第2話

 沙彩さんと未来ちゃんの邂逅から、3日後。

 沙彩さんは、履歴書を持って来店した。

 うーん。低賃金でもいいって言うのなら、強く否定するのもな。


「本当にうちは安いけど、それでも良いのなら考えてみるよ」

「本当ですか⁉︎」

「考えるだけだよ?絶対にOKとは言えないし、ちゃんと後継人にも許可をもらうんだよ?」

「はい!わかりました!」


 履歴書は、軽く見させてもらった。

 保護者の欄には、彼女とは苗字が違うご家族の名前。

 当然だ、彼女の両親は数日前に他界したのだから。

 普段の彼女を見ると忘れがちになるが、彼女も実の両親を亡くした者同士だ。

 何かあれば、年長者として力にはなってあげたい。


「後継人の方とは、上手くやっていけそうかい?」


 軽い、世間話しのつもりだったのだが、遠くを見るような目で虚空を見つめていた。


「後継人って、いても祖父母のお家ですからね。蝶よ花よと甘やかされています。両親が、早くに他界したのも気にしたらしく、スマホにはGPSをつけられて、交友関係もいつも問い詰められます」


 家とあまり変わらないかな?

 幸い男子だから、彼女よりは、緩和しているのかな?

 聞いた限りでは、虐待等のトラブルはなさそうだな。

 後は、喫茶店でのウエイトレスをやっても良いのかの確認程度だろう。


「わかったよ。今晩にも、沙彩さんの祖父母に確認の連絡を入れさせて頂くね」

「はい!お願いします!私、未来さんには負けません!」

「?未来ちゃんなら、親の許可が降りないから家でのアルバイトはできないよ」

「そうなんですか!、、、メイさんと二人っきり、、、」


 後半は、声が小さいくて聞き取りに難かったけど、家でのアルバイト楽しみにしてるんだな。


「それでは、私はもう帰りますね。お爺ちゃんへの根間回しもとい、交渉をしに帰ります。電話待ってますね」


 そう言って、彼女は頬を朱に染めながら走っていって、お店を後にした。

 今日も、元気な娘だな。

 僕も、まだまだ若い筈なんだけど、あそこまでの元気はないな。

 そろそろ、未来ちゃんの来る時間帯だし、ケトルを温め置いたりするか。


 ーー夜19時ーー



『喫茶”Ton sourire”』は、19時閉店にしている。

 この時間帯からだと、家のような喫茶店より、大衆居酒屋にお客を持っていかれるので、いつも閉めているのだ。

 本日も、少しケーキ売れ残っている。

 毎日、余裕を持って作っているので、当たり前と言えば当たり前なのだが、ギリギリ完売できるよう調整はしてるんだけどな。

 思うようには、いかないものだ。

 まあ、いつものことだ。

 この売れ残りのケーキ達は、いつも近場の知り合いの家に届けたり、仕事場への差し入れなどに回している。

 このお店があるのも、そうした方達の支援あってのことだから、こういうことでお返し出来ればといつも行っていることだ。

 それに、いつも笑顔をで受け取ってもらえるから、凄く嬉しいだよね。

 今日は、未来ちゃんのお姉さんの佳子さんだ。

 先程、LINEを送ったら数分で取りに来てくれるそうだ。

 佳子さんの仕事先は、未来ちゃんの通っている私立のお嬢様学校である。

 と言っても、今年入ったばかりの新任なのだが、生徒達の人望も強く来年には、担任を持つことができる程の有能な人材なんだとか。

 僕の知っている限りでは、ただのシスコンお姉さんって感じだけどね。

 待って間に、沙彩さんの御自宅にも確認の連絡を入れとかないとな。

 そう思って、スマホから連絡を入れたのだが、、、


「もしもし、『喫茶”Ton sourire”』の」『野郎だと?わしの可愛い、沙彩には指一本触れさせはせんぞ!』(ガチャン‼︎)


 っというふうに、一言で電話を一方的に切られてしまった。

 すごい偏見の持ち主だな。

 沙彩さんからも、祖父は気難しい方だって教えられてはいたけど、こんな一方通行の人だとは思っても見なかった。

 彼女の行けるという自信は、どこから湧いたのだろう。次回聞いてみよう。

 それにしても、沙彩さん。

 これは、ちょっと説得は難しいんじゃないかな?

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喫茶“Ton sourire” 日ノ本 ナカ @kusaka43

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