おもち
higansugimade
1
ぼくのあごから白く柔らかいものがするするのびて、手で受け取るとのびつづけるそれは手のひらでとろとろと揺れた。それからこぼれてぬるりと垂れた。重さはないけど温かかった。表面はさらさらして、えもいわれぬやわらかさだった。ひっぱるとのびて、ちょっとだけ縮まった。でものびつづけるそれはいまやもう足下まできている。これくらいのスピードでのびるのがこんな白いものではなくてひげだったらいいのに、それだったらおとこらしくて。ぼくは鏡の方へ歩いて、じぶんの顔を見た。白いものがのびつづけている。これがひげだったなら、ぼくは一躍話題の人になれるのだが。この鏡ではだめだ、顔の辺りしか見えない。玄関の方の姿見で確かめる。ぼくはもう、しろいものを引きずって歩いている。その最末端はぼくにつかずはなれずついてくる。
そういう様子を、この原因か、要因か、遠因か、いや、張本人であるに違いない、姉がずっと見ている。どういう様子かわからなかったけれど、目が合うと、ははは、かえるみたい、と言って彼女は笑った。
「どこがだよ」
「なんでもないよ」
「なんでなんでもないんだよ」
「なんでもなくはないけど、ただちょっと思っただけ」
どこにもなんにも、緑色もしてないし、とぼくはぶぜんと思ったけれど、ぼくの想定はあまがえるなのだった。緑、黄緑、赤や黄色や茶褐色、いろいろいるでしょう、もちろん白だって、どうせ姉は言うのだろう。姉の目に映る白いかえる。黙っていると、
「さっきまでこうやってうずくまってて」
と、姉はさっきまでのぼくの様子の姿かたちを真似てみせて、また顔をこちらへ向け、
「ずいぶん元気になりましたね」と言った。
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