第18話 走るぞ

ㅤ校門を出て、メモを見るため立ち止まる。あきひめちゃんの家は、ここからそう遠くない。


「案外、簡単に情報が手に入ったな、あん?」

「しゅーとさんもそう思いますか?」

「クイズは難しかったけどよ、これで魔王らのありかがわかったんならイイ方じゃねぇか、あん?」


ㅤ確かにそうだ。あきひめちゃんも魔王もそこにいるなら、もう少しで目的の場所に辿り着けることになる。でもよく考えてみると、おかしなことに気付く。今に始まった話じゃないかもしれないけど、たとえば謎解きの答え。サイン入りバット。こんなの、ぼくが持っていたから渡せたけど。


ㅤ逆に言えば、持っていなかったら渡せなかったものが正解なんて。何か仕組まれているんじゃないか、そう思っていたところに電話の着信音。しゅーとさんの方だ。


「あんだと!?ㅤ……ああ、わかった。よろしく頼む」


ㅤ手短かに電話を切ったしゅーとさんは、少しの間、沈黙し立ち尽くした。それから急に「こっちか?」と聞いて歩き出したから、歩道を一緒に進みながら会話した。


「何の電話ですか」

「しゅーとが入院した」

「えっ」

「ふうが連れて行ってくれた。急に症状が激しく出たんだと」

「じゃあ、病院に行かないと」

「いや、今のおれたちが行ってなんになる。手術代も払えねぇ、急ぐなら尚更なおさら、魔王をぶっ飛ばすのが先だ」


ㅤそうかもしれないけど。さすがに胸がざわつく。あきひめちゃんはまだ、どこかにいるっていう希望がある。でもときとは、どれだけ急いで魔王を倒しても、もし間に合わなかったら。もう、会えなくなるかもしれなかったら……。


ㅤ立ち止まり、手に持った折れた傘を見る。コンビニでしゅーとさんを撃退した、折れた傘。交差点で、ときとを守った折れた傘。これもあれも、仕組まれたことだったとしても、選択してきた。今もまた、そんな分岐点にある気がする。


→あの交差点での話をする

ㅤあの交差点での話をしない


「ときとは、ぼくと会ったとき、死のうとしていました」

「あん?」

「お兄さんが自分のために無茶するのが嫌だと。実際しゅーとさんは、無意識だとしてもコンビニ強盗しようとしていました」


ㅤ前にいるしゅーとさんはこちらに振り向き、少しうつむく。唇を噛む。


「もしぼくがしゅーとさんを止めていなかったら、更に何をしていたかわかりません。しゅーとさん、ときとのことを思うなら、無茶せず病院に向かってください。ぼくが魔王を倒して、手術代も何とかします」


ㅤこんな根拠のない前向きな言葉、以前は嫌いだったかも。いや、今もどこか嫌いだ。自分で言っていて、何か違う気もする。それでも、自然と口から外に出た言葉。


「ぁんだと」


ㅤ俯くしゅーとさんの肩が小刻みに震える。


「ふざけんじゃねーぞ!!!」


「ふざけてなんか」


「無茶くらいするだろうが!ㅤふざけんなよ、ときと!ㅤ何もおめぇのためだけじゃねぇ、おれのためにもしたいことだ!」


ㅤどこかの空へ向かって、吠えるしゅーとさん。ぼくに怒っているわけじゃないんだ、どこかの病院にいる、ときとに怒っているんだ。


ㅤこれでぼくも、目が覚めた。ときとのあのときの気持ちがもし本物だったとしても、その気持ちが合っていたとは限らない。そこにしゅーとさんが合わせる必要もない。


ㅤ人の関係は、素直に想いを打ち明けるのも難しかったりするみたいに、簡単じゃないかもしれないけど、どこか先に眩しい扉が開かれる可能性もあるんだ。


「いさむ、走るぞ!」

「はい!」


ㅤぼくたちはこれから無茶をする。どこかにいるはずのクラスメイトを探しに。マザーコンピータを乗っ取った魔王を倒しに。この行動が仕組まれた罠だったとしても、止めることができない。


『オレも行くぜ!』

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