第七章:科学者と陰陽師
【主では無い登場人物、登場邪神2】
* *
「中松殿、本当に貴殿には我ら十一人助けられた。改めて礼を言わしてもらおう」
陰陽十傑は一人、
「なぁに、私自身もユニークな実験が出来たのだ。礼には及ぶことは無い」
あの時代――あの瞬間、反瑞は確かに、とある邪神に追い詰められていた。
「おのれ、無有め! 増殖に増殖を重ね追って――陰陽十傑に成り替わろうとしているのか!」
「かかかかか――、貴様も終わりだ反瑞」
しかしそこに、突然、光が放たれたかと思うと巨大な人型の鉄くずのような物が現れたのだ。そして胸の扉が開いたかと思うと、
タタタタタタタタタ!
「がががぁぁあ!」
と邪神がうめいた瞬間、中から白い服を着た初老の男の影が見えた。
「わたしの名前はドクター中松! さぁ、反瑞君、乗りたまえ。君たちを助けに未来からやってきた。他の十人も助けにいくぞ」
「が……ぐぅぅうう。な、何者だぁ!」
邪神、魔神がこちらを見、睨みつけている。
「うぅむ、未来の近代兵器も通じぬとは、やはり君たち十一人の力が必要だ!」
中松と名乗った白い服の男に、何がなんだか分からないまま、反瑞はその鉄くずに押し込められると、扉と思われたものが締まり、キィィィーンと音が鳴った。鉄くずの中は反瑞が見た事も無い、光りや色とりどりの紐などがある。男が叫ぶ。
「次は
「
「説明は後だ。これはタイムマ……いや、時と場所を移動する機器だ。君たちには未来を救ってもらいたい。未来にて転生した魔神……ナイアルラト……いや、この時代だと
そういうと、中松は様々なものを弄り、反瑞以外の十人を時を行き来し、救い上げたのだ。そして反瑞たちが知らぬ、平成という時代へ連れてきた。
それが十年前のこと。どこから持ってきたのか、中松は戸籍や住民票という、この時代では必要不可欠だという物まで用意してくれていた。闇のルートで仕入れたとか言っていたが、その先までは理解が追い付かなかったのが現状である。だが反瑞たちは待った。待ちに待ち続けたのだ。この阿波の田舎で、平成という世の中で、再び無有が良からぬ事を繰り広げるのを。
現代――。西暦、二〇一一年十二月三十日、午後十九時三十分。邪神である魔神が力を最大限に発揮し、この地上世界を転覆させるまでに動き出す計画を立てている、皆既日食の前々日。ヤツらに審判を下すためにこの場に再び集まった十人の男達。
中松がいうには、無有はこの平成時代、この場に置いては、ナイアルラトホテップという外語の肩書になっているらしい。そして今、まさに阿波の山奥で十文字豪太と増殖した妻、真理と名乗り転生を繰り返し、時の流れを曲げようとしているのだ。
「その顔は中松殿に助けられた、過去の我らの闘いを思い出していたようですね」
十傑の中では一番幼い
平安の時代はもう忘れた。今のこの現代、平成こそ守らなければならぬ時代になったのだから。
「うむ、だが今朝、畑仕事の途中に会った、あの館に向かった二人の若いしが気になるがけぇ……。今は魔神への審判の時よぉ。陰陽十傑、平安より時の道しるべによって、平成の世に蘇った。いくぞぉ!」
すっかり阿波弁に染まった反瑞に、
「しかし、反瑞。外部はこれで封じる事が出来るが、内部はどうするがぞ」
「大丈夫だぁ! 結界の中に奴を送り込んである。そう陰陽十傑、幻の十一人目のあの男をなぁ」
「なるほどぉ、あの男か。黒子の様にその姿を隠し、現在は高知で刑事として働いている直観の持ち主! 奴なら心配はあるまいよ」
多くの式神である、蟲を操りながら那智川が笑みをみせた。
「その通りよ、さて、無有、否、ナイアルラトホテップよ。再び終結したこの陰陽十傑の結界、破って見せぃ!」
「しかし反瑞の親父さん、
「反瑞よ、岩を持ち上げる仕事は任せてもらい、魔神の館の前にある崖を崩したが、本当に中にいる人々は、無事なのじゃろうな!」
力仕事を一手に引き受けた、低い声の十常寺がこちらを振り返らずに問うてきた。
「大丈夫だ、中の人々は全て助け出す。だが気を付けろ、魔神共は人の「気」を追う能力も持っておるさぁけね。さて、中松殿」と、反瑞は中松に向き直った。
「うむ、次は私が、この結界の中、閉ざされた場――クローズド・サークルに入る番だ。それまでこの場を頼みましたぞ。私の最高の実験が終わるまで!」
最後にロボット型のタイムマシンに乗り込もうとしている、中松が叫んだ。
その場にいる十人の陰陽師たちは「おぉーー!」と声を上げ血気盛んに叫んだのであった。
* *
「おいおいおい、一体何が始まろうとしちょるがや?」
やっとの事、ホールを出て、三巡目の世界線に来た一巡目の光田。
一人の首無し死体を目の前にした光田は、微かな地響きを感じ、独り
仕事でもプライベートでも時間に追われている自分自身に、胸中で苦笑する。
――とりあえず合流やな。ここは。
食堂ホールへ繋がる廊下を走っていく、が、どこかおかしい。時間軸がズレているような感覚。深紅の壁と廊下がぐにゃりと歪んだような、これは何だ?
光田は分からなくなりとりあえず腕時計をみた。短針と長針がグルグルと周り続けていた。
とその瞬間、光田の携帯電話に誰かからかかってきた。速攻で出る。
「光田君かぁ! 私だ、中松だ! すまぬが、急いでタイムマシンのあるところまで戻ってきてくれないか。どうやら十文字夫妻が、時間軸を弄ったせいで、ブレの観測が早くなっている! このままでは君は魔神館の中、永劫の時という時間の檻の中で……分かりやすくいうと、無限ループに陥ってしまうぞ!」
「マジかいな!」
と呟いた瞬間、ぐにゃりと廊下が膨れ上がった様な感触。
――まだこん中にはようさん、客がおるっちゅーに。天水はまぁええか。閉じ込めちょけ。
そう思うとダッシュで入り口まで走り、ドアを開けた。先ほどまで真っ暗だったのが、いつの間にか日付が変わったのか明るい空になっていた。明け方だ。そして半分だけ見える、太陽に向かって、黒い月が進行を始めていた。
――嘘ぉん、年明けちょるんか! 皆既日食直前かいな、ヤバいなーこりゃぁ。
「光田君、こっちだぁ!」
中松がタイムマシンの上で叫んでいる。と同時に目の端に化物の姿が映った。
――十文字豪太!
その姿は人間のそれを止め、妖魔になっていた。翼が生え、服はビリビリに敗れ、背中と顔が黒い触手で覆われている。
光田はタイムマシンの方へ全力で走った。
全力で走り、なんとかたどり着くと、中松と共に邪神、十文字豪太と闘う決意をした。
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