第9話 恋に気付く

「ルーカス!!顔を見せて!!話しましょう!」

 と言うとルーカスは部屋の扉をようやく開けた。


 久しぶりにというか昨日ぶりに見た顔だ。ちょっと複雑な顔をしている。


「お嬢様…俺に近付いて平気?またしんどくなるんじゃないの?」


「へ、へ平気よ!手紙が面倒くさくなったのよ!不整脈はときどき起きるけど大丈夫よ!私が死ぬならルーカスは次のご主人様と契約すればいいことよ!」

 と言うとルーカスは…私を抱きしめて


「それは…嫌…です。主…死んじゃうのは嫌だ」


「私の血が飲めなくなるからかしら?」

 ルーカスはビクリとした。やっぱりだわ。

 血が目的だから従う。契約があるから死ぬまで従う。


「そうじゃないけど…確かに主の血は特別に美味いけど、普通に長生きしてもらいたいよ…。命大切に!」

 とこの悪魔は悪魔らしくないことを言った。


「ルーカス…」

 仕事モードの時はルーカスは私をお嬢様と言い、素の時は私を主と呼ぶようだと気付いた。


 その時誰かの足音がして私は咄嗟にルーカスのお部屋に隠れた!!


 お部屋を見ると本当に黒一色だった。

 証明もどことなく暗い。まぁ悪魔が真っ白な色を好むとか思えないしね。


 というか…さっきからルーカスに抱きしめられたままだわ!!


「主長生きして?幸せにならないと俺は悲しいよ」

 と言われる。

 根本の問題である男嫌いを治す方が手取り早い。だが、ヒロインと揉めるのも嫌だった。


「根本の男嫌いを治す術はあるの?蕁麻疹や吐き気がなくなったりするものよ」

 と言うとルーカスは首を振る。


「主…悪魔は人を騙す術しか使えない。治すっていうのは無理。神官とかそういう治療術を持ってる特殊な人もいるかもしれないけど、悪魔には無理。


 本人が怪我をしていてもそれをまるで治ったかのような幻覚を見せることはできても実際には治っていない…そういう騙す術が悪魔は得意。ごめんね?呪いとかも得意だよ。」

 そっか、悪魔だしそうよね。私が他の人に醜女に見える術も結局は騙す術だしね。しかもルーカスが気絶したら解けてしまう。


「ルーカスは私が幸せになって欲しいと言うけどあの攻略対象者の誰かに最初こそ惚れられてもいずれ不幸になる私を見るのがいいの?私…悪役令嬢だしそうなる運命なの。私はあのゲームやったけど悪役令嬢の私は最後どの攻略対象からも言われるの…


『君を好きだった時もあったかもしれないけど今は【メアリー】が好きだし、君がそんな酷い子だとは思わなかった!もう二度と僕の前に現れないよう遠くに行ってもらうし、君の家ももう終わりだ』


 とね。大体そんな感じよ。卒業式には必ず言われてうちは没落していくの…。私は遠くへ…もしくは一番嫌なのが娼館ルート。いろんな男の人の相手をさせられるの」


 ルーカスはたぶん娼館がどんな所か判らない。いろいろとピュアだからね…。


 するとルーカスは少し身体を離して綺麗な顔で見つめた。


「娼館って何?いろんな男の人の相手って?」

 私はため息を吐いた。


「好きでもない男の人に処女を奪われて身体に触られてそれからも違う人に触られて汚されて行くの。男嫌いの私はそうなる前に自ら命を断つことになるわね」

 と言うとルーカスは驚いて目を開いた。たぶん処女が何かも解らないだろうけど触られて私に蕁麻疹や吐き気が出る症状を心配してるだけだろう。


「それは…酷い。可哀想だ、もしそのルートに入ったら…だから、入らないように俺を呼んだんでしょ?俺は契約したから主を守るんだ…契約は絶対だからね…。死ぬなんてさせないよ…」

 と安心させるように微笑まれドキリとした。


 私はもう判ってる…。


 ルーカスが…好き…。


「うん!そうよ!だから、改めて!私を守ってルーカス!攻略対象者から全力で逃げるわよ!フラグを叩き折り、私とは関わらないようにするの!」

 ルーカスは私がいつもの調子に戻ったので安心したようだ。


「主が望むなら悪魔は願いを叶えるだけだよ?」

 と言い笑う。綺麗ね、いつもそう思うわ。ルーカス…。私が唯一触れても大丈夫な私の悪魔…。


 私は…初めて恋をした。しかも悪魔に。もしかしたら魅了されてるのかも。悪魔だし。

 それでも…いいわ。ルーカスは…この悪魔は超天然でお人好しで変な悪魔なんだもの。


「ありがとうルーカス…じゃあ…お皿とナイフ頂戴?」


「え?主なんで?」


「貴方に血をあげるのよ…」


「は!?な、なんで??」


「あげたいからよ…欲しくないの?」

 するとルーカスはゴクリと喉を鳴らし


「ほ…欲しいけど…俺酔っちゃうし…主痛いよ?」

 と怪我するのを心配する。


「大丈夫よ。少し切るだけよ。ルーカスが私を守ってくれると約束したんだから改めての報酬。機嫌がいい時にもらっておかないと後悔しても知らないわよ?」

 と言い、私はルーカスに小皿をもらいナイフで傷つけて血を垂らした。


 痛い…。でもルーカスは恍惚な表情で血を見ている。私はルーカスに血を渡すとじゃあねと部屋から出ようとするとルーカスが


「主!手当て!!」

 と包帯を出した。そして綺麗に巻いてくれる。


「ありがとうルーカス…。すぐ治るから平気よこんなの」

 ルーカスは申し訳なさそうな顔をした。

 よしよしと頭を撫でてあげる。いつもは逆だものね。


「あ…れ?何か変なの…?」

 とルーカスは言う。


「?何が変なの?」


「主といると…暖かい…」

 暖房代わりかしら?よく抱きしめられるし…そういうことだったのね?ルーカスったら!


「それじゃ!また明日から対策を練るわよ!じゃあね!」

 と今度こそ部屋を出て私は自分の部屋でルーカスへの恋を自覚してベッドに寝転がった。


 *


 主が出て行ったので俺は小皿の血を眺めた。酷く芳しい匂い。極上の血だ。主は俺の為にまた自分を傷つけて血をくれた…。心が痛い程暖かい気持ちが満ちていくことに俺は気付いた。

 先輩が惚れてると言っていた。


 バカな俺でも惚れてるとか恋とかは知ってる。娼館とか処女とかはまた先輩に聞こう…。

 お皿の血を舐めるとやはり極上の味がした。顔が熱くなりこれが主の血で俺の…好きな女の血かと思うとドキドキした。


 そのまま酔っ払い俺はフラフラとベッドに寝転がった。


 *

「おはようございます!お嬢様!」


「おはようルーカス!!」

 お互いににこりと微笑む。


((気付かれないように完璧にしなきゃ))


(いい主人に)


(いい悪魔に)


((貴方に恋をしてると気付かれないように))

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