第13話 インターバル

ㅤむ。仰向けに寝た体勢から勢いよく上体を起こして辺りを見回すとそこは薄暗い見知らぬ部屋。ぼくは床に敷かれた布団の上にいて、左にはベッドがあって……。


「あ、起きたん?」


ㅤ布団に包まれベッドに横たわる、ふうさんと目が合った。いったい何が起きている。そうか。ぼくはあのとき急に気を失って、これまで眠っていたのか。


「もうみんな帰ったで。しゅーとがあんたをここまで運んでくれてな。ほんでまた明日コンビニで集合予定」

「それはすみません。ところでしゅーとって」

「あの子の兄さんのこと。安藤あんどう蹴入しゅーとやってさ」


ㅤときとのお兄さんそんな名前だったんだ。今度お礼言わないとな。


「しゅーとがな、心配しとったよ。突然倒れたからあんたも病気やないかって。ま、すーすー寝とったからとりあえず今は大丈夫やろと思ったけど」


ㅤ病気か。自分ではよくわからないけど、なぜかそれとは違う気がする。さっき夢を見ていたとき、はっきりとは聞こえなかったけど、ノイズのかかった声で何か言われていた気がした。


ㅤぼくは夢に夢中だったから、もう一つの声があるとすれば、それはきっと「オレ」の声だ。でも何を言っていたんだろう。


「ところでさ」

「はい?」


ㅤふうさんが眠たげなさっきまでと違い、少し神妙な面持ちで話しかけてくる。


「魔王を倒すって、いったい何をどうするん」

「え?」

「仮にありかがわかったとするやん。でもそこからどうするん。魔王ってじかで殴れるの?」

「それは……確かによくわかりません」


ㅤ何も考えてこなかった。考える隙もなかった。そもそもぼくは勇者になどなる気はなく、お腹空いてコンビニに行っただけだ。そしたら色々なことが起きて今に至る。


ㅤそしてさっきは気持ちと勢いに任せて、魔王を見つけて倒そうとまで言ってしまった。どうかしている。どうかしているけど、どうかしないとあきひめちゃんに会うことはできない。


「よくわかりませんけど、何とかします」


ㅤ気づけば本当に何の根拠もない言葉を言い放っていた。


「そか。ま、あたしは明日もバイトの予定。そういや弁当はあっちの二人にあげたけどお腹空いてへん?」

「ああ、なぜか今は大丈夫そうです」

「あ、そ。変なやっちゃな。とりあえず明日もコンビニ集合や、おやすみ」

「おやすみなさい」


ㅤぼくは確かに変だ。こんなことになるまでは、自分のことを普通の中学生だと思っていた。


ㅤきっと今でも「オレ」が勇者で、ぼくは普通の中学生なんだろうけど。今は深く考えすぎないで、あきひめちゃんを探しに行こう。


ㅤそれにしてもコンビニ行くの何回目だろ。

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