第3話 家出の理由

「今それが関係あるのか?」

「関係あるかわからないから聞いてみたんだ」


 はあ? ああ、友輝も親を疑っているのか。それで家出した理由を。でも理由なんて関係ないんじゃないか? 家出したこと自体は関係あっても。ただ、居候先に聞かれたわけだし。


→正直に答える

 正直に答えない


「家を出たのは、二人がなんかうざくなったからだよ」

「二人って、両親?」

「ああ。前はなんとも思わなかったけど、この頃、みょうに。特別何かされたわけじゃないけど、強いて言うなら折れた傘をリビングに飾ってるのは意味不明だった」

「ふぅん」


 ふぅんて。なんだそれ。せっかく話しているのに。まるで何かを確かめているみたいだ。


「おれは親がいないからよくわかんねぇけど、勇姫の親は仲良かったの?」

「それは良かったと思う。でもそのことがだんだん、嫌になっていった気が」

「へえ」


 ところでこの尋問じんもんみたいな空気の質問はいつまで続くんだ。こっちが心を開こうとしているわりに、そっちの反応が薄いから手応えがない。そう思っていたところ、友輝が切り出す。


「勇姫、もう帰ったほうがいいんじゃねぇか?」

「は、なんで。これまでそんなことも、家出した理由すら聞いてこなかったのに」


 もしかして、友輝はグルなのか? 親がこの変な通知を出して、家に帰らせようとする仲間なのか?


 それとも、この通知を出した張本人が友輝なのか? オレを帰らせようとして。いや、そのためにこんなまどろっこしいことする必要ないか。


「なあ友輝。お前学校で何かわかったんだろ。それでこんな色々言ってくるようになった。昨日から変わりすぎだ」


「そうか? おれはただ、勇姫のことが好きなだけだ」


 え。


「お前のことが心配なんだ」


 なんなんだ。なんかよくわからん。真っ直ぐ目を見られても、友輝が突然変わったように見えることの説明にはならんぞ。


 でもなんだろう。ちょっとだけ自分が家出した本当の理由がわかった気がする。それは気持ちだ。オレは、人を好きになるっていうのがどういうことかよくわからない。なのに親は、それがよくわかっているように見えた。時が経つほど、そこのギャップが広がっていくように思えた。


 学校も、どうして行くのかわからない。あそこで何を学べばいいかわからない。だから嫌になった。友輝と出会えたことくらいか、良かったのは。


 そうして逃げ込んだこの場所で今、単純な答えがわかった気がする。ここの居心地は悪くない。


「ありがとう」

「へ?」

「へってなんだよ」

「そんな素直に返されると思わなかったからな」


 そう言って友輝は、おもむろに立ち上がり、オレの方に手を伸ばしこう言った。


「じゃ、これから真実に会いに行こう」

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