第10話 バイク乗りの正体

「危ねぇっっっ!」

ㅤバイクは急ブレーキをかけ、ハンドルを切り車体の側面を向け、ぼくらの目の前で止まった。


「危ないのはそっちでしょ!」

ㅤふうさんがバイク乗りに声を荒げる。


「何置いてんだよ、こんなとこに……あん?」

ㅤ黒いヘルメットをかぶったバイク乗りは、バイクを降り、地面に置かれた折れた傘を見つめ首をかしげる。

「何か見覚えあんなぁ。あっ、おめぇは!」

ㅤヘルメットを脱いだその男は、どこかで見覚えある顔。金髪に黒のライダースジャケット、黒いサングラス。そうだ、この男は!


→コンビニ強盗

ㅤ銀行強盗

ㅤ陽気なバイク乗り

ㅤバッティングセンター店長


「コンビニ強盗!」

「あんだと!?ㅤ誰がコンビニ……そうだ。何でおれはあんなことしてたんだ」

ㅤ首を振り、どこか悩ましげな仕草。そこに何か演じている嘘っぽさはない。そしてその強盗の声に、まだぼくの背中の上にいた、ときとが反応する。


「お兄ちゃん?」

「あ。そうだ、ときとを返せ!ㅤ人さらい!」


ㅤ人さらい?ㅤていうか、お兄ちゃん!?ㅤお金がなくなって、バカで無茶するお兄ちゃんってコンビニ強盗のことだったのか。何はともあれ、見つかってよかった。


「人さらいって人聞き悪い。あたしたちは迷子を保護してただけ」

ㅤふうさんが冷静に反論する。

「あんだと。だからやけになついてるように見えたってのか!」

ㅤコンビニ強盗改め、ときとのお兄さんが納得いったのかいってないのか微妙なニュアンスで叫ぶ。


「あんた見てたならもっと早く来なさいよ。あたしはあたしで荷物持って歩くの疲れたんだから」

ㅤふうさんが愚痴ぐちる。それは申し訳ない。バットに折れた傘にもらったお弁当まで持たせて。ときとよりは軽いと思ったけど。


「おれだって、早く行きたかったけどな。やけに懐いてるように見えたし、それに」

「「それに?」」

ㅤぼくとふうさんの声が重なった。ときとのお兄さんはふぅと一息ついてから語り始めた。


「勇気がなかった。なんとかするって家を出て、訳もわからずコンビニへ。そしたらそいつに撃退されて。合わす顔がなかった」

ㅤそう言って空を仰ぐ姿。サングラスのせいで細かい表情は読み取れないけど、苦痛が伝わってくる。

「まあ、コンビニのことは今思い出したんだけどな。どっちみち、何もできなかったことに変わりねぇ」


ㅤ目覚めたときとを背中から下ろし、ときとはお兄さんの元へ駆け寄り、話しかける。


「何があったかよくわかんないけど、会えてうれしい」

ㅤそう言って小さな体で兄を抱きしめるときと。少し間をおいて受け止めるようにハグを返すお兄さん。


ㅤときとはときとで、初めて会ったとき思い詰めていた。何となくそのことは話さないでおこうと思った。そこは選択する余地なく。きっとお兄さんがよくわからず行動していたように、ときともおかしくなっていたんだ。もちろん、そうさせたのは魔王。魔王がマザーコンピータを乗っ取ったから。


ㅤでも、こうして再会できたのはよかった。


「お兄ちゃんな、また一からがんばるよ」

「もう、無理しなくていいよ」

「いや。お前の病気を治すまであきらめん。文句あっか、あん?」


ㅤ病気?

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