1/想像を超えて

 颯爽と走る馬から見る景色は、沈んでいた心を高ぶらせた。

 日本では見られない様な景色を目にする度、本当に違う世界に来てしまったのだと自覚してしまう。

 それにしてもこの世界の文化はどこまで進んでいるのか、著者の私にも分からない。

 そこまでしっかりと書いていない事を今になって後悔している。

 木々が生い茂った林を更に抜けるとその先には広い庭園があり、絵に描いた様な花や川が輝いていた。

 大きな橋を渡ると鎧を着た二人の門番が立っていた。

「ルベルド!いきなり馬を連れ城から出るとは一体何が……!」

「王女様を迎えに行ってまいりました」

「何を言って……カ、カナエ王女!?」

「ほ、本当だ!カナエ様が、カナエ様が戻ってきた!!」

 門番の二人は抱き喜び合う。

(そこまで喜ぶって事は、私は一体どのくらい姿を消していたの)

「すみませんが、早く王女を城の中へ」

「あぁ、すまない!今門を開ける」

 大きな門がゆっくり開くと、その先にはまるで大きなテーマパークの、それ以上の城が現れた。

 首が痛くなるほどの大きな城の迫力に開いた口が塞がらないほど圧倒される。

「王女様。さぁ、手を」

 いつの間にかルベルドは馬から降り、待っていた。差し出された手を頼りに降りる。

「あ、ありが…」

 ルベルドに体を預けたはずが、私を支えきれずに二人一緒に倒れてしまう。

「も、申し訳ありません!お怪我は!?」

「わ、私は大丈夫!ごめんなさい!私重くて……!」

「王女が悪いのではありません!私が……」

「「姫様!」」

 遠くの方から二人同時に名前を呼ばれてふと顔を向けると


 メイド服を着た男がこちらに向かって走ってきていた。


 私は思わずルベルドを盾に身構える。

「はぁ、はぁ……ど、どうなされました、姫様……!はぁ…!」

 息を切らして先に声を掛けてきたメイド(男)は見るからにボディービルダーの様なたくましい筋肉をまとい、長い三つ編みだけがメイド服には合っていた。

「全速力で走ってきたらそりゃあ怖いでしょうよ」

 クールな装いで汗ひとつかいていないもう一人のメイド(男)はクールビューティと呼ぶにふさわしい風貌をしているが、男にしては綺麗すぎると思う容姿と涼しげな長髪がなびいていた。

(この二人も私を知っている様子だけれど、思い出せない。というか、こんな二人私は書いた覚えはない!私の趣味じゃ)

「? 姫様の様子がおかしい気がするんですが」

 ルベルド越しに私を見ようと二人のメイドが押し寄せる。

「あの、お二人とも、少し、顔が近過ぎませんか?」

「そりゃあしばらく姫様の顔を見ていなかった訳だし……。ルベルド、邪魔だ!」

 あっさりとルベルドの盾が突破され、メイド服を着た男二人に囲まれた。

「なんか臭いし汚いと思ったら姫様!凄く汚れている!」

「いやいや、遠くからでも分かるだろ。とりあえず、湯浴びの準備を」

 クールメイドは急いで城に戻り、マッチョメイドは私を抱え上げる。

「ルベルド。一旦姫様はこちら、姫様専門メイドが預かります」

「わ、分かりました…」

「待っ、待って!専門のメイドってなに?!」

 ものすごい速さでその場を去るメイドを見送るルベルドの手は、微かに震えていた。


 バスルームであろう部屋まで連れてこられ、汚れた服を脱がされるまでは良かった。

(私を綺麗にするのは別に良いんです。むしろ有難い。けれど……!)

「見られながらなんて出来ません!」下着姿のまま抵抗をしていた。

「安心して下さい姫様。私達は小さな頃からずっと見てきました」クールメイドは真っ直ぐな瞳でそう訴える。

(え!?何?!裸?裸じゃないよね!?成長していく姿だよね!?)

「姫様の裸を見ても私達は何も感じませんよ」和かな顔で答えるマッチョメイド。

(それはそれでショックな気がしなくも、いやいや!)

「一人で出来ますから!外で!頼みますから外で待ってて!」

 私の抵抗も虚しく下着を剥ぎ取られ、湯気が立つお湯に入れられた。

「見られた…家族以外に裸見られた……」

「うーん、少し姫様痩せられたのでは?もう少し筋肉、いや体重を増やされた方が良いですね」

「今日の夕食は肉系にしますか?」

「肉系も大切だけど野菜もしっかり、あと今朝届いた果物もお出ししましょう」

(後ろで家政婦みたいな会話している……本当にメイドしてる。コスプレじゃなかったんだ)

「姫様。そろそろ上がられて髪と体を」

「あ、の、本当に一人で出来ますから」

「……ヤタヤ、お前は左を頼む」

「わかった」

 すると二人は服を捲り上げ、私の入っている湯に。

「いやああぁあ!!!やめてーーーー!!!!」


 どっと疲れた顔をしながら私は新しい下着、新しい服を着せられ、現在髪の毛を乾かして頂いている。

(なんだろう……もし、着せ替え人形に心があるなら、こんな気持ちなのかしら)

 二人は真剣に私の髪や体を洗い、服も着させ、そこに下心なんて一切感じはしなかった。

(けれど異性にあれこれされるなんてこっちが正気でいられないわ)

「姫様?眉間にシワが」

 クールメイドが私の眉間に指を当てる。

「折角のお顔が悪く見えます。後で顔のマッサージをさせて頂きますね」

「でしたら私は体のマッサージを」

「わー!わぁああーー!今度!今度の機会にお願いします!!」

 二人は良心で言ってくれたのだろうが、今の私には辱めプレイでしかない。

(そういえば、下着も服も私にピッタリなサイズだった)

 前から用意されていたのか、それともあらゆるサイズを用意していたのか分からないが、準備が早い。

 礼装とまではいかないが、結婚式に行っても大丈夫なくらいの服装を着せられた。

(これを毎日着なきゃならないのかしら……)

「だいぶ前に用意した服をようやく姫様が着られるのを見れて良かった」

「だいぶ、とは?」

 腕を組んでしばらく考えてから「姫様が居なくなってからそう……大体3年前くらいか」と答えた。

「3年前……」

「ルベルドが言っていた記憶障害は本当みたいだ。私達の事も忘れている」

「ご、ごめんなさい」

「姫様が悪いわけではありません。記憶を無くされても、私達は姫様をしっかり覚えています」

「……」

「申し遅れました、私はバルゴア。メイド長をしています」

 まさかのマッチョメイドがメイド長。しかも名前で強さが倍増している。

「私はヤタヤ。メイド副長を務めさせて頂いております。嫌いな事は汚れ仕事です」

(え?今、嫌いな事を言う必要あった?)

「二人で姫様の身の回りのお世話、掃除、洗濯、料理、その他諸々させて頂きます」

(本当に専門のメイドさんだ。うわぁごつい)

「あ、あの!ちょっと聞きたいことがあるんですが」

「何なりと」

「女のメイドさんっていらっしゃらないのでしょうか?」

「……」答え難そうに二人は顔を見合わせる。

「それについては、私がお話させて頂きます」

 バスルームのドアがゆっくり開くとそこには、立派な鎧を着た凛々しい女性が立っていた。

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