004 人妻に課題を出されます。
そして休日。
「ああ、面白かった~公彦君はどうだった?」
「面白かったですけど……」
未晴と向かい合った席に着く公彦は顔をポリポリと掻きながら、なんとも言えない表情を浮かべている。
「この映画のドラマ観てないから、設定分からないところが多すぎて……」
「残念、けっこう面白かったのに」
二人は映画を観た後、そのまま近くのレストランで夕食を摂っていた。
そこで食事に舌鼓を打ちながら映画の話をしていたのだが、今の公彦の感想が出てきたのだ。
「もったいないな~」
「でも面白かったですし、今度レンタル店で借りてみます」
「う~ん……ちゃんと観るかな?」
疑問気な眼差しを向けられ、公彦は若干居心地を悪く感じてしまう。しかし未晴は違うとばかりに、軽く手を振って誤魔化した。
「いや、公彦君が悪いわけじゃないんだけどね……小学校の時とかって、ドラマとか観てた?」
「まあ、テレビを観ている時にやっているのを眺めていた程度ですけど」
「その内容って、覚えてる?」
公彦は首を振った。
思い出そうと思えばできるかもしれないが、普段は特に気にしないので、記憶に留めることがないからだ。
「そう。人間の記憶なんて曖昧なんだから、その時その時で楽しまないと」
「人間、ってそんなに忘れやすいものですか?」
「歳を取ると余計にね~特に使わない記憶とかはさ」
未晴は自分に呆れている、という具合に額に手を当てている。
「だから公彦君が観るのを忘れるかもしれないし、観た頃には私が忘れている可能性もあるからね。だから忘れたくない思い出とかは大事にした方がいいよ~」
「結局お説教ですか……」
「年上のお姉さんのアドバイス程度に思ってくれればいいよ。私も君位の時には同じように感じていたと思うし」
私も歳を取ったな~、と未晴は手の中で弄んでいたフォークをテーブルの上に戻した。
「そろそろ出よっか」
「あっ、未晴さん」
伝票片手に立ち上がる未晴を、公彦は慌てて追いかけた。
「奢りますよ」
「あまり年下に奢らせるのもね~、今日はお姉さんの奢り」
悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言われてしまうと、公彦には何も言えなかった。ちなみに映画は割り勘である。
未晴が会計を済ませてから、二人はレストランを後にし、帰路につく。その道中、公彦は少し拗ねた様に呟いた。
「結局歳の差、って大きいんですね……」
「焦るなって、若者よ」
「ごほっ!?」
バン、と未晴に背中を何度も叩かれてしまい、思わず公彦は咳き込んでしまう。
「そのために義務教育とかがあるんだって。ゆっくり成長したまえ~」
「俺、義務教育終わって、今高校生なんですけど……」
しかし、公彦のツッコミを未晴が気にすることはなかった。
「足りないならその分成長すればいいだけだって。なんなら教えてあげよっか」
「……教える、って?」
年上のお姉さんに教えてもらう。
その状況に思わずエロいことを考えてしまう公彦だが、その通りになるとは限らない。いやそれでも期待してしまうのが男子高校生の
「まあ、エロいっちゃエロイけど……旦那もいるし、その前段階だけね」
「前段階?」
首を傾げる公彦に、未晴は少し先にある公園を指差し、そこへ寄るように
ここは未晴の住む公共住宅近くにある、近隣住民用に用意された公園だ。今は日も暮れているので、公彦の様なカギっ子すら帰宅して人っ子一人いない。
「モテる男に限って、恋人付き合いが下手な奴が多いって知ってる?」
「いや、初耳です」
「それはね。苦労して口説いてないから、女の子の扱いがなっちゃいないのよ」
公園内にあるブランコを囲っている手すりにもたれかかった未晴は、公彦を招き寄せる。
「大抵の男は、女の子を口説きながらその辺りの加減も覚えてくんだけど……モテる男ってそんな苦労していないから、自分の趣味か自慢話しかしなくてあっさり別れちゃうのよ」
「ええ……いやでも、それでも女の子といい関係になれるんだったら」
「婦女暴行魔か
「うわぁ……」
あまりの現実に、公彦は思わず項垂れてしまう。その様子を眺めながら、未晴は楽し気に話を続けた。
「だからそうならない為にも、女の子の扱い方や付き合い方を覚えていかないといけないのよ。お分かり?」
「はい……あれ? 最初から付き合ってうまくいくパターンもあるんじゃあ…………」
「それは最初から互いの相性がいい時。普通は大なり小なりずれがあるから、交際期間で調整できるか見るの」
未晴は足をばたつかせて、ロングスカートの裾を揺らしながら立ち上がる。
「そうならないためのやり方を教えてあげようという、お姉さんの優しさよ。これを覚えて彼女作りな」
「え!? 未晴さん、俺と付き合うとかは……」
「だ~から人の奥さん口説かないの」
軽くでこピンを当て、未晴は腕を後ろに組んでから公彦の顔を覗き込んだ。
「というわけで第一ステップ……の前に聞きたいんだけど」
「あら……」
軽くズッコケる公彦に笑いつつ、未晴は指を立てて問いかけてくる。
「公彦君、本当に童貞? エッチな
「正真正銘の新品未使用ですっ!」
「それでお姉さんナンパするとか……公彦君本当素質あるよね」
妙に感心している未晴にむず痒く感じるも、今の公彦にはあけすけな会話に返事をするのが精一杯だった。
「じゃあ第一ステップ、女の子の触り方から教えてあげよう」
「触っていいんですかっ!?」
「お~お~、正直だねぇ少年。それじゃまず初めに……」
身体を起こした未晴は、公彦にそっと右手を差し伸べてきた。
まずは握手か、それとも手の甲にキスか。
分からないがとにかく手を取ろうと公彦は右手を持ち上げて……
「はい、違う」
「あたっ!?」
……思いっきり未晴にはたかれてしまった。
「まったく……いきなり女の子に触っていいと思ってるの?」
「あてて……駄目なんですか?」
「まずは相手をそういう気分にさせないと。握手一つとっても、無断で勝手に手を握ったりしないでしょ?」
「あ~確かに……」
痛む手を
「というわけで宿題。金銭や人間性以外で異性に触れられてもいいと思わせるにはどうすればいいか、考えてみよう」
「なるほど……それを応用してエッチな関係に持ち込めるようにすると」
「理解が早くてうれしいけど、もう少しゆっくり覚えていこうか。じゃあね~」
焦ってもいいことないよ~、と言い残して未晴は帰って行く。
「……あ、送っていきますよ」
「近いから大丈夫、いいからゆっくり考えてみて~」
手を振りながら帰っていく未晴を見送りながら、公彦は立ち尽くしていた。
そのまま立ち止まって未晴からの課題を少し考えてみるも、いい答えが浮かんでこない。どうしたものかと悩んでいると、スマホが振動したので画面を確認する。
振動したのはメッセージを受信したからで、送信者は先程別れた未晴だった。
『ヒント、自分が触れられたくない相手って、どんな人?』
「どんな、人……?」
ますます分からなくなり、公彦はすぐに返信した。
『自分が触れたくない異性ですか?』
『同性でも一緒、つまり最低限人として相手に触れたいか触れたくないか。自分の立場になって考えてみよう』
「俺が触れたくない相手……」
触れたい相手ならば、未晴だとすぐに返答できる。しかし、それが回答ではないのだろう。
悶々とした気持ちを抱えたまま、公彦は考えながら歩き出した。
『それはともかく、補導される前に早く帰りなよ未成年』
未晴からのメッセージに尻を叩かれたということもあるが、じっとしていると変な回答に辿り着きそうな気もしたからだ。
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