第22話 トドメ

「あの、もしもし?ㅤこちら実は警察です」


「あ、すみません、いさむです。今いいですか」


「ええ、もちろん」


「あのですね、今ちょっと大変で。あきひめちゃんの元に着いたらゴーグルを渡されて、それをつけたら魔王が現れて」


「ええ」


「魔王を倒したと思ったら復活して、攻撃される寸前のところ、中断して電話をかけている状態なのですが」


「はい」


「これどうしたらいいと思います?」


「うーん、そうですね。もう逃げられなさそうですか」


「はい、今も訳あって時間が止まっているおかげでなんとかなってるだけで、やばいです」


「なるほど。と言ってもよくわかりませんが、さすればゲーム自体をリセットするしかないかもしれません」


「リセットですか?」


「もう詰んだ、やり直すしかないというときにゲームを最初からにする荒技です。できそうですか?」


「いえ、あの、わかりませんが無理そうです」


「というと?」


「……あきひめちゃんがキーボードを操作していて」


「ほう」


「……近寄りがたいです」


ㅤあきひめちゃんは画面がフリーズしたことに腹を立てているのか、キーボードを打つ手がどんどん速く強くなっている。それでも画面はまだ同じ状態を維持している。


「いさむ殿。よくお聞きください」

「はい」

「あきひめ様が黒幕かもしれません」

「はい?」

「あきひめ様がマザーコンピュータを乗っ取り、魔王に作り替えた。そう考えるのが自然じゃありませんか」


ㅤ自然。自然か。自然ってなんだろう。同じクラスのあきひめちゃんが、自宅にマザコンを持っていて、ある日突然魔王に作り替えた。それって自然なのか?ㅤそれに、わざわざ自分を人質に見せかけ、勇者に旅に出ろと呼びかけたのはなぜ?


ㅤさすがに混乱する。これまでは、よくわからなかったから深く考えないで来られた。だけど真実に近づいている気がするたび、よくわからなさが深まっていく。


ㅤぼくはどうしたらいいんだろう。


(いさむ。聞こえるか、いさむ)


ㅤその声は、オレ?


(そうだ。自分は自分と理解した今なら、オレの声がはっきり聞こえるだろう)


ㅤうん、聞こえる。ぼくは勇者じゃなかった。


(だな。でもいさむには、いさむにしかないものがあるんだ)


ㅤぼくにしかないもの?


(もう、わかってるんだろ)


ㅤいや、わかってないけど。


(ははは。きっとその感情が当たり前すぎてわからないんだな)


ㅤ何、笑ってるんだよ。じゃあ教えてよ。


(鈴木愛生姫への想いだ。最初はその想いも、オレのものだと思ってた。でも、どこか違うなと感じてた)


ㅤえっと、なんの話。


(オレは勇者として魔王を倒して、後はお前を、愛生姫ちゃんに会わせようと思ってた。今はちょっとややこしい事態だが、愛生姫ちゃんにはこうして会えたじゃないか)


ㅤうん、会えたけど。ただ今はあきひめちゃんが何者なのか、よくわからなくなった。


(よくわからない、か。それでも、いさむの中の気持ちは、よくわかってるんじゃないか)


ㅤなっ、なんのこと。


(この冒険に始まりと終わりがあるなら、きっと、いさむと愛生姫が結ばれるのが終わりだと思ってたんだが)


ㅤえぇっっ。何言ってんだか。ねぇ。


「いさむ殿。よくお聞きですか?」

「えっ、はい、あの、あ、ごめんなさい」

「あきひめ様を倒すのが、このゲームのクリア条件かもしれません。どうしたら倒せるか、考えてみましょう」


ㅤあきひめちゃんを倒す!?ㅤ倒す!?ㅤ何を言われているんだ。もう意味がわからない。どうしよう助けて。ぼくはあきひめちゃんを好きなだけなんだ。大好きなだけなんだ。それを倒すって、倒すって……。


ㅤあっ。


「すみません、電話切ります!」


ㅤ自分を自分と理解した今。ぼくにしかないもの。よくわかっているぼくの気持ち。結ばれる冒険の終わり。


ㅤ勇、わかったよ。どうすればいいのか。勇がいたから、わかったよ。


(さすがだな)


ㅤオレとぼくがあるように、二つの心が生まれればいい。そしたらあきひめちゃんは、今の状態から変われるかもしれない。


(ほえー)


ㅤ上手くいくかわからない。でも今は、次の攻撃を食らえば負けるかもしれない状況。それと同時に、ぼくの攻撃で、トドメをさせるかもしれない状況!


ㅤ可能性は何%か。わからない。ものすごく低い確率かもしれない。だけど結果だけで言えば1/2だ。上手くいくか、いかないかなんだ。


ㅤ勇。もしかしたらこのゲーム、ここで終わらせられるかもしれない。そしたら勇者である君は、その後どうするの。


(さあ。何も考えてない。魔王を倒す以降のことは)


ㅤそうなんだ。それってちょっとさびしいね。


(えっ、そうか?)


ㅤはは。だったらせめて、ぼくがこの冒険のことを書にまとめるよ。そしたら誰かが読み返すたび何度も冒険ができて、何度も魔王を倒せて、勇もさびしくないでしょ。


(ああ、そりゃ名案だ!ㅤさすがいさむ!)


ㅤほんと明るいんだから。じゃあ、こうして分かり合えたことだし、ここは一緒に選択しよう。


(ありがとな、いさむ。ここまで楽しかったぜ)


ㅤありがとう、勇。カッコつけておいて、まだこれで終わりじゃないかもしれないけど、ぼくも楽しかったよ。最初はあきひめちゃんを思うだけだったのが、色んな気持ちをこの冒険で知れた気がする。


(それじゃあ、いくぜ!)


ㅤああ、任せろ!


→あきひめちゃんにトドメをさす

→いさむが想いをつらぬ


「好きです。付き合ってください」

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