第11話 魔王を倒せば
「ちょっと、病気って何」
ㅤぼくより先にふうさんがときとのお兄さんに尋ねた。
「あん。おめぇらに教える義理あんのか?」
「お兄ちゃん。二人にはお世話になったよ」
ㅤときとが、デリケートな話に熱くなるお兄さんを
「おお?ㅤ言ってもいいのか。カウントダウン病のこと」
ㅤカウントダウン病?
「人にはそれぞれ鼓動を打てる数が決まっているとして。その鼓動は当然日々増えていくんだが、ときとの場合はその打てる鼓動の数自体が減っちまうらしいんだ」
ㅤそれはつまり。どういうこと。
「ゲームで言えば、体力は回復すれば一応元に戻る。だがときとの場合は体力ゲージそのものがどんどん減っちまう。いつかそれがゼロになっちまったら……っつうわけ」
ㅤそんな病気があるのか。正直、ときとの見た目からは全然わからなかった。その話を聞いてからときとを見ても、あまりよくわからない。お兄さんの話しは続く。
「たまに咳が出たり、動きが弱ったり、急に寝たりもするが根本的な問題は体内のカウントダウンだ。それを止める手術代を貯めてたんだが」
「お金がなくなったと」
ㅤふうさんが先回りして話しに割り込む。
「な。なんでそれを」
「あたし、コンビニで全部見てたもん」
「はあ?ㅤおめぇもいたのかよ」
「いたも何も、あのときの店員なんですけど」
ㅤ不機嫌そうに腕を組むふうさん。一瞬時が止まり、目を丸くしてコミカルに両手を上げるお兄さん。
「いや、あんときはすまん」
「そんな素直に謝られても」
「ただ何でああなったかよく覚えてねぇ」
「店入って最初にATM操作してたことは覚えてないの?」
「あ。そーだ、それはあわよくば金が戻ってねぇか確認のためにしたことだ。が、そのあとよくわかんなくなって、家に帰ったらときとがいなくて……」
ㅤ色々大変だったんだな。って、全然会話に参加できない。まだふうさんと二人の会話が続くから聞く。
「ちなみにそのバイクはそのよくわからん状態で盗んだんちゃうやろな」
「あん?ㅤこれはちげぇよ。いざというときに、ときとを運べるようマザコンからレンタルしてるもんだ」
「レンタル?ㅤそんな助けがあるなら手術代も補助が出そうだけど出てへんの」
「あん!?ㅤそんなもんねぇ……けど言われてみればだな」
ㅤマザコンことマザーコンピータの支援は手厚かった。ぼくはマザコンに生かされてきたと言っても過言じゃない。そんなマザコンがなぜ、その手術に関してサポートが不足していたのかは気になるけど。
ㅤそれより、ますますマザコンを早く直さなきゃいけないという思いに駆られて、ついに会話に参加した。
「実はぼくもお金がなくなりました。それだけじゃなく、クラスメイトがさらわれました。けどマザコンを乗っ取った魔王を倒せば、また色々と取り戻せるかもしれません」
ㅤお兄さんのサングラスを真っ直ぐ見て話す。こんなこと、前ならできただろうか。魔王は悪影響ばかり与えているようだけど、ぼくの中に何か変化を感じるのは確かだ。
「あんだと。魔王を倒すってか。ハッ、んなこと考えたこともなかったぜ、乗った」
ㅤそのときお兄さんのサングラスの奥が光った気がした。
「ちょっと。魔王もマザコンもどこにあるかわかんないでしょ。そんなん探すの骨折れるで」
ㅤふうさんが冷静に流れを止めてくれた。そのおかげで、別れ際のお巡りさんの言葉を思い出した。
『マザーコンピュータのありかについて、有力な推察をしました。興味ありませんか』
→興味あります
ㅤ興味ありません
「そういえば、この前会ったお巡りさんが気になること言っていました。あきらめるのはそれを確かめてからでもいいかもしれません」
ㅤ推察があてになるかわからないけど。今の自分たちが見落としていることに気づいているかもしれない。ただそれが的外れであっても、あきひめちゃんが捕まっている限り、ぼくが本心からあきらめることは難しいだろう。
「そんじゃ早速行くか、あん!?」
「はい!ㅤい?」
——急に体力が500消耗した。コンクリートの地面の上、眠りについた。
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