18杯目 そしてアイツが見つかった……

 勇者召喚暦二〇二〇年・六月二十三日・サラマンダー・天気:晴れ


 ヒュ~♪ 今夜は冒険者ギルドの酒場で飲んでいるシオーネさんです!

 相席してるのはエルフィーナ氏。なんか、珍しく労ってくれるらしいので、お言葉に甘えています!


 だって、さっきまで昨夜の件で本当に大変だったんですよ!

 前夜の宴会のあと気持ちよく自宅で寝ていたのに、保安騎士隊に朝も早くから叩き起こされ冒険者ギルドに連行されてですね?

 牢屋から脱出した方法とか、どうやって出口まで辿り着いたのかとか根掘り葉掘り訊かれ続け、もうくたくたですよ!


 アレはきっと私も共犯なのではないかと疑ってましたね! そうに違いない! そんな目をしていた気がします!


 木杯を呷りつつ愚痴っていると、


「そんなわけないでしょう? はいはい、飲んだ飲んだ」


 呆れた様子で笑いお酒を注ぎ足してくれるエルフィーナ氏。

 むぅ……なんですか? 今夜はやけに気が利くじゃないですか……。ハッ! これはもしかして罠?! 私、酔っても口は軽くなりませんよ!

 元々共犯でもないですし! けど、お酒は頂きます! お酒に罪はないので!


 ふぅ……。しかし、今回の件は結局なんだったんですか?

 色々協力して犯人確保にも大きく貢献したにもかかわらず、詳細なことはなにも教えてもらえてないんですけど?


 お酒をちびちび胡乱な視線をエルフィーナ氏へ向けると、


「知りたいの? 下手に首を突っ込むと面倒にしかならないけど?」


 木杯を傾けつつどこか楽しげに問い返されます……。

 あ、うん、やっぱりいいです! 私は平和に毎晩お酒が飲めれば幸せなので!


 お酒を注ぎ足す私を見やり、好きよシオーネのそういう性格……でも、残念だわ。動かしやすい優秀な手駒が欲しかったのに、と肩をすくめるエルフィーナ氏。


 まぁ、吟遊詩人の間で噂になっているので、多少は知ってるんですけどね……。

 ふふっ、ときには宮殿や屋敷にも出入りする吟遊詩人の情報網を舐めてはいけません。

 なんでも、王侯貴族が派閥争いに本来中立であるはずの勇者と聖女を巻き込んだとか……。そのせいで二人の関係に少なからず溝ができているらしいです。


 でも、今回ような事件があったということは、現場は噂以上に深刻な状況になっているのかもしれませんね……。カナエ氏、これから大丈夫でしょうか?

 関わらないと決めたもののやはり少し心配です。


「あぁ、そういえば……はい、今回の報酬と……これはおまけよ」


 とか思っていると、目の前に置かれる革袋と一枚の紙。

 凄い! 金貨が沢山! けど、こっちの紙はなんですか?


 予想以上の報酬に喜びながら書面の内容を確認した瞬間、思わず手にした木杯を落としてしまいます……。そこに記されていたのは、とある魔物の発見報告。


「遭遇場所とも近いし、特徴から同一個体の可能性が高いそうよ……」


 その言葉に食い入るように読んでいた紙から顔を上げると、真剣な表情でこちらを見つめるエルフィーナ氏と目が合います。

 なるほど……全てお見通しというわけですね。そうでなければ、わざわざこんな情報を渡してきたりしませんか……。おまけとか酷い冗談です……。


 これは、カナエ氏の心配とかしている場合ではありませんね……。

 いや、むしろ彼女にこれ以上関わらないように、あえて教えてくれたんでしょうか? 相変わらず食えない人です……。


 まぁ、でも……とりあえず今夜は飲みましょう。飲んで心を落ち着けないと……。



 今夜のお酒

  ユウヒ ザ・リッチ(麦酒)(度数6):一杯

 トッサツル 純米酒(度数15度以上16度未満):二本と少々


 おつまみ

 コロッケ、天ぷら、根菜のきんぴら、オムライス

 

 連続飲酒日数:十九日目


 そうですか……見つかりましたか……。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る