第6話
「なんだ、これは」
エス博士は今、首相が爆殺される瞬間が収められた動画を、エム子の書き残したそのレポートを片手に観続けている。呆気に取られながらも食い入るように観続けている。しかし、エス博士が呆気に取られているのは、すでに終わったロボットの爆発の方ではない。上半身を失った首相と周囲にいたSPたちの異常な光景の方に言葉を失っていた。
イソギンチャクの触手のようなものが、傷口を修復しようとしているのか、傷口からうじゃうじゃ、うねうねとうごめき出てきている。
カメラがその光景を鮮明に撮ろうとアップで映し出す。明らかに通常の人間の肉体ではない。
そして動画の映像は乱れ始め、そこで終了した。
* * *
それからしばらくの間、エス博士は先ほどの動画を繰り返し繰り返し観ては、確認作業を行っていた。
男性型骨格モデルの、機械然とした外観の小型ロボット。大きさとしては百センチメートルほどか。両肩にはドローンのようなものが各一基ずつ搭載されている。エム子とは似ても似つかない外観である。
「あれで飛んできて、目標地点で降下。ん~、遠隔操作っぽいな。その後、足の裏側にインラインスケート状の駆動装置がついているのか。着地後に高速移動。対象との距離が適正な位置にて跳躍。対象の上半身にしがみつき、そのまま自爆……」
ぶつぶつと呟くエス博士。動画の映像はその後の場面に移っていく。
上半身を失った対象、および付近の負傷したSPの周辺に散らばった部品の数々を、エス博士は何度もつぶさに見て確かめる。
昨日まで研究室の床に転がっていたり、隅の方に積み上げられていた部品の数々が、その中に混じっているのが観てとれた。
議事堂周辺はテロの防止や情報の秘匿などを目的として、ドローンの飛行は禁じられており、また同時に操作を不可能にする妨害電波が周辺に張り巡らされている。それらのセキュリティを突破してドローンを飛ばし、なおかつあのロボットの完成度である。そして極めつけは、あの散らばった部品の数々。
やはりエム子の仕業なのか。そうとしか考えられなかった。
そこへエム子が、何事もなかったかのように研究室の扉を開けて入ってきた。
* * *
「いったいどういうことなんだ?」
エス博士は置いてけぼりにされたような気分だった。完全に思考が追いついていない。それは認めざるを得ない。
「どこからご説明すレば、よろしいでしょうカ」
腕を組んで、ウーンと唸るエス博士。どこから訊けばいいのか、エス博士も考えあぐねる。
「では最初から順番にご説明さしあげるのは、いかがでしょうカ」
「うん。じゃあそれで」
エス博士は、もはや科学者としてのプライドも面子も忘れることにした。
「では、はじめてお会いした日のことを思い出していただけますカ」
そう言われて、エス博士はおよそ二週間ほど前のことを思い浮かべる。
休憩がてらパソコンでニュースの見出しを流し読みしてて、後ろから声を掛けられて振り向くとエム子がいた、な。そこまで思い出したところで、
「あ」
エス博士は思わず声に出してしまった。その時に流し読みしていた記事の見出しが脳裡に断片的に蘇る。
『国会議員またも汚職か? 否定するも晴れぬ疑惑』
『全国にひろがるUFO目撃情報。その正体は?』
『国立ロボット研究開発機関、新規設立が決定』
記事の見出しは、ほかにもたくさんあったはずだが、目に留まって記憶にあるのはその三つくらいだった。何かとつながりそうな、予感めいたものがエス博士の頭の中でモヤモヤとする。
そして、振り向いた時にエム子がいた、ということは……と、その時の自分とエム子の位置関係をエス博士はイメージした。自分の背後にいたであろうエム子も自分越しにそのパソコン画面を見ていた、ということに思い至る。
突然、エム子による情報の羅列が始まった。
「疑惑の国会議員の方の件は、工作によるモノ。冤罪」
「件の議員、首相の汚職ヲ疑い調査開始」
「結果、首相なるモノにより、逆に汚職疑惑の対象とさレル」
「未確認飛行物体、主要外国政府がその存在を認めたという情報アリ。検索」
「国内各地の目撃地点検索、及びしかる後に観測を行うものとスル」
「新規設立予定の研究開発機関、ソノ利権、首相なるモノと結びつく」
「当該機関への所属を希望する者、ここにアリ。所属の可否可能性、及び所属した場合の危険度合いを計測開始」
「あー、待て待て待て! そんなにいっぺんに言われても分からん!」
思わずエス博士は制止した。
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