第8話 悪魔と文通と不整脈

 朝だ。

 私はベッドから起き上がった。

 昨日このベッドに…ルーカスに移動させられ…間近で顔を見られてまた不整脈が出てしまった。…蕁麻疹は出なかったけど…やはり…病気かもしれない。


 ルーカスは心配していたけど…。


 そう言えば今日はルーカスの顔見てない…。するとドアの下の隙間から手紙が見えた。


 黒い封筒を開けるとルーカスからだった。


「何なの??直接言えばいいのに」

 そこには


(お嬢様、お加減は如何ですか?苦しくないですか?風邪でしょうか?それともやっぱり俺が側にいると不整脈を起こすようなので暫くはこうしてお手紙でやり取りを致しましょう。用事がある時は手紙でお呼びくださいね?俺はいつも隣の部屋にいますので)


 と書かれている。

 なっ…何て面倒な!…でも不整脈のこともよく判らないし…その方がいいのかしら?


 私はペンを取り出した。


(ルーカスへ

 私は大丈夫です。今のところ症状は落ち着いているわ。昨日は怒鳴って悪かったわね。念のため今日は休むわ…。昨日貴方の先輩とやらが来たし…。しばらく男から離れているわ。食事はメイドに頼むから貴方も部屋で休んでいて結構よ


 アリーセ)


 としたためて私はルーカスの部屋のドアの下に手紙を入れておいた。

 するとスッと手紙が取られてドキリとした。


 ま、また不整脈?一応顔は見ていないのに?

 部屋に戻ってもドキドキと不整脈がする。

 隣の部屋でルーカスが私の手紙を読んでる!

 ど、どんな返事をしてくるかしら?

 って…返事ってそんなの(判りました)くらいのものじゃない!

 何の期待を?期待?ばかなっ!


 ドキドキドキドキと私の不整脈は治らない。

 そして手紙はまたドアの下に出てきた!!

 返事だ!


 私は素早く取り中を開いて読んだ。


(お嬢様へ

…良かった、とりあえず無理しちゃダメですよ?横になって今日は休んでくださいね?先輩が迷惑かけてすみません!結局処女が何か聞きそびれてしまったんで、今度また聞いておきますね。お休みなさい。


 ルーカス)


 と書かれていて私はドキドキしてベッドに潜り込んだ。別にこの不整脈は苦しいわけじゃない…ちょっと熱いだけ…。

 ルーカスにまた不整脈が出たと書いたら心配しそうだから…書かない。


 目を瞑ると昨日のルーカスの至近距離の顔が浮かんだ。赤い目は恐ろしくもあるけど綺麗でサラリとした黒髪も高い鼻も薄い唇もルーカスは全て整っている顔だ。前世で言うイケメン。


 ドキンドキンと不整脈は治らない!

 隣の部屋が妙に気になる。

 ……そう言えばルーカスの部屋に入ったことないわ。改良したって言ってたけど…元は空き部屋で家具を少し置いてただけだわ。


 私は気になり手紙を書いた。


(ルーカスへ

…そう言えば貴方の部屋ってどうなってるの?改良したって言ってたけど)

 と書いて私は部屋のドアの下に入れて自分の部屋に戻った。


 数分後にまた手紙は届きちょっと嬉しくなった。


(お嬢様へ

 改良したの怒ってますか?とりあえず俺は黒が好きなので部屋中真っ黒な色にしてみました!壁紙も黒でベッドも黒!明かりのランプシェードも黒。バスタブも黒!机も黒!こだわりですね!


 ルーカス)


「何それ!それじゃ黒くないのはルーカスの目だけってこと?くすっ」

 と面白くなる。暗闇に光る赤い目とか、何のホラールームよ!私の隣の部屋は!


(ルーカスへ

 そう言えば学園に入ったら新入生歓迎パーティーでドレスを着ないといけないの!王子の婚約者だから王子の髪や瞳に合わせて作らないといけないの…凄く嫌だわ…どうしよう…


 アリーセ)


(お嬢様へ

 無理をして着なくても好きな色のドレスを着ればいいでしょう?婚約破棄してもらいたいなら違う色にしてみたらどうでしょうか?


 ルーカス)


 ……違う色…そうね…金と緑の反対色は何かしら?黒と赤?……ってそれって思い切りルーカスの色だし!!ダメダメ!


 また不整脈が!!


 それに婚約破棄は学園に入る前にしてもらわないとヒロインに絡まれる!しかも他の攻略対象者と被らない色って何?青い髪にアイスブルーの瞳はイケメン教師の色だし、紫に白の瞳はイケメン護衛騎士だし。金色に緑の瞳はイケメン公爵令息だし。先日の宰相の息子は栗色に紺の瞳。


 婚約者のいる女性は皆相手の男性の髪や瞳の色を取り入れたドレスを着るという謎の習慣がある。被らない組み合わせを考えるが私にも嫌いな色はある。ピンクだ。ピンクという女の子らしい色代表のようなものがどうにも嫌いだ。…ならばオレンジや黄色当たりはどうだろう?

 緑…赤…


 一見あり得ない茶色とかどうだろうか!?センスがないし古そうな色だしダサい!アクセサリーは黒。ちょっとルーカスの色が入るがこのダサい色ならもはや醜女にはぴったり!!誰もダンスに誘おうとは思わないでしょ!更にデザインもダサいのにしてなるべく誘われないようにパーティーが始まったらどこか人目につかない所に逃げておけばいい!


「私!天才!!」

 早速この案をルーカスに書いてみた。すると


(お嬢様へ

 そもそも学園入学前に攻略対象と完全に縁切りしないといけないのでは?でもある1人は学園に通ってからになりますね、イケメン教師だけは。全回避ルートは学園に行かなければいいことですが。


 ルーカス)


 ぐっ、その通りだわ!やはり学園に行かない方法は病気になるかいなくなるか死ぬか…。

 手紙を書こうとして私は便箋が切れたことに気付いた!これじゃ伝えられない…。

 ……まどろっこしいわ!不整脈が何よ!どうせ死ぬのならドンとこい!


 そして私はルーカスの部屋の扉をノックした。


「ルーカス!便箋が切れたわ!!」

 と声をかけると何とスッと下から新しい便箋が添えられた!そうだわ、こいつは悪魔!言えば何でも揃うのだ!わざわざ会う必要もない!


 ルーカスは気を遣って私と会わないようにしてくれている。ズキン。


 ズキズキ。なんだろう?今度はとても心が痛い。悲しい。


 ルーカスとちゃんと顔を見て話したい。きっとまた不整脈が起きるかもしれないし、ルーカスに迷惑をかける。


 でも限界。何の?


 判らない。ただ、ドキドキしたり、ズキズキしたりの不整脈は顔を見なくてもどの道起こるのだと思った。

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