1/ここはどこ?

 これはまさか、死後の夢なのかしら。

(確かに自分の部屋に居たはず……)

 まさか大自然の中に立っているなんて、夢としか考えられない。

(服もそのまま……ん?服がそのまま??瞬間移動でも会得したのかな)

 そんな呑気な事を考えていると遠くの方から声が聞こえてきた。

「……ーー!……ーさま!!ぉぅ女様ーー!!」

(?王女様?どこに??)

 だんだん近づいてくる人物をよく見ていると、中世に出てきそうな騎士の様な姿をしていた。

 近づくやいなや、騎士は馬から降りると息を切らしながら私に近づく。

 実際に間近で見る事は無いであろう鎧を身に纏い、腰には剣、顔は兜のせいで見えない。

「はぁ、はぁ、よくぞお戻りになられました。王女様」

 周りを見渡すが、王女らしき姿は私には見えない。

「あの、王女様ってどこにいらっしゃるんですか?」

「何を仰っていますか!王女様は貴女です。カナエ王女様」

「?……ちょっと待って下さい。今、私を王女と呼びました?」

「そうですが……何か問題がありましたか?」

「いや、あの……。多分人違いだと思うんですが、私はただの一般人でしてぇ!」

 急に顔を否、兜を近づけてきた。

(兜から荒い息が…!)

 男は一人で納得し、私を解放した。

「いや、やはり貴女様はカナエ王女です。小さな頃から見守らせて頂いた身、見間違える筈がありません」

「えぇ……」

(いやいや、私は貴方を知らないし!第一ここは一体何処なの?)

「あの、ここって何処なのでしょうか?」

「記憶が曖昧なのですね。ここは"アギサト国"です」


 "アギサト国"


(どこかで聞いたような…見たような……)

「?…あぁ!ま、まさか!!」

(もしかして、自分の書いた小説に、迷い込んでしまった?あり得ない……ファンタジーを信じる歳でも無いのに、今更ワクワクなんてしない。むしろ怖いわよ)

「何か、思い出しましたか?」

「いえ、これと言って何かを思い出したとかは無いですけど、気付きたく無い事に気づいてしまった気がして……」

「?」

(ただ単に私が書いた小説と似ているところがあるだけで、本当に小説の世界に来てしまったとは言えない……。そうよ、そうに違いない)

「あの、貴方のお名前を聞いても?」

「失礼しました。私はアギサト国の騎士、"ルベルド"と申します」

「だああああーー!!」

「!? ど、どうかしましたか!?も!もしや!記憶が?!」

(間違いない!この世界は私が書いたものだ!)

「とにかく、その格好のままでは風邪を引かれてしまいます。一度、城へご帰還されては?」

「お城……?」

「この丘を越えた向こう側に見えるのが我が国"アギサト国"の城です」

 丘の上から見渡すと、とても両手では測れない程の広い国が目の前に広がっていた。

 洋風な家々と、少し離れた農場には牛や馬がのびのびと行き交い、あちこちにある風車がゆっくりと回ると優しい風と共に草花の香りを運んでくる。

「すごい……」

 ルベルドは兜を外し、こちらを見つめてきた。

(っ!イケメン!こんな間近でイケメンなんて見たことがない私には眩しすぎる!まぁ確かに自分の理想で描いた騎士様ですし?多少リアルを越えた要求を詰め込んだ人ですし?本当に現実に居たら女は黙って写真を撮ってしまう容姿でと書きました!)

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です!目が眩んだだけです!」

「では急いで戻りましょう」

 指笛を吹くと少し離れたところに待機していた馬が颯爽と駆けてきた。

「さぁ」と馬に乗る様に促されるが、馬に乗った事が無い私からしてみれば、まず何をすれば良いのか。

「あぁ……、ではまずあぶみに足を掛けて頂いて」

「こ、こう?」

 鐙と呼ばれる馬の左右にある輪っかに足を入れて、思いっきり地面を蹴り上げ勢いで馬に跨った。

(意外と高い……!)

「やはり体は覚えていらっしゃるのですね」

「え?私、馬に乗った事があるの……ですか?」

「私に敬語は必要ありません。話しやすい様にして下さい。えぇ、何度か馬に乗られていらっしゃいました」

 頭の片隅にでも覚えているだろう記憶を探してはみるが、やはり何も思い出せない。

(むしろ、この世界は私が作った物だから無くて当然なのかもしれない)

 私が知らない記憶がこちら側の世界ではあるみたいで、とても不思議な気分だ。

 ルベルドは慣れた様子で馬に跨り、私を包み込む形で手綱を握った。

「っ!」

「大丈夫ですか?鎧が体に……!」

「大丈夫!なんでも無いです!」

(私の方こそごめんなさい。雨で濡れている上に湿気臭くて本当にごめんなさい!馬もごめんなさい!できる事なら自分の足で走って行きたい!)

「ゆっくり行きたいところですが、急いで戻ってよろしいでしょうか?」

「お願いします!」

(早く帰れるのなら何でも良いです!)

 くらの前方に手で掴めそうな部分を握りながら早く城につくことを祈った。

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