指輪

麻城すず

指輪

 入社式から3ヶ月。

 某メーカーの営業さんは随分礼儀正しくて、あたしみたいな新入社員にも丁寧な言葉遣い。

 すらっとしていてかっこよくて大手企業の若手営業マンで、にっこり笑う顔も目茶苦茶爽やかで、もう女の子のあこがれを絵に書いたような人なのに全然擦れた感じがしなくて8つも年下のあたしが可愛いなんて思っちゃうような人。

「佐々木さん、これうちの新製品なんですよ。こっちのカタログは部長さんに渡してください」

「はい」

 仕事の話をしてるだけでドキドキしてるあたしの手に彼の指が触れた時、一瞬で分かった堅くて冷たい感触。舞い上がりすぎて視界に入っていなかった左手薬指に光る石。

「佐々木さん?」

「あっ、うわっ? はい!」

 うわー…。

 別に本気で好きだったわけじゃ無いけれど、好感を持っていた人が他人の物だったって分かった途端に感じる妙な喪失感。

 こういうのも独占欲って言うのかな?

 自分でもあきれちゃうけれど、そんな事に露ほども気付いていない彼はいつも通りの顔で笑う。

 ……この爽やかな営業スマイルがみんな悪い。

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指輪 麻城すず @suzuasa

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