第12話 ゲームリスタート
ㅤ彼女が教室に来たのがわかると、途端に緊張する。特に向こうから話しかけられるわけでも、こっちから話しかけるわけでもないのに。
ㅤ鈴木愛生姫ちゃん。黒髪ストレートのロングヘアー。とてもいい匂いがするけど、
ㅤぼくの隣の席に座る。隣と言っても、席はみんな等間隔に離れているし、それでも近いはずなのに、近いからなのか、心の距離はものすごく遠く感じる。
ㅤ胸が苦しい。たまに授業中、彼女の微笑みを横目で見ることがあるけど、それが余計に辛い。一歩踏み出せば、何か変わるかもしれないけど、そんなことできない。だけど妄想では。
「好きです。付き合ってください」
ㅤそんな質素な告白を何度しただろう。そもそもぼくがあきひめちゃんを好きになったのはいつだっけ。何かきっかけはあったかな。
ㅤたぶん出会った頃は、可愛らしい人だなと思ったくらいだった。それが笑顔を見たりするたびに惹かれて、だんだんこの人のことを知りたいと思っていった。もしかしたら気が合うんじゃないかと思ったりしても、膨らむのは基本妄想ばかりで、現実の感触はほとんどない。
ㅤそれでもあいさつくらいはできたことあったかも。すごくドキドキして頭が真っ白になった。
ㅤ下駄箱で少し伏せ目がちに
「おはよう」
って言ったら、
「おはよう」
ってこっちが驚くくらい目を見て返してくれた。
ㅤそれだけでとても嬉しかった。恥ずかしかった。でも、それっきりだった。というか、このときでもわりと脈絡なくあいさつしたのに、また声をかけるなんて変じゃないか?ㅤ急に毎日声をかけたりしたら、ウザがられるか・キモがられるんじゃないか!?
ㅤそんなふうに思った。でもそれも、予防線なのかもしれない。もしもちょっとずつでも、何かが前に進んでしまったら、良いことばかりじゃなく悪いことも起きるかもしれない。
ㅤしょうもない日々でも幸せな何かが、崩れてしまうかもしれない。あるいはいつか必ず崩れてしまうところに、自分から突っ込むことになるのが嫌なのかもしれない。
ㅤだけど……ってアレ。これ何の時間だ。確かあきひめちゃんは魔王にさらわれたはず。もうこの教室にはいないんだ。もうここに来ることはないんだ。
『おい』
ㅤそうなると胸が苦しいとか辛いとか、そういう次元じゃない。心に穴が空いたような、さびしい感覚。風が通っても傷まない。ただ通り過ぎていくような
『やっぱりお前のだったか、あの感情は』
ㅤこんなことになるなら、やっぱりダメ元でも告白したほうがよかったか。たとえ質素な言葉でも、伝えた方がよかったか。考えれば考えるほど、涙が机にこぼれそうになってくる。
『オレはお前じゃない』
ㅤ机に顔を伏せれば、泣き顔は
『たぶん倒れたのは、オレじゃない時間が続いて無理したからだ。でも、今目覚めなきゃいけないのはお前で』
ㅤ彼女はぼくのこと、どう思っていただろうか。どうも思っていないか。そう考えるのが普通だ。
『……するのもお前だ。オレが勇者でお前が』
『って、聞いてないよな。そういうところ、嫌いじゃないぜ。じゃあそろそろ』
ㅤ目覚める
ㅤ眠り続ける
→目覚めろ!
ㅤこのゲームの主人公はきっとオレじゃない。進めば愛生姫ちゃんにお前が会えるチャンスは必ずあるはず。オレはそのために魔王を倒す!
——内なるパワーでいさむの体力が全回復した。
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