第21話 何が起きている

ㅤ時が、止まった?ㅤ小さくなった魔王から放たれた、それでも充分大きな火の玉は、ぼくらまで届かず静止している。


ㅤもしこれが動き出したら、ぼくはもちろん、しゅーとさんもろとも、あっという間に吹き飛んでしまうかもしれない。そしたらどうなる。わからない。モニターの中とはいえ、前に火の玉をくらったときは意識が遠のいていくのを感じた。死にはしないとしても、今の体力で次の一発をくらうのは怖い。


『お兄ちゃん、いさむ?』

「その声、その声は!ㅤときとか!」

ㅤしゅーとさんが叫ぶ。この空間の中、体は一切動いていない。ただ声が反響して聴こえる。ていうか、ときと!?


『よかった。きこえるんだね。今どうしてるかなって』

「どうしてるって、お前こそ。これ一体どういう状況なんだよ、あん!?」

『おれに言われても、正直よくわかんないんだけど。ただ手術が成功して、カウントダウンが止まったっぽい!』

「あん!?ㅤ手術だと。どうしてもう受けられてんだ」

『ふうが頼んでくれたからだと思う。おれの発作がはげしくなったあと、意識の中にこんな会話がきこえてきたんだ』



✴︎



「今な、ときとの症状がおもなって病院きてん」


「あんだと!?」


「緊急治療室に入って、一命は取り留めとるみたいやけど、このままじゃどうなるかわからんって、だから」


「ああ、わかった。よろしく頼む」


「え?ㅤ切れた。あいつ何考えとんねん!ㅤもうええわ、あたしが医者に頼み込んだる!」



✴︎



「んなことがあったのか、あん!」

ㅤいやこっちのセリフだよ、しゅーとさん。あの電話のときか。それにしてもふうさんがいてくれて本当によかった。しゅーとさんもそれをつくづく実感したのかこんなことを言う。


「もう、ふうとコンビニには足を向けて寝られねぇ」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよ。時が動き出したらやばいです!」


『いさむ?』


「そう、ぼく。ときと、無事でよかった。今何がどうなってるかよくわからないけど、時が止まってくれたおかげで助かってる、でも動き出したらたぶん一瞬でやられてしまう」


『そうなんだ。おれ、そっちの状況はよくわかんないけど、今、お兄ちゃんといさむに話しかけてる。たぶん時が止まっているのは世界丸ごとというより、おれとお兄ちゃん、いさむだと思う』


「あんだと。じゃあときとと話すのをやめたら、動き出すかもしれねぇってことか?」


『わかんない。でも、どうしたらいいんだろう。とりあえず今は話してよう』


ㅤ本当にどうすればいいか。まず冷静に状況を把握しよう。勇としゅーとさんが魔王を倒した。それでぼくとしゅーとさんが喜んでいると、なぜか魔王が再生して攻撃して来た。そしたらときとの声がして、時が止まった。


ㅤそれからときとと会話はできても、動けるわけじゃない。かといって動けるようになったらきっと、避ける間もなく魔王の火の玉をくらってしまうだろう。そしたら最悪、ゲームオーバー。もしかしたら勇が助けてくれるかもしれないけど、仮にそれでまた魔王を倒しても、さらに再生したらどうするんだ?


「くそっ。ここにあの軍師がいたら。あん?ㅤそうだときと、お前おれらが会いに行ったお巡りと連絡取れねぇか」

『お兄ちゃん、おれ連絡係じゃないんだよ。それにそんなことしてこの時間に影響したらどうするの』


ㅤ確かにあのお巡りさんの手をもう一度借りたい……。いやちょっと待てよ。仮にときとと話せている間、この空間の時が止まっていてくれるなら。


→ここを出て電話をかける

ㅤこのまま時が動くのを待つ


「ぼく、ゴーグルを外してここを出ます!ㅤこの空間にいないぼくの体は動くかもしれない。それでお巡りさんに電話かけてきます!」


「おっ、その手があったか。おれも行くぜ!」


「いやちょっと待ってください。しゅーとさんはときとと話していてください。二人で離脱したら何がどうなるかわからない」


『おれもそれがいいと思う。ふたつのことを選べるとき、片方だけだと失敗するかもしれない。それにいさむは頼れる』


「わぁったよ!ㅤじゃあここはおれと、ときとに任せろ。いさむ、行ってこい!」


「はい!ㅤどうか待っていてください!」


ㅤそうしてゴーグルを外すと、ぼやけた目線の先にあきひめちゃんの背中が見えた。少し角度を変えて様子を見ると、どうやらキーボードを高速で叩きながら何か呟いている。


「あきひめちゃん?」


ㅤ大きなモニターには静止したぼくらと魔王の姿が見える。よかった、まだ時は止められている。


ㅤそれにしてもあきひめちゃん、何しているんだろう。いやいや、そんなことより今はお巡りさんに電話しなきゃ。


「なぜだ、何が起きている。プログラムは完璧なはず。動け、動け!」


ㅤそんな声が聞こえて、電話を持つ手が震えた。「はい、こちら軍師です」という声にも反応が遅れた。


ㅤあきひめちゃん、君がもしかして。いや、まだ何も信じられない。確かなことはない。きっと操られて、操っているだけなんだ。

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