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ぼくはあごのあたりが疲れたので、ちぎってもいいかきいてみたらたぶんちぎれるだろうということだったのでちぎってみたらあんがいすんなりとゆびでちぎれる。おもちみたいだ。
ちぎれかたはおもちみたいだが、やはりなんともけいようしがたい白いものだ。ほんのり温かくて、全体にショックを与えると海のように末端まで波打つ。とろけてしまいそうでとろけない。のびきってちぎれそうになるのにちぎれない。ちぎれるばかりか、ちょっと縮む。そしてまたのびる。どっと白い本体が押し寄せてはふるふると震える。びよんびよんとのびる。ぼいんぼいんと揺れる。いくらかまたあごから白いものがのびてきて、自分の足下をまるで自分を彫像にして部屋に固定する土台のように形作った格好になって、ようやく白いものが出終わった。もうすでにぼくのあごはふつうのあごだ。ひげいっぽんもはえてやしない。
筒井康隆の「薬菜飯店」みたい、と姉は吹き出して言った。
「なにそれ」
「小説」
「白いものがでる話」
「そうじゃなかったけど、そんな感じの話」
そんな感じの話って、そんな話があってたまるか、とぼくは一瞬憤慨したけれど、姉のおかげでずいぶんと身軽になったので許そうと思った。ただ、押し黙った。
姉は床にのんべんだらりとひろがる白いものを雪玉をつくるかのように半ばはしゃいで手に取ってこねはじめた。
「おもちみたい。こねたらいいんよ」
しばし姉はそうやって白いものと戯れた。ははは、おもちみたい、と言ってぼくの顔をしげしげと見た。
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