第6話 勇者の出番

ㅤコンビニを出て家に帰るはずが、また同じコンビニへ。でも今度はときとも一緒。少しでも贅沢させてやろうかと思い、ATMでお金を下ろそうとしたとき。異変に気付いた。


「あれ」


ㅤ残高がゼロなのである。目をこすって何度見ようとも、ゼロはゼロなのである。こんな話、どこかで聞いたような。そうそう、ときとのお兄さん。まさか、自分も同じ目に合っているなんて。ときとには何か言いづらい。とりあえず、今持ち合わせているお金で、おにぎりを買ってあげることにした。さらに二人分のお茶も買った。


「550円になります……って、さっきのお客さん?」

「あ、はい、たぶん」

「たぶんて。あんなに派手に暴れておいて。今度はこども連れてどうしたんですか」

「ええと、まあ、はい」

「いや、何も説明になってないんですけど。それよりさっき大丈夫でしたか」


ㅤさっき?ㅤ強盗との戦いのことかな。特にケガとかはしていないから大丈夫なはず。


「ノーダメージです」

「は?ㅤああ、そうじゃなくて、お金のことです」


ㅤ店員さんは後ろでお菓子の棚を見ているときとに聞こえないよう気遣って、途中から小声で話しかけてくれる。


「さっき、お金下ろそうとしてたけど、なかったんと違います?」

「どうしてそれを」

「例の強盗も一回確認しててん。そんで外出てまた入ってきたと思ったらあんなことなって」


ㅤもしかして何人もの人が同じ現象に遭っているのだろうか。たまったものじゃない。でも、マザーコンピュータには頼れない。というかマザコンが乗っ取られたことが原因の不具合……やっぱり早く、あきひめちゃんを助けて、マザコンを直して、世界を元に戻さないと。


ㅤあ、でもその前に、お金を稼がないと。モンスターを倒したらお金が出てくる世界じゃない。


→バイトをするぜ!

ㅤもうあきらめるぜ!


「すみません店員さん。いや、ねぇさん!ㅤこの子を預かっててくれねぇか」

「は、え??」

「ときと、ごめんな。お兄ちゃん少し出かけてくる」

「いや、いさむはお兄ちゃんじゃないけど」


ㅤときとに真顔で言われたことも気にせず、お金だけ置いて、棚にあった求人情報冊子へと駆け急ぐ。バッと開いて見つけたところにすぐさまケータイから電話をかける。そしてコンビニを飛び出す。


ㅤ目指す先はバッティングセンター。投げる機械にボールを集めてセッティングする、実にシンプルな依頼だ。こんなことに勇者様をこき使いやがって!ㅤとは思わない。むしろこれほど勇者らしい依頼があるだろうか。バッティングしたい人を支える機械を支える仕事。オレはこういうことがしたくて勇者になったと言えないこともないかもしれない!


ㅤ全力疾走でバッティングセンターにたどり着いた。体力が25減った。ここのおやっさんに早速あいさつして、なぜかメダルをもらい一打席打たせてもらうことになった。


ㅤオレくらいになると、折れた傘でもホームランを打てる。だろうけど、この傘はもう充分尽くしてくれた。ありがとう。金属バットに持ち替えて投入口にメダルを入れた。


→高めのストレート

ㅤ低めのストレート


ㅤカキーン!ㅤやっぱり勇者、センスが良い。ただなぜか打球が上がらない。振り下ろすようなスイングで、ボールのど真ん中を斬るように打ってしまうからか。もっと低い位置に的があれば、ホームランを狙い打てそうなものなのに。


ㅤそうこうして本来の依頼を受注して、仕事を始めた。そして間も無く、頭にドクロマークの入ったバンダナを巻いた二人組のお客さんがやってきて、その内の一人が打席に立った。


「イッテェェェェ!!!」


ㅤボールが放たれると突然ホームベースに立ちふさがったそいつは、ボールをお尻付近に受けた。


嗚呼ああ、きっと頭蓋骨ずかいこつが折れちまった。こりゃあ小便ものだな!」

「ヒャッハー!ㅤ小便ものだぁ!ㅤ……あれ。それを言うなら、べんしょうものでは」


ㅤこいつら、さては脅しにきやがったな。このバッティングセンターの経営状態をどう考えていやがる。勇者の血が騒ぐ。おやっさんに頼まれた依頼じゃねぇけど、ここはオレの出番でばんだな。バンダナ巻いているだけにな。よし、面白い!

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