第17話 謎解きゲーム 後編

【コンサート お札 遺産

入りの

帽子 を持ってこい


ヒント は、、 英訳】



「あん?」

ㅤ首を傾げながらまじまじと紙を見るしゅーとさん。

「しゅーとさん、何かわかりました?」

「あん?ㅤいやわかったっていうか、これ相当デカイ帽子じゃねぇと入んねぇよな」

「しゅーとさん。確かにそうですよね。だからたぶんそういうことではないと思います」


ㅤそれからお互いしばらく沈黙して紙を眺める時間が過ぎた。ところでこの謎解き、制限時間はないのか?ㅤあろうがなかろうが、ここで足止め食らっている場合じゃないんだけど。そう思っていたとき、しゅーとさんも同じように考えていたのか口を開いた。


「おい、もうこのままじゃダメだ。あいつに電話すっぞ」

「えっ、電話?」

「あんだよ、別にいいだろ」


ㅤさすがにそれはルール違反じゃ……と思って先生を見たらイスに腰掛け、腕を組み、目を閉じている。これはもうやろう。


「ところであいつって?」

「さっきのお巡りだよ。あいつならわかんだろ」

「番号知ってるんですか?」

「あん?ㅤ警察といったらあの番号に決まってんだろ」


ㅤそれであそこの交番に繋がるかよくわからないけど、このままただ時間が過ぎていくだけになるなら、とりあえずかけてみるか。


ㅤプルルルル。


「はい、こちら軍師です」

ㅤ一発で繋がった!


「あの、お巡りさん、こちらいさむです。急ですが、謎を解いてもらってもいいですか」

「ええ、構いませんよ」

ㅤ飲み込み、早ッ!


「まず紙に、コンサート・お札・遺産入りの帽子を持ってこいって書いてあります。ヒントは英訳だそうです」


「なるほど。まず先に挙げた三つの共通点はわかりました。どの文字にも真ん中にサが入っています。コンサートというのは元々英語なので、そこの文字を英訳するわけではなさそうです」


ㅤ分析が早い。すごい。これは本当に軍師かも。


「次にサが中に入っている、これを英訳して文字になるようにするとサインになります。つまりサイン入りの帽子です」


→もう答え出ちゃった!?ㅤ早速言ってみよう。


「サイン入りの帽子!」


ㅤzzz……


ㅤね、ねてる。先生寝てる。答えが間違ってるのかな。それともただ寝ているだけかな。それだと困る。


「いさむ殿、落ち着いてください。文章は帽子を持ってこいとありますから、持っていかねばならないのでしょう」


「えっ、でもそんな帽子なんてありませんし。サインって、自分で書いていいんでしょうか」


「うーん、そうですね。そんな面倒なことが答えではないかもしれません。何か私に伝えられていない情報などはありませんか」


ㅤ伝えられていない情報……。書かれていることは全部伝えたはずだ。なんだろう。言葉では伝わらない情報?ㅤそう考えていたとき、しゅーとさんが愚痴るように呟いた。


「おい、さっきから謎をじっと見てんだが、これキモくねぇか。妙な空白とか点々とかよぉ」


ㅤ空白とか点々?ㅤそれだ!ㅤ言葉だけじゃ伝えられなかったもの。この文章的に一番違和感ある空白はヒントという文字の後。ということは!


ㅤサイン入り帽子を探す

ㅤサイン入りハットを探す

→サイン入りバットを渡す


「これだあああ!!!」


ㅤ帽子を英訳し、はに点々で、ばにする。答えはサイン入りバット。それは偶然にもぼくがバッティングセンターでおやっさんからもらったもの。


ㅤケースから出して先生に勢いよく差し出すと、深い眠りにおちていたかのような先生がカッと目を開け、雄叫びを上げた。


「こ、このサインはっっ」

「先生、ご存知なんですか」

「ああ、このサインはあのバッティングセンターのぬしのもの」


ㅤあのおやっさん、有名だったのか。


「かつてバットを振ればホームランを連発し、みんなの憧れの的……しかしサインは認めた相手にしかくれず、わしはもらえんかった」


「そんな凄い選手だったんですね。プロだったんですか?」


「いやあのバッセン内の話じゃ」


ㅤあ、そうですか。それでもまあ凄いか。


「そうだ、サイン入りのボールもありますけど」

「それは、いらん。バッセンのボールもらっても嬉しくないじゃろ、ホームランボールならともかく」


ㅤあ、そうですか。基準がよくわからない。そうだ、電話先のお巡りさんと、しゅーとさんにお礼を言おう。


「お巡りさんのおかげで謎、解けましたよ。さすが軍師!」

「コングラッチュレーションズ!ㅤいたっ」


「しゅーとさん、しゅーとさんの言葉もヒントになりました!」

「あん?」


ㅤ謎が解けて、なんだかとても嬉しい。でも本題はそれじゃない。


「先生、同じクラスの鈴木愛生姫の住所を教えてください!ㅤ緊急事態なんです」

「ああ、ええよ」


ㅤ先生は机に向かい、何か書類を見ながらスラスラと、さっきの謎を書いた紙の空きスペースに、住所と簡易な地図を書き込んでいく。まだそこにあきひめちゃんがいるか確定していないけど、いよいよ会えるかもしれないんだ。学校とはまた違うドキドキ。


「ほれ」


ㅤ先生が紙を切り取り、次の行き先を渡してくれた。それから別れる前に、いくつか言葉をくれた。


「これから魔王の元に向かうつもりじゃろ?」

「あ、はい」

「今は世界の当たり前が崩れたとき。でもな、当たり前のものが当たり前になきゃいけないとは限らないんよ。大事なことは常におぬしの中。ほな、バットありがとう」


——サイン入りバットとバットケースを失った!ㅤ大事なことは、常に自分の中にあった!

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