第15話 軍師の推察
ㅤしゅーとさんと二人で交番の近くまで歩いて行くと、ちょうど話を聞きたいと思っていたお巡りさんが交番の前に立っていて、こちらに歩み寄って来た。
「お待ちしていましたよ。勇者殿」
「勇者どのぉ?」
ㅤ真っ先にしゅーとさんがその言葉に反応したけど、呼びかけられているのはたぶんぼくだよな。なんか恥ずかしい。そして言葉を返す間もなくお巡りさんの言葉が続く。
「あれから考えてみたのですよ。囚われのあきひめ様のことを真っ先に考えるあなたが勇者で、私はそれを支える参謀あるいは軍師ではないかと。ところでこちらの方は」
「おれは安藤蹴入。訳あって今はコンビニ強盗だ」
「な、なんと。勇者殿、これはどういう」
「いさむでいいです。それからしゅーとさん、そんな正直に言わなくていいです」
「正直、ということは、本当にコンビニ強盗なのですか?」
ㅤ
ㅤ怪訝な目でしゅーとさんを見るお巡りさん。それに対し、しゅーとさんは。
「ああ。正確にはコンビニ強盗未遂だ。けど今捕まるわけにはいかねぇ。弟を助けるまでは!」
「何か訳がおありのようですね。いいでしょう、やはり今はこの世界の平和が先決。少々のことは見過ごすことにしましょう!」
ㅤありがたいけど大丈夫か、この会話。それも交番の前で。お巡りさん相手に。というかこの場合お巡りさんの方が変か。それはともかく早く本題に進みたい。
「今日は前の話の続きを聞きに来たんですが」
「ああ、はい、そうでしたね、お待ちしていましたよ。ようやくになりましたが、警察だからというだけでなく、どこか軍師感強めな私の推察を聞きたいのですよね。どうでしょう中で紅茶を」
→いえ、ここで結構ですので早く
ㅤそんな時間はないので早く
ㅤよくわからないけどぶっ飛ばすぞ
「そうですか。ではお話ししましょう。私は元々、いさむ殿もご存知のように、マザーコンピータのことが気がかりで、あきひめ様のことは二の次に考えてしまっていました」
ㅤお巡りさんは今、手に何も持っていないのに、紅茶をすするような仕草を挟んで、推察を続ける。
「それがいさむ殿との会話をきっかけに気づいたのです。もし、あきひめ様が普通の学生だとして、どこかでさらわれ、あの放送に至るまではそこまで時間がないはず。ということは移動範囲も限られるであろうと」
ㅤなるほど確かに。ぼくは目の前のことに精一杯で、気持ちが先走ることが多かったけど、結構シンプルなことを見落としていた。さらに推察は続く。
「これは本当に私の勘に近いものですが……最もマザーコンピュータのありかとして驚くのはどこなのか想像してみると。それは普通の民家ではないかと」
「普通の民家!?」
ㅤしゅーとさんがまさしく驚きの声をあげる。ぼくはぼくで驚いたけど、お巡りさんが何を言おうとしているのかをなんとなく読み取った。
「それはもしかして、あきひめちゃんの家じゃないかってことですか?」
「ええ。最初の映像以外ヒントのない状況では、最もあり得る可能性として疑ってみる価値はあるでしょう」
ㅤでもそしたら、何がどうなっているんだ。あきひめちゃんがさらわれたと考えるのは誤りだということになる?ㅤ自作自演のような行動?ㅤていうか家にマザコンがある?ㅤうーん。
「いさむ殿、これはあくまで可能性の話です。根拠は今のところ薄いです。それにあきひめ様が元いた場所を知らないことには」
「あ。あきひめちゃんはクラスメイトです」
「なんと!」
ㅤお巡りさんは手に持っていないけど持っている紅茶のカップをぐらぐら震わせ、落として割れてしまったかのような動きをする。パントマイム。
「事件はこんな近くで起きていたのですか。そんなことにも気付かず、警察は無能と言われても仕方ない事態です。といってもこれまで通報すらありませんでしたよ?ㅤいさむ殿も早く教えてくださればいいのに」
ㅤたぶんぼくがそこまでお巡りさんを頼る気にならなかったのは、ときとを連れて行ったときの対応のせいだよ、と言うのはやめておいて。
ㅤ警察に対して何も通報がないというのは、これもマザコンが乗っ取られたせい?ㅤ仮にあきひめちゃんの家にマザコンがあったとしても、学校から通報がないのはおかしいもんな。
「んじゃとりあえず、その子ん
「そうかもしれないですけど、家がどこかは知りません。学校で聞けばわかるかも」
「んじゃとりあえず、学校に行けばいいんだよな、あん!?」
ㅤしゅーとさんの言う通りだ。学校は休みの日だけど、たぶん誰かしらはいるだろう。でも、通報がないことのおかしさから考えて、学校もすでに魔王の支配下にある?
「いさむ殿、しゅーと殿。私も今度こそついて行きます!ㅤ既に役目を果たした気はしないでもないですが、ついて行きます!」
——お巡りさんこと、皆川守がついに仲間に加わった!ㅤその瞬間、皆川守の腰からピシッと音がした!ㅤ皆川守が他のお巡りさんに連れられ、交番の奥の部屋へと消えた!
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