術が解けて腹の中の本が戻っちまうと…」

 そこまで解るなんて流石魔女だわ!


「それでだね、万が一ルーカスが気絶した時に腹の中の本が元に戻らないようにしてほしいのだな?ならばこれを使うといい」

 と前世で見たカプセルのようなものを見せた。


「それに小さくした本を入れて飲み込めば気絶しても術は解けない!特別に金貨50枚でどうだね?」


「金貨50枚!?」

 たっっっか!!


「もちろん本物でー、ルーカスの術で金貨を出すのは無しじゃぞい?幻だからな」


「くっ!40枚では?」


「48枚じゃな…嫌なら他の奴に売るかな。これ一つしかないから早いもの勝ちじゃな」

 とアルファが言う。


「わ、判ったわ!払うわ!」

 と私はお金を支払いカプセルを受け取った。こんな入れ物に金貨50枚なんて!!

 でも先に王子とかが手に入れてなくて良かった!!


 これにルーカスの本を入れて飲み込めば王子は手を出せない!勝ったわ!


「毎度ありー!」

 とアルファはニマニマ金貨を数えた。

 魔女の家を出て私はニコニコとカプセルを見つめる。早速ルーカスに本を小さくしてもらいカプセルに入れた。後は飲むだけ…。あ、アルファに水を貰えば良かったけど…。あいつ水代も請求しそうね、どうせ払うのなら…


「ルーカス…街へ行って飲み物とついでにチーズコロッケ買っていい?」

 と言うとルーカスはフッと笑い


「いいですよ?行きましょうかお嬢様」

 と手を繋ぐのでまたドキリとした。ルーカスの手大きい。安心する。


 街に着いてルーカスがチーズコロッケと飲み物を買ってきて早速カプセルを飲み込んだ。


「おおーっ…これで主の胃に俺の本が収まったね!もう悪魔でも取り出せないよ!」

 と何故かルーカスはとても嬉しそうに頰を染めた。風邪かな?


「ルーカスもチーズコロッケ食べる?」

 と半分渡すとジッとチーズコロッケを見つめる。


「人間の食べ物かあ…まぁ食べれるけどね…」

 と言うので


「悪魔は普段どんな食事をしてるの?」

 と気になった。


「別に食べなくても平気だよ?食べようと思えば食べられるよ。……上級悪魔は人を食べるって聞いたよ」

 と言うので流石に青ざめた。人…食うの?

 それにルーカスはけらけら笑い、


「あはは、主を食べる悪魔はいないから安心してよおー?」

 と笑った。

 ルーカスはパクリとチーズコロッケを食べてペロりと舌を出しその色気あるイケメンさにちょっとクラリときた。ドキドキして感想を待つと


「うん、美味しいね!」

 と笑って私はホッとした。


「でしょう?チーズコロッケは美味しいのよ!!オットマーにも買っていこうかしら?何だかんだで巻き込んでしまったし…顔とか見ると気持ち悪いけど根はいい人だしね」


「じゃあ、俺もう一つ買ってくるよ!」

 とルーカスが立ち上がり歩くと曲がり角から少女がぶつかってルーカスは咄嗟に少女を支えた。少女とルーカスの目が合い、私は少しズキリとした。


 そしてよく見るとその少女は…なんと【メアリー】だった!ヒロインである!!そんな!!


「えと…大丈夫?」

 とルーカスが言うとメアリーはポッと頰を染めて目を潤ませて言った。


「だ、大丈夫です!私こそごめんなさい!不注意でした!あ、あの…貴方のお名前は?」


 待て…何でぶつかって名前聞くわけ!?不味い!私はルーカスが


「俺はル…」

 と言おうとして後ろから口を塞いだ!


「むぐっ…」

 言わせるものか!知らせるものか!と必死に口を塞ぐ!ルーカスは訳が判らないようだ。


「あ…貴方は…もしかして…」

 と私に気付くヒロイン。薄桃の髪に紺の瞳が交差した。


「い…行くわよ!こんな所でグズグズしないのよ!」

 とルーカスを引っ張りヒロインが追ってこないのを確かめて路地裏に隠れる。ヒロインは不思議な顔をしている。


「…なんなんだ主?」

 ルーカスは顔が少し赤いようだ。やっぱりまた風邪でも引いたのかしら?それともまさかヒロインを見て?


「あれはヒロインよ!メアリー・ブラント!危なかったわ!ルーカスの名前を知られなくて良かった!」

 と言うとルーカスは


「何でヒロインに名前を知られたらいけないんすか?」

 と言うので、まぁ確かにルーカスは彼女の攻略対象者ではない。でも彼女はルーカスを見て頰を赤くしたしなんか嫌であった。まるで出会いスチルみたいに見えたし!


「とにかく!ヒロインと関わりたくないから貴方を知られるのも嫌なのよ!ルーカスは…彼女を見てど、どう思ったの?」

 一応確認してみる。するとうーんと唸り


「いや、普通にぶつかってきた通りすがりの女としか…。それ以外何も感じなかったですけど、あれがヒロインか…」

 と言う。


「可愛いとか思わなかったの?」

 と聞くと


「はあ?あんな一瞬であんまりじっくり顔見てないので可愛いと思う暇すらなかったですけどー?ていうかもうどんな顔してたか忘れてきてます。俺記憶力弱いなぁー」

 と頭を掻いた。


 あ、これ大丈夫かもしれない…よ、良かった…。私はホッとしてルーカスに笑顔で


「戻りましょう!ルーカス!」

 と言うとルーカスはまた少し赤くなった。やっぱり風邪なのね?


「で、でもオットマー執事長のチーズコロッケは?」


「え?まぁ、仕方ないわ。また今度で!とにかくヒロインから離れましょう!もう二度と会わないようにしたいなぁ…」

 と私とルーカスは侯爵邸に戻ったのだった。

 *


「何?あのイケメン…すっごいタイプだわ!!やだどうしよう!まさか攻略対象よりカッコいい人見つけちゃったなんて!ああ!どうしよう!!もう攻略対象どうでもよくない?あの人の名前なんて言うんだろう!!?」

 とメアリーが胸をときめかせていたことを私はまだ知らなかった。

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