第8話 戦利品と必要なもの
ㅤ振り向くとそこにいたのは、交番で出会ったあのお巡りさんだった。
「おや。あなたは確か、こどもを連れていた……」
「あ、はい。こんなところで会うとは」
「先ほど通報がありましてね。バッティングセンターで何やら揉め事だと」
ㅤお巡りさんの鋭い視線が刺さる。うわぁ、まずい。どう説明したらいいんだ。バンダナブラザーズの二人も悪気はなかったみたいだけど脅迫罪?ㅤそして無用な勝負をふっかけてボールをぶつけたぼくは傷害罪?ㅤ暴行罪?ㅤいや中学生だから違うのか。ってどっちみち、あきひめちゃん探しどころじゃない!ㅤと思っていたところに救いの手。
「すんません。彼はおらたちのネタに参加してもらっただけなんです。周りから見たら勘違いされやすくて」
「そうだ、そうだー!ㅤ……大変申し訳ありません」
ㅤバ、バンダナーズ(略して)……。機転が利くの、さすがお笑い芸人。実際、そんなに悪いことしていたわけじゃないし、このくらいの嘘はいいよね。
「そうですか。まぁ私も、マザーコンピュータが乗っ取られた今、小さな事件を追っていても仕方ありません。ではこれにて一件落着ということで」
「ちょっと待ったぁ!」
ㅤ誰だ、と振り向いた先には頭がツルツルのおやっさん。もとい、店長。白いシャツに青いジーパンが似合っている。
「見てたのよ。事の成り行きをじっと。ただ小僧に仕事を任せたつもりが、こんなことになりやがって」
「うっ、すみません」
「謝るこたぁねぇよ、むしろ
「え?ㅤありがとうございます」
「いいもん見せてもらった礼に、これ持っていきな。べらんめぇ」
——金属バットと、柔らかいけど当たるとほどほどに痛いボールを渡された!
「いいんですか?ㅤというかあの勝負見てどういう気持ちでくれるんですか」
「言ったろ、礼って。今後役に立つかはわかんねぇけどよ、んなこたぁどうでもいいんだよ。そうだ、俺のサインも書いてやるよ」
「それはありがたいですけど、荷物が増えると手が塞がってしまって」
「荷物?ㅤあぁ、あそこに置いてある折れた傘のことかい。あれはまだ必要なのかい」
ㅤ必要……。確かにもう必要ないかもしれない。傘としては使えそうにないし、もう変な脅しにも使えないだろうし、ときとを助けることにも使えた。もう充分貢献してくれたし、この先邪魔になるなら、手放してしまってもいいのか。
ㅤ手放す
ㅤ手放さない
ㅤうーん。この傘とは別になんてことない出会いだったはずなのに、どうしてここにきて思い出深いのか。
ㅤ手放す
ㅤ手放さない
「安心しろぃ。そんなに迷うなら、まだ持ってろ。バットはケースでかつげるようにすっから、そんでボールはポッケにでも入れてろ」
ㅤて、てんちょう。
→お、おやっさん。
——というわけで折れた傘はまだ持ちつつ、サイン入りのバットとボールを手に入れた。
「それからこれも受け取れ」
——時給900円からバンダナに1プレイ無料で打たせた分を差し引き、800円手に入れた!
「ありがとうございます。じゃあ、待たせている子がいるので、帰りますっ」
「おう。おとといきやがれ」
ㅤおやっさんは親指を立てて。
「おらたちもがんばるよ」
「がんばるよ!ㅤ……がんばります」
ㅤバンダナブラザーズは独特のコンビ芸であいさつしてくれた。
「ちょっとお待ちなさい!」
ㅤそんな中、お巡りさんは手を上げて慌てた様子。
「そういえば、マザーコンピュータのありかについて、有力な推察をしました。興味ありませんか」
ㅤ興味ある
→興味あるけど
「すみません。今はときとの元に戻ります。またの機会にお願いします」
——お巡りさんこと、皆川守、四十二歳が仲間になり損ねた!ㅤ目的地がときとを待たせているコンビニになった。
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