6、放蕩息子の話と律法学者との問答

 イェースズ師弟はそのままベタニヤに帰った。もう日が長くなりはじめていて、春ももうすぐという感じだ。

 ゼベダイの長女のマルタがイェースズや使徒たちの食事を準備している間、その妹のマリアはずっとイェースズの話に耳を傾けていた。


「マリア!」


 マルタが厨房からいくら呼んでも、マリアはイェースズの話に熱中していて返事もしなかった。もう一度マリアを呼ぶ声が厨房から響いたが、マリアは気のぬけた返事をしただけですぐに視線をイェースズに戻した。たまりかねてマルタは、イェースズとマリアのいる部屋に来た。


「ちょっと、マリア。いい加減にしなさい。姉さんは一所懸命夕食の支度してるのに、あなたは」


 そしてマルタは、イェースズに目を向けた。


「ちょっと先生ラビ、言ってやって下さいよ。この子ったらこんな所にちゃっかり座りこんで、手伝いもしないで」


 イェースズは笑って、顔を上げた。


「マルタ。気を使ってくれて嬉しいんだけどね、あんまりマリアを責めないでやってくれ。それに私はこの家では客ではなく、家族の一員として迎えてくださっていると思っている。だから私をもてなそうと気を使ってくれるのはありがたいけれど、もっと大切なことがあるんだよ。人間が人間に仕えるんじゃなくて、人が神様に直接奉仕する天の時がやがて来るからね。マリアは今、その話を聞くということを選んでいる。だから、どうか彼女を責めないでほしい」


「でも」


 マルタは、少し首をかしげた。


「やはり先生ラビ先生ラビです。弟のヤコブやエレアザルの先生ラビでもありますし、お父様からも大切におもてなしするよう言いつかってますしね。ねえ、先生ラビ。やはり先生ラビ先生ラビらしく、もっと偉そうに威張って下さいよ。そうでないと、なんか感じがつかめない」


 イェースズは大声を上げて笑った。


「私が偉そうにする? そんなことは金輪際できないよ。私は人々の下に入って救う役だからね。私が一番罪穢が深いから、そういうお役目を頂いている。そのことを考えたら、とても威張るなんてことはできない」


 と、あくまで下座を行じる姿を、イェースズはマルタやマリアに見せた。


「私は人々に仕えられるためではなく、人々に仕えるために来たんだ」


「でも、もっと威厳をもって人々に話したら、もっとたくさんの人が集まるんじゃないですか」


 イェースズはますます笑った。


「そうかもしれないけど、そんなふうにして集まった人は、またすぐに去っていくんじゃないだろうかね。あくまで神様は、因縁の魂を導けとおっしゃっているんだよ。そんな小細工をしなくても、因縁のある人は光を求めてやって来るものなんだよ」


 イェースズはベタニヤから日帰りで週に二、三回はエルサレムに赴いていたし、エルサレムでは神殿の庭で人々に説法をするのが常となっていた。イェースズがマルタにそのように言っていたように、果してイェースズが行くと自然と人は集まってくる。そして、話し始めるとたちまち黒山の人だからになるから不思議だった。イェースズには磁石のように人々をひきつけるものがあるからだろう。

 もちろん、信奉者は毎日イェースズが来るのを待ち構えている。また、待ち構えているのは信奉者ばかりでなく、どうも苦手なパリサイ派の律法学者も多かった。


 この日は使徒十二人すべてではなくアンドレとナタナエルだけつれて、イェースズは神殿で説法をした。だいぶ遅くまで神殿にいたので、春の到来間近とはいってもまだ冷たい風が頬に当たった。

 二重門を出て、神殿から退出して来た巡礼の参拝者の群れの中にイェースズと二人の使徒も混じって歩いた。


「おお、先生ラビ


 人ごみの中から、イェースズを呼ぶ声があった。さきほどまでイェースズの話を聞いていた人々の中にあった顔だ。


「お話、素晴らしかったです。本当に、ありがとうございます」


 イェースズよりずっと年上の太った中年男なのに、その目には涙さえ浮かべていた。


「我われは罪びとと虐げられて、もはや神様からは見放されていると金銀財宝だけを心の頼りに贅沢な暮らしをしてきました。自暴自棄になって、神様から遠ざかっていたんです。でも、今日はじめて先生ラビのお話をうかがって我われにも救いがあることを知り、人生の転機にもなりましたよ。本当に、ありがとうございます。何とお礼を言ったらいいか」


 イェースズは、ニッコリと笑った。


「そうですか。それはよかったですね。あとは、今日聞いたことを生活の中で実践してくださいね。神理のミチを知らないのならまだしも、聞かされてしまった以上は実践しないと本当の救われにはなりませんよ」


「はい。本当に先生ラビのお蔭で、神様と出会うことができました。先生ラビがいらっしゃらなかったら、いつまでも暗闇の中を歩いていたことでしょう」


 彼は自分で罪びとと言っていたが、その服装から収税人であることは明らかだった。


先生ラビ、今日は私の家でご馳走させて頂けませんか」


 イェースズはナタナエルやアンドレを少し見てから、


「そうですか。では、そのお気持ちをありがたく頂戴することに致しましょう」


 と、言った。

 その時、いつの間にか律法学者が二人、イェースズのそばに来ていた。ナタナエルなどは、またかと言う顔で眉をしかめていた。案の定、学者はイェースズと収税人の話に割って入ってきた。


「あんたの話を、聞かせてもらっていたよ。そうしたら今は、あんたは神の教えを説きながら罪びとと同席しようとしている。それはいったいどういうことなんだ」


 大勢の巡礼者の波が立ち止まっているイェースズたちにぶつかっていくのでイェースズは道の脇に移動し、学者もしつこくついてきた。


「言っていることとやっていることが違うのではないかね?」


 イェースズは学者にもにこにこ笑っていた。


「どう違いますか? 私は何のやましいこともしていませんよ」


「おお、ぬけぬけと。なぜこのような罪びとと食事の席を同じくするのか、そのわけを聞こう」


 学者たちの目が輝いた。なんとかイェースズを捕らえる口実を見つけようと、彼らは組織だって執拗にイェースズを追い掛け回しているのである。

 イェースズはゆっくりと話しはじめた。


「百匹の羊を持っている人がいて、そのうちの一匹がいなくなったら九十九匹を野原に放しておいても、いなくなった一匹を探しに行くでしょう? そして見つけたら大喜びで、近所の人を集めて祝宴をするんです。神様からご覧になっても、九十九匹の羊が熱心さゆえに一匹の羊を追い落としても、その一匹を探し出そうとされます。そして、再び自分のもとへと招かれるんです。神様の愛は、そのたった一匹の羊でさえ見放したりはなさいません。いなくなっていた羊が再び帰ってきた喜び、お分かりですか?」


「しかし羊は、九十九匹がまだいるんだろう? その九十九匹の羊はどうでもいいのかね?」


「いいえ、どうでもいいというわけではありませんけど、その九十九匹の羊は、律法という柵からは決して出ない従順な羊たちですからね」


「ふん。我われは羊飼いなどではないから、そんな話をされても分からん」


「では、人間でお話しましょう。例えばある兄と弟の兄弟がいましてね、兄はそれは父親に忠実でした。でも弟の方はこれがまたひどい遊び人で、財産を分けてもらうとさっさと異国へ行って遊んで暮らしていたんです。ところがすぐに財産を使い果たして、それで豚飼いにまで身を落としましてね」


「豚飼い?」


 ユダヤ人の感覚では、これほど最下層の人はいない。ユダヤ人は豚を汚れたものとして考え、決して飼ったり食べたりはしないのだ。


「異国へ行ったから、そこでは豚を飼っていたんです。そしてその息子は、豚のえさで自分の腹を満たそうとさえしたのですよ」


「豚のえさだって?」


 学者たちは、露骨に顔をしかめた。もうそうなると、人間ではないというに等しい。


「さすがにその息子もこれには耐えられませんでしてね、それで家に帰る決心をしたんです。すべての罪を詫びて、もう息子と呼ばれる価値もないからせめて雇い人としてでも家に置いてくれと頼もうと思っていたんですよ。ところが家に帰ると父親も母親も大喜びで、上等の服を着せて指輪もはめて、肥えた仔牛を一頭つぶしてご馳走を作り、祝宴まで開いたんです。ところが怒ったのはその息子の兄ですよ。自分は一度も父親の言いつけに背いたこともなく何年も仕えてきたのに、自分には子山羊一匹くれたことはなかったってね。それなのに身を持ち崩したあの弟のためには仔牛をつぶしてご馳走するなんて、いったいどういうことなんだって」


「そりゃそうだろう。その兄の気持ち、わかる」


「いや、ちょっと待ってください。そこで、父親はこういったんです。『おまえはいつも父のそばにいたではないか。十分に私の恩恵を受けている。だがあの子はもう死んだと思っていたのに、実は生きていて戻ってきたんだから、こうして喜ぶのは当たり前だろう』ってね」


「何を言っているんだ。その兄が怒る方が当たり前じゃないか。だけど、それがどうだと言うのだ。いったい、何が言いたいんだ」


 学者は怒ったように言った。


「その怒り方は、放蕩息子の兄の怒り方そのものですね。いつも父のそばにいる、言いつけにも背かずに仕えているという心の油断が、やがてはと慢心になるんですよ。そんなことではたいへんなことになりますから、気をつけないといけませんね。先ほどの話の中の兄が鼻にかけているのは、つまりは伝統と権威ということでしょう? でも神様は伝統と権威にあぐらをかいている人よりも、放蕩息子の回心の方をお喜びになる。私もあなた方が追い落とした一匹の羊を探し、放蕩の末に悔い改めた弟の方へと歩み寄るんですよ」


 イェースズは笑顔でそう言い残してナタナエルとアンドレをつれ、収税人とともに城壁をくぐって下の町へと入って行った。

 収税人は罪びととされていても経済的には裕福な人が多く、イェースズが招かれた家でもごちそうが次から次へと出る宴会となった。宴席はイェースズと二人の使徒、そして収税人の四人だけだった。ここでもイェースズはよく飲み、よく食べた。招いた収税人の主人も上機嫌だ。


「いやあ、先生ラビはよく神様のことをご存じだから、お酒なんか口になさらないのかと思っておりましたが」


「残念ながら私も一応は肉体を持っている人間なので、おいしいものはいただきますよ」


 イェースズは大声で笑った。その場は皆、明るい笑い声と陽の気で包まれていた。


「ところで先生ラビ、やはり我われのような、自分で言うのも変なのですが金持ちは、神の国には入れないんでしょうか」


 イェースズは肉を一つほおばり、酒を口に運んでから言った。


「昔、ある金持ちの所のお金の管理人が不正をしていましてね、そのことが自分の主人にばれそうになったので、その主人から金を借りている人を集めてこっそりとその証文を書き換えてやったんですよ。油が百樽だったら五十樽に、小麦百コロスだったら八十コロスにっていうふうに。そうしたらですね、そのことがすぐに主人にも知れたんですけど、主人は怒るどころか逆にその管理人をほめたんですよ」


 収税人は、意外な顔をした。イェースズは笑いながら話し続けた。


「主人は実はその管理人の不正に早くから気づいていまして、自分にばれないわけはないのにこいつは果たしてどうするだろうかと様子を見ていたところだったのです。ところが、管理人はやけになって主人の財産を全部使い込んでしまうのではないかと思いきや、かろうじて残っている権限を使って他人様の利益を図った。それをほめたんですね」


 イェースズは少し声を落とし、幾分真顔に戻って収税人を見た。


「今の世の中は、まだ逆法の世なんです。だから、人々の知恵はよくまわる。神様も必要があって今の物質中心の世の中へと切り換えなさったのですから、まあ今のうちは少しくらいの不正なら許されるんです。でも、それで人に損害を与えたり傷つけたりしたら魂の曇りといいますか、罪穢を積んでしまうんですね。今、金持ちであるということは前世で善徳を積んできたその受け取り役だということもいえましょうけど、財産を築くためには何かしらの罪は必ず積んでいるものです。でも、そんな曇り深い財産でも、正しいことに使えば、神様は寛大なお方ですから許して下さいます。でもですね」


 イェースズは一段と声を落とし、それでいて力強くささやいた。


「いつまでもそんな神の甘チョロ時代ではないですよ。やがては許されない天の時が来るんです」


「え?」


 収税人は、パッとイェースズを見た。


「いつ、来るんですか」


「さあ、それは私にも分かりません。でも、いつかは来るということだけは確かですね。ですから、なるべく不正の富は積まない方がいいんじゃないでしょうか」


 収税人は目を伏せた。収税人が不正の富を積んでいないわけがないということは、凡人にも容易に理解できることだ。しかもイェースズは、その霊眼ひがんですべてを見抜いている。だがイェースズは、再び明るく高らかに笑った。


「過去はいいんですよ。今ある財産をせめて世のため、人のために使うことですね。すべての財産も神様から頂いたものだと心得て、自利自欲のためでなく神様のため、つまり神の子であるすべての人びとの至福のために使わせて頂くんです。そうすれば、それがアガナヒとなって罪も消えていくんです。そうしないと、やがてはもっと大きなアガナヒを受けなければならなくなります。これは脅しでも何でもないですよ。そういうふうに世界は創られている。いわば一種の法則ですね。神様はすべての人類が神の子ですから、人類がもうかわいくてしょうがないんです。だから、一人残らず救いたいんです。でも、魂が曇っていたら、救えないんですよ。魂が曇っているという状況それ自体が、救われを拒絶した状態ですからね」


「しかし先生ラビ、神様が救うことができないっておっしゃいましたけど、神様は全智全能でできないことはないのでは?」


「確かにその通りです。ですから魂が曇って救われの状態にない人は、まずは自分で世のため、人のために奉仕し、人を救って歩くことで自分の魂の曇りを取るのを神様は待っておられます。でも、そういうことをしない人も神、様にとってはかわいい神の子ですから救わなければならないんです。そこで神様のお力で、魂の曇りを取ってくださいます。それを我われ人類は『不幸現象』と呼ぶんです。病気や事故などで健康を害したり、対人関係で悩んだり争ったり、財産を失ったりとかですね。災害などもそうです。すべて、神様がその人の魂をきれいに洗濯してやろうという大きな愛のみ意から発せられるもので、本当はそういったことが起こったら感謝するしかないんですね。それなのに人々は『不幸だ、不幸だ』と神様を呪ったり、挙げ句の果てには神様なんていないんじゃないかなんてとんでもないことを言う人もいる。あのヨブでさえ、最初はそうでしたでしょう。ところがすべては、神様の愛のお仕組みなんですね」


「でも先生ラビ、あ、疑問ばかりはさんで申し訳ないんですけど」


「いいんですよ」


 イェースズはニッコリ微笑んだ。


「疑問を疑問のままにしておくのは、よくないことですから。どんどん聞いて下さい。聞かないと疑問はどんどん膨れ上がって、それが邪霊に付け入るスキを与えてしまうんです。それで、何でしょう?」


「あ、はい。魂の曇りですか、その罪のアガナヒのために不幸現象を神様が起こされるって言われましたけど、どう見ても罪のない義人でさえ不幸な目に遭うことがあるのがこの世の中じゃないんですか?」


「義人と見えてもですね、それは他人の肉の目で見た結果でしょう? 神様がご覧になる目は違いますよ。心の中まですべてお見通しですからね。また、確かに今は義人でも、過去世においてみんな何かしらの罪穢を積んで、それを背負ったまま生まれてきているんですよ」


「え?_過去世ってなんですか?」


「今生きている人は、生まれてくる前に、そう、何百年か前に別の人間としてこの世で生きていたんです。そしてその時一度死んで、魂はもう一度別の人間として赤ちゃんとして生まれてきているんです」


「え? そんな話、初めて聞きました。人生は一度きりじゃなかったんですね」


聖書トーラーには書かれていません、書かれていないからあの学者さんたちは目くじらを立てて否定しますけれど、どんなに否定してもあるものはあるんんです」


「ほう」


「それで、その前世、つまり前に生きていた時に犯した罪に対してでさえ、たとえ覚えていなくてもそういったアガナヒ現象は起きますからね。要は、不幸現象という神様からのお洗濯を頂戴するか、それよりも先回りして他人に善行を施すことで自分で自分の魂をきれいにしておくかですよ。魂がきれいになったら、もうアガナヒの現象が起こる必要はなくなりますからね。必要がないことを、神様はなさいません。そうなるともう人は、放っておいても幸せになります。こういったことを踏まえてですね、あなたも自分の財産をしっかりと管理なさったらよろしいかと思います。この世の財産も管理できない人には、神様は神の国の霊的財産の管理は任せてはくれません。神様と財産の両方を主人にして仕えることは、たとえ今の世でもできないことなんです」


 分かったのか分かっていないのか、収税人は顔を赤くしながらもとにかくうなずいて聞いていた。

 

 翌朝イェースズが辞して収税人の家の門を出ると、そこにはもう律法学者が待ち受けていた。この日は二人いた。


「さあ、罪びとの家に泊まったわけを聞こう。昨日のようなたとえ話では分からないぞ。返事次第では、あんたも罪びととしてエルサレムから追放する」


「そればかりか、ひと言でも神を冒涜しようものなら、石打ちの刑だ!」


 この石打ちの刑というのが学者たちの本音だ。それでもイェースズは穏やかに微笑んで、学者たちを見渡した。


「これはおはようございます。朝早くからご苦労様です」


「なにっ!」


 イェースズの丁重なあいさつも、学者の耳には皮肉に聞こえたらしい。ナタナエルとアンドレだけでなく、見送りに出た収税人もイェースズの背後に立っていた。


「この間ですね」


 イェースズは、穏やかに話しはじめた。


「神殿であなた方のような律法学者の方が、大声で祈っていましたよ。『異邦人の家に生まれず、イスラエルの民として生まれたことを感謝します。奴隷ではなく、自由人として生まれたことを感謝します』って」


「そんなのは、子供の時から教えられた普通の祈りじゃないか。それがどうしたって言うんだ」


「まあまあ、お聞きなさい。そのあとがあるんです。ちょうどその時に隣に収税人が来て祈りを始めようとしていたんですけど、それを横目でチラッと見た学者さんは、こう祈ったんですよ。『自分は姦淫もゆすりも不正もしたことはありませんし、この収税人のような罪びとでもないことを感謝します』ってね。しかもその収税人にも聞こえるような大きな声で、おまけに収税人を直接指さして祈っていたんですね。ところが収税人の方は神殿の前でも天を仰がずに目を伏せましてね、自分の胸を叩いて小声で祈っていたんです。『神様、どうかこの罪びとを哀れんでください』ってね。とにかく、それしか祈れなかったんでしょうね。さあ、どちらが神の国に近いと思われますか?」


「ばかな質問には答えない。それよりもまさか、あんたはそれが罪びとの方だなどとほざくんじゃないだろうな」


 もう一人も言った。


「罪びとの方が神の国に近いのなら、善人はなおさらじゃないか」


 イェースズは、一呼吸おいてから言った。


まことに言っておきますけど、善人が神の国に近いのなら、悔い改めた罪びとはもっと神の国に近いんです。昨日もたとえ話でお話しましたけど、自分が善人だって思っている人はもう自力で十分というと慢心がありますから、神様は自力で十分ならもういらんだろうと手を貸して下さらない。でも、自分を罪びとだと認めて悔い改めるなら、自分ではどうしようもないだけにひたすら神様にすがろうとしますよね。その、すがる心が神様に通じるんですよ。そして、自分はこの点が至らない、ここが足りないと自覚して精進努力していくうちに、いつしか自分を善人だと思っている人を追い抜いて救われのミチに入っていってしまうってことです。天国では自分を価値あるものだと高ぶっているものは追い落とされて、自分は至らない、他人ひと様には頭が上がらないと下座に徹する人は、神様がスーッと上に引き上げてくださるんです」


 イェースズは振り返って収税人に笑顔で一宿の礼を言ってからナタナエルとアンドレとともに、律法学者たちを残してその場を立ち去った。

 

 翌日は朝早くから、イェースズは十二使徒全員を連れてエルサレムに上った。

 いつもの神殿が見える広場に着くと、もうイェースズの信奉者たちは集まっていた。また、信奉者というほどではないにしろイェースズの話を聞くようになっていた人々も、この日はやけに多かった。

 その信奉者たちの心に動揺があるのを、イェースズはすぐに察知した。イェースズが祭司や律法学者を論破したという話は、時々神殿のそばで説法をしているイェースズの名前くらいなら知っているという人の間にはほとんど知れわたっていた。

 だからといって、イェースズを英雄視するわけにはいかない。イスラエルの民にとって祭司と律法学者は、それぞれ立場は違うにせよ共に尊重されるべき権威なのである。その感覚は、イェースズの信奉者とてなんら変わることはない。だから自分たちが尊重する権威を自分たちの師が論破したということになれば、一種複雑な感情になるのである。

 だからイェースズが人々の前の石段の上に立つと、まだ説法を始める前に、若い農民風の男が、


「あのう、一つお聞きしたいんですが」


 と聞いてきた。


「何でしょう」


 イェースズは今日もニコニコしている。


「あのう、学者さんたちのことなんです。先生ラビはいつもあの方たちと言い合っていますけど、あの方たちはあの方たちで先生ラビのことをもろくそ言っています。先生ラビの信奉者になったら、会堂シナゴーグから追い出すとも言っていますしね」


「具体的に、どのようにもろくそ言っているんですか」


「とても私が口にできるようなことじゃあありません。ただ、本当に先生ラビを信じていいのでしょうか」


 イェースズは微笑んでうなずいた。


「私のことをいろいろ言っている方たちって、少なくとも百人でもいいから人を救った経験をお持ちなんでしょうかねえ」


 群衆は静まり返っていた。イェースズは続けた。


「どうもないようですね。そういう方々の方を信じるというのならば、私は何もひきとめはしません。裁きもしません。皆さんのご判断にお任せします」


「でもですね」


 と、後ろの方で声が上がった。

 これも若者だが、知識層のようだ。イェースズの信奉者というより、まずは話を聞きにという感じで来ている人のようだった。


「学者先生は、あなたの教えは敵対者サタンの教えだと言っていますが」


 別の者も、声を上げた。


「商人たちは、あなたがここでこうやって人を集めている真の目的は金儲けだて言ってますよ。巧みな脅しで恐怖感を与えて人々を集め、神に選ばれたという特権意識を与えて抜けられなくしているって。あるいは病気で苦しむ人を狙って、弱みにつけ込んで教えを広めているとか。奇跡のわざというのも全部いんちきで、癒された人というのも最初から打ち合わせ済みの芝居だとか、そもそもあなたの出自が危険集団としてヘロデ王に弾圧されたヨハネ教団の幹部でヨハネ教団から分派独立した人で、教えはすべてヨハネ教団からの盗用で独自のものはないのにその経歴を隠しているとか。シロアムの塔倒壊の大惨事を、布教のネタにしているとか。それにガリラヤにいるあなたの妻は、もと娼婦だとかもいいふらしていますけど」


「こら」


 と、ペトロが前に出てその発言を制したが、確かにほとんどが根も葉もない中傷である。妻のマリアが娼館の多いマグダラで働いていたのは事実だが、マグダラで働く女がすべて娼婦ではないということは世間の色眼鏡の前には通用しないらしい。

 ここまで言われるのかとイェースズは少し悲しくなったが、顔はにこやかに言った。


「今のお話に対する判断も、皆さんにお任せします。私の妻云々は、私の個人的なことですから皆さんとは関係ありません。皆さんの信仰とも関係ないはずです。ただ、神様はどのような所からでも、因縁のある魂なら吹き寄せられます。現在の状態で人は判断できません。人の善悪を決める行為は、神様の権限を犯したものですよ。ましてや、ある人をその人の過去で裁くということは、決してしてはいけないことです」


「ただですね」


 と、また別の声が上がった。


先生ラビのこと、救世主メシアであるはずはないから、騙されるなと学者たちは言うんですね。なぜなら、救世主メシアはベツレヘムで生まれるはずで、ガリラヤ出身のはずがない。また、ダビデ王の子孫でないといけないはずだとかも」


 イェースズは、神殿の方へ少し目をやった。まだ朝早いので、あまり巡礼の参拝者はいないようだ。


「いいですか、皆さん。ダビデ王が聖霊に導かれて著したと言われているあの詩篇テヒリームに、こう書かれていますね。『主である神は、私の主である救世主メシアに仰せられる。“私があなたの敵を完全に征服してしまうまでは、私の王座に着いていなさい”』って。つまり、ダビデ自身が救世主のことを主と呼んでいるんですよ。それなのに、救世主はダビデの子孫なのですか?」


 人々はまた、静まり返っていた。


「それに、たとえ私が本当にダビデの子孫であったとしても、私はそのことを自らの権威付けのために使ったりはしません」


 人々、少なくとも信奉者の間からは、安堵のため息が漏れた。律法学者よりもイェースズの言っていることの方が理にかなっていると、多くの人が認めたからであった。

 

 その日の夕食時、ゼベダイの屋敷の一室でイェースズと十二人の使徒すべてが円座して座っていた。


「ところで先生ラビ


 と、食事をしながらトマスが顔を上げた。


「今日のエルサレムでのお話ですが、律法学者っていやらしい人たちですねえ」


先生ラビのこと敵対者サタンだなんて、自分たちの方が敵対者サタンなのではないか」


 そう言ったイスカリオテのユダも、薄ら笑いを浮かべていた。


先生ラビ


 と、聞いたのは、小ヤコブだった。


「律法学者って、そんなにけしからん人たちなのですか」


 学者の権威による束縛から解放されていないのは使徒たちも同じようで、ほんのわずかだが動揺はあるようだった。

 イェースズは杯を干してから、小ヤコブだけでなく十二人全員を見わたして口を開いた。


「いいかね、彼らは決して敵対者サタンじゃないよ。彼らとて神の子だし、神様を求めるという点では非常にまじめなんだな。一途なんだ。モーセの教えについて、権威あるものとして人々を導こうとしている。だから、あの人たちの教えは間違ってはいない。むしろ正しい。根本は、正しいということだ。なにしろ彼らが説いているのはモーセの教えなんだから、間違っているはずはない。だから人々が、あの学者さんたちが説く教えを忠実に守って生活するのはいいことだ。だけども問題はだね、その教えを実践するかどうかなんだよ」


 イェースズはもう一度、十二人の顔を見わたした。誰もが食事の手を止めて、食いいるようにイェースズを見つめている。


「さすがに今日、人々の前では言わなかったけれどね、言うと悪口や批判になってしまうから言わなかったのだけど、あの学者さんたちが自分で説いている素晴らしい教えを自分で実践しているかどうかについては、疑問を感じないわけにはいかないんだよ。言っていることとやっていることが違うというのを、神様はいちばんお嫌いになる。それとね、彼らの説く教えはモーセの教えだとは言ったけど、やはり何百年もの時間がたつうちに、モーセの教えにも人知の尾びれがつけられ、捻じ曲げられてしまっている。人々はその教えを実践するどころかどんどん施行細則が人知でつけられて、最初の教えとはまるで別のものになってしまって、実践が難しいものになっている。『律法は奥が深いからちゃんと学校で勉強して、長年研究してはじめてその奥義は分かる』なんて学者さんたちは言っているけどね、考えてもみてごらん。モーセの時代は、今ほど文明が発達していなかったんだよ。モーセに従って荒野を旅したイスラエルの民は、無学文盲の人々だったんだ。長いことエジプトで奴隷生活をしていたんだし、今と違って当時は学校なんてものはない。そういった無学の大衆に向けてのモーセの教えが今の律法のように難しいもいのだったら、当時の何人が理解できただろうかね。私には疑問だね。真理とは分かりやすいものなんだ。そして、聞いたらすぐ実践できるものなんだ。それが人知によるこじつけでこねくり回し、そうすればするほど難解なものになって、実践できないし救われないものになってくるんだね」


 使徒たちは、うなずいて聞いていた。


「朝の祈りの時には聖書トーラーを入れた経札ヒラクティリーを頭と左腕につけたりして、しかもその四隅に房をつけているなんて、偉そうに見せかけるための虚栄だからあなた方はまねしないように」


 イェースズの口ぶりがおかしかったので、使徒たちは一斉に笑った。


「それにね、人は偉くなると宴会でも広場でもやたら上席に着きたがるけど、そんなのも人々から尊敬されることだけを求めるような虚栄心からだから、これもまねしないように」


 また、使徒たちは笑った。イェースズも、いっしょに笑っていた。


「いつも言っているようにあなた方もみんな神の子なんだから、つまりは兄弟ってことになる。同じ神様の子なんだから、兄弟だろ。兄弟っていうのは、同じ父親を持つってことだよね。そしてその父親は一人だろ。そのへんを歩いているおじさんをつかまえて、『あ、お父さん、お父さん』なんて言うかい?」


 またその場は笑いの渦になった。


「これと同じでね、あなた方の、そして全人類の真のお父さんはおひと方なんだ。それが、神様だよ。だからあなた方は虚栄心で高ぶるのではなく、すべての兄弟の従者しもべだというくらいの下座の心で奉仕すべきだ。あなた方は神様の、しかもいちばん新しい教えを直接聞かせて頂くことを許されているだけに、このことはいちばん気をつけなければいけないことだ」


先生ラビ


 と、ピリポが口を開いた。


「私たちは小さい時から律法学者のことをラビラビと呼んで見習ってしまう癖がついていますけど、あの人たちのどんな点が最も間違っているんですか」


 イェースズは微笑んでうなずいた。


「私は、対立の想念を持つことはよくないから否定も批判もしないけど、誤りは誤りとして正していかないとね。第一に、人々を導く役が人々の前で天国の門を閉ざして人々を入らせないようにしているだけでなく、自分も入ろうとしないんだ。それも、そんな意識は当事者たちは持っていないから始末が悪い。今言ったように律法に人知の尾びれをつけて実践不可能にしてしまっているし、中にはまあ一部の人だろうけど未亡人の家を食いものにしているようなやからすらいる。そして見栄のために、長い祈りを捧げる。とにかく霊的に無知になっているから、指導される方はたまったものじゃない。本来は人々を霊的に導いていかなければならないはずの専門家が、霊界の仕組みや霊界の置き手に全く無知でいらっしゃる。祭司さんたちなんか魂の転生再生はおろか霊界の存在、霊魂の実在さえも否定しておられるんだから何をか言わんやだよ。これじゃあ目が不自由な人と同じでね、そんな人々が同じように目が不自由な人の手引きをしているんだから、危ないっていったらありゃしない」


 使徒たちの目は、イェースズに釘付けになっていた。


「十分の一税を厳守していることなんかを誇りにしている人もいるけどね、もちろんそれも大事なことだけど、でもそういった伝統に執着するあまり、律法の中でもっとも大切な愛の実践をないがしろにしている人もいるんだ。この間話したエリコへの砂漠の中での、盗賊に襲われた人の話の通りだよ。あの時はみんないたよね?」


 使徒たちは、一斉に返事をした。


「あの時は、聞いていたのが当の律法学者だから、砂漠で倒れた人のそばを最初に通りかかったのをレビ人ということにしておいたけど、本当はパリサイ人の律法学者だって言いたかったんだよ。それに、ガリラヤにいる時の話だけど、私やあなた方が食事の前に手を洗わないと目くじらを立てた人もいた。この中の何人かは、その時いたよね。でも、確かに食事の前は手を洗った方がいいが、彼らは外面はそうやってよく洗うのに内側を洗わない。いや、どうやって洗ったらいいのかも分からなくなっている。この杯の」


 イェースズは近くにあったぶどう酒の杯を高く掲げた。


「外側はきれいに磨いても、内側は全く洗わないで次の日もぶどう酒を入れて飲んでいるのと同じだ。内面を洗って霊的に浄まるということが、心とからだをも清めるということが分かっていない。霊的なことが全く分からなくなって、心の教えにとどまっているからだよ」


 イェースズはそのまま掲げた杯のぶどう酒を飲み干したので、使徒たちはまた笑った。

 小ユダが、顔を上げた。


「じゃあ。彼らの教えはモーセの教えとは違うものになっているんですか? 先生ラビはさっき、彼らの教えはモーセの教えだから間違いないとおっしゃったじゃないですか」


「いや、根本は間違っていない。根底にあるのはモーセの教えだからね。でも、どこかが違ってきている。どんどん人知の尾びれがついている。しかしそれも悪意からではなくて、自分たちはそれが正しいと思いこんでいるから始末が悪い。でも、やはり神様の眼からご覧になったらずれているんだね。それに、神様のご計画だって、もう何千年もたてば進んできているはずだ。昔の迫害された預言者の墓を立てて、自分たちはその預言者の血を流した人々の仲間ではないってことが最近になって盛んに言われるようになったどね、今のこの時代の神殿にモーセが現れて説法をはじめたら、彼らはモーセを石打ちの刑にしてしまうだろうね」


 驚きの声が、何人かの使徒から発せられた。現にエリアの転生のヨハネを、王は処刑してしまっている。だが、イェースズはそのことについては、あえてここでは言わなかった。


「人造化衣けごろもで身をかため、人知の儀式と形式ばかりを追従する人は、偽善者といわれても仕方がない。彼らが一日も早くそのへんをサトって、祭司、レビ人、律法学者の化衣人造位階を脱ぎ捨てて、頑迷の目を、手を斬り下ろして、神様の前に一列揃いすることが、神様のみ意なんだよ。だから、モーセの原点に元還もとがえりするべき時だね、今は」


 イェースズはそこまで一気にしゃべって、使徒たちに食事を続けるように促した。


 それの数日後、イェースズは手続きを取って十二人の使徒たちといっしょに神殿に参拝し、参拝が終わって美門まで出てきた。そしてその門の脇には、奉納箱が置いてあった。


「そう言えばこの間ナタナエルとアンドレだけをつれてきた時に、学者さんたちは税のことでいろいろ言ってきたそうですね。ナタナエルから聞きましたけど」


 と、ペトロが聞いた。イェースズがうなずくと、さらにペトロは言った。


「この神殿への献金はどうなのでしょうか」


「もちろん、必要だ。その時も言ったのだけど、神様からお借りしたものは神様にお返しすべきだ。ただ、お金を入れればいいってものじゃない。神様は高利貸しじゃないんだよ。神様はお金を必要としておられない。現界的には、ここに入れたお金は結局レビ人や祭司の給料になる。それならば入れない方がいいのかというと、とんでもない。神様は、本当は人間からお金なんかもらわなくてもいい。ただ、そのお金に込められた人間の真心をお受け取りになるんだ。だから、お金を入れるという形式だけじゃ何の意味もない。それこそ宗教屋さんたちを太らせるだけだ。そうではなくて真心を神様にお捧げする、それを形に表すのが献金なんだよ」


 イェースズは、奉納箱のそばで立ち止まった。周りを参拝の人々が、イェースズには無関心にどんどん神殿の方へ流れていく。


「神様から頂いているご守護への感謝、今もこうして生かさせて頂いているということへの感謝が大事だ。何事もなく平穏に暮らせているというのが、最大のご守護でありお恵みなんだよ。そのことへの感謝と、さまざまな罪と穢れのお詫びとアガナヒ、そういったことを形に表してこそまことが神様に通じるんだ。そのための手段が、献金なんだね。人間がいちばん執着を持つのが金だ。その執着を断って神様に捧げられるか、その心を神様はご覧になっている。要は心だ。真心だ。だから、もったいないなあというようなけちな心で献金したり、仕方がないと義務感で献金したりしたらその心が神様に通じてしまうから、かえって御無礼になる。そんな心の時は、献金するのはやめた方がいい」


「それにしても、みんないくらくらい入れているんだろうか」


 神殿税は額が決まっているが、こういう所での献金は任意である。だから、イスカリオテのユダが、うそぶくように言った。イェースズは笑った。


「額の大小じゃないんだよ。神様はその人の財布の中身までご存じだ。だから、分に応じてさせて頂けばいい。例えばここで金持ちの人が、多額の献金をしたとしよう。でも、そのあとである未亡人が、最少額のレプタ銅貨を二枚入れたとしたら、どっちがたくさん入れた?」


 普通に考えれば金持ちの方だが、イェースズが言うことである以上そういうことではないだろうと察して、使徒たちは皆首をかしげていた。


「もう、答えは分かっているね。金持ちはあり余っている中からその一部を献金したんだけど、未亡人にとってはそのレプタ貨二枚が収入のほとんどだったんだ。さあ、どっちだ?」


 使徒たちは異口同音に、


「未亡人です」


 と、答えた。

 その時、石段の上から役人が降りてきた。


「あのう、邪魔なんですがねえ。どいてくれませんか」


 使徒たちが奉納箱を囲むように立っているので、献金したい人たちができずに待っていたのである。イェースズは慌てて詫びを言い、使徒たちを端に寄せた。

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