不合格
麻城すず
不合格
「好きだ」
……って男の子に言われるのは初めてじゃない。
女の子生活15年も続けていたら2度や3度の告白くらい受けたことはあります。
あります、が。
こんな告白の仕方ははっきり言って初めてですよ。
演劇部、部室。仲良しのアイちゃんと壁にもたれてダラダラと打ち合わせというか雑談というか。
この日は異様に出席率が高くて部員はほぼ勢揃い。顧問のセンセも珍しく来ていて部室の人口密度は近年まれに見る高さ。
そんなあたしの前に来たのは後輩のユタカ君。
いきなりあたしとアイちゃんの間の壁に手をついたから「邪魔だよ」と怒ったら、もう片方の手で顎をつかまれた。
「先輩、おれと付き合ってよ」
……えーと。
これは嫌がらせか?
少女漫画に出てきそうなちょっぴり強引な仕草にドキドキ!
……とはなるわけもなく思わずあたしはユタカの頭を撫でて
「お前アホだろ」
つい思ったままを言ってしまった。だけど、めげない。周りの視線も何のその。
「いいじゃん。俺とつきあってよー」
「付き合わないっ!」
クスクス漏れる忍び笑い。
「なーんだよー。俺メチャクチャ本気で言ってんのにー」
はあ、と体を離して頭を抱えると落ち込んだ様にしゃがみ込んだ。
「30点ってとこかな。不合格ー。次はシチュエーションに気を使うこと」
はい、添削終了!
そう言うと周りから遠慮がちな失笑が。先生まで笑ってる。
まあ、ね。別にユタカのこと嫌いなわけじゃないんだけどさ。
この状況で告白ってまるでさらし者みたいだし?
これですんなりOKしちゃったら絶対冷やかされまくりだし?
「じゃあ、合格したら付き合ってくれんの?」
「…検討はする、かな?」
「疑問形かよー」
くっそー!! とか言いながら友達のところに戻って行くユタカを見ながらアイちゃんがそっと「いいの?」と聞いてくる。
「何が?」
「ユタカ君手が震えてたよ。ほんとに本気だったんじゃないかなぁ? 」
そんなの言われなくても分かってるって。顎に触れた手から直に伝わって来る熱、振動。すっごい緊張してたよね。
「あいつにはも少し大人になってもらわないと」
アイちゃんは肩をすくめた。
周りの状況さえ無かったらきっと即答でOKしてた。
しっかしこの状況の告白を真面目に返せるほどあたしの面の皮は厚くないんだっての。
恥かかせちゃってごめんね。次は即答できる様な告白の仕方考えて。期待して待ってるから。
友達に冷やかされてるユタカの背中に心の中で囁いた。
不合格 麻城すず @suzuasa
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