1/見えない呪い

 場所を変え、応接室であろう部屋に通される。

 立派でふわふわした椅子に腰を下ろすと、両端にバルゴア、ヤタヤが立つ。

(なんだろう……まるでヤクザ映画に出てくるワンシーンみたい)

 そしてテーブル越しの椅子に彼女が座る。鎧のままだが、座りにくくは無いのだろうか。

「ルベルドから話を聞いております。記憶を、無くされたと」

「あの、その……!」

「記憶が無くとも私達の忠義は変わりません、ご安心を。それよりも、無事に国に戻られて皆、喜んでおります」

「は、はい…」

「3年前に”シラキ国”との一悶着が起こってから、我が国で様々な出来事が起こるようになりました。最初は姫様の消息不明、その後を追うかの様に王とお妃様も亡くなられ、そして……ある事件が起きてしまったのです」

「ある、事件?」

「男女の力逆転と言いますか……。女性の方が、その…強くなってしまった、と言いますか…」

「?」急に声が小さくなってしまったせいで後半ら辺が聞き取れない。

「男は非力に、女は凶暴になったと言う事です」

 すかさずバルゴアが話に補足を加えてくれたが、”凶暴”ではなく”強力”の方が正しい様な気がする。

「男女の力が逆転?そんな事、あるの?」

「私達も驚きました。今までの作業が楽になったり、想像以上の力を出せたり。逆に男性は重たい物が持てなくなったり、思うように力が出せないなど、様々な仕事に影響が出てしまったのです」

「それって今も?」

「……はい。他国にはそう言った変化は無かったようで…このアギサト国だけの現象、だと思います」

(だからこの人は鎧を着て……ん?待って)

「その出来事って、私が消えた後の話ですよね?何でこの二人はメイドを?」

「元々その人達はメイドでしたから……」

(執事と言う選択もあったのでは?)

「今は家事全般の仕事は男性が、騎士団の方は女性が仕切っている状況です」

「ルベルドも、まさか?」

「……ルベルドは、アギサト国では最強の騎士でした。我が国、貴族の為に精進していました。ですが、この怪奇によって彼は最弱の騎士に成り果てました。女性が戦に出るようになってからも彼は男一人で戦い、怪我をしての繰り返しです。…シラキ国にまたいつ攻め込まれるか分からない現状、彼には戦では無く城内の巡回、そして戦場後の状況確認をお願いしていましたが……

 そのお陰で姫様を見つけられたのです」

「そう、だったんです、か……」

(だからあの時、馬から降りる際に二人一緒に倒れたのは私を支える事も出来なかったからなのね)

「ルベルドは他の騎士よりも別格の強さを持っていた反動か、他の者よりも異常に力が弱くなっている気がします。自分の身も守れない人間が戦場で生き残れるはずがありません。それで、ですね……姫様には、その…」

(またもじもじしてる)

「ユタナ。いい加減、肝心な所で恥ずかしがるのをやめろって何回も言ってるだろ」

「う、うるさいな!し、仕方ないだろ!」

(凛々しい方かと思ったら可愛い一面が……可愛い)

「あのですね!」

「は、はい!」

「姫様の口から、ルベルドに騎士を辞めるよう言ってもらえませんか?」

「わ、私から?」

「私が何度言っても聞かないのです。『私はこの国の騎士です。この国を守ると言う事は私にとって生きる意味でもあります。たとえそれで命を失っても本望です。』と」

「……」

「ですから、姫様の命令であればきっと彼も諦めが……」

「ユタナの言いたい事も分かる。だがな、ユタナ。ルベルドは騎士としてしか生きられないんだ。小さい頃からずっと剣しか触ってこなかった奴だぞ?今更剣以外を持てる訳がない」とバルゴアが彼の気持ちを汲んだ言葉をかけた。

「しかし、死んだら元も子も…」

「ならこれはどうだ?姫様の従者として仕えさせるって言うのは」

「姫様の従者…」

「騎士は騎士でも姫様を守るための騎士だ。騎士団に配属はされないが、戦の度に心配する事も無くなるだろう」

 ユタナは大きなため息を漏らすが、何か吹っ切れた様な顔を見せる。

「それなら私も文句はありません。後は彼次第ですが……」

「あの、結局私は何をすれば…?」

「ルベルドを姫様の従者として認めてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」

「わ、私は別に問題は無いから!ルベルド次第で大丈夫!」

「有難う御座います…あ、紹介がまだでした!申し訳ありません。私、アギサト国の騎士団長を務めております、ユタナと申します。以前は、その…ランドリーメイドとして、あの…働かせて頂いておりました……」

「この子真面目なんだけど、小さな事で気にするタイプだったから物凄く面倒くさかった」

「! ヤタヤ!今はそんな事を言う必要はないわよ!」

 二人の口喧嘩を見ていると「二人は犬猿の中なんです。姫様は気になさらなくて大丈夫です」とバルゴア。

 何故だろう、不思議とその光景が懐かしく思えてしまっていた。

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