吟遊詩人だとしてもっ

19杯目 決意を新たに……

 勇者召喚暦二〇二〇年・六月二十四日・ウンディーネ・天気:晴れ


 ひくっ……イェ~イ、今宵も~飲んでる~、シオ~ネ~さ~ん♪

 む……お酒がなくなりましたか、給仕のお姉さん! 追加! 追加です!

 大丈夫ですよぉ~、まだいつもの量ですし! アレです……今夜はちょ~っと疲れていて酔いの回りが早いだけです……。大丈夫、大丈夫、問題なし!


 テーブルにもたれて追加のお酒を待ちながら、昨日エルフィーナ氏に渡された紙を再び広げ内容を確認します……。

 数年前、あの七人パーティを襲った魔物。三人の命を奪い、生き残った四人の内三人もそれぞれ片腕に両足、両目を失うことになった元凶。

 

 あれから追い続けて、ようやく掴んだその手がかり……。

 未だに討伐されていないとは思っていましたが、現実を目の当たりにするとなんだか複雑な心境ですね……。


 自身の曖昧な感情に苦笑しつつ運ばれてきたお酒へ手を伸ばすと、向かいの席に座る人影が……。誰ですか? 今夜はちょっと相席はご遠慮願いたいんですけど?

 そんな思いを乗せた視線の先にいたのは、数日前に助けた神官の女性でした。

 肩口で切り揃えた青い髪に、両目を覆う白い包帯、そして明らかに場違いな白地に金糸で装飾を施した高価な神官衣。


 まったく……相変わらず間が悪い。なんてタイミングで来るんですか……。

 はっ、なんです? こんな場末の酒場にやってきて? また襲われたいんですか?

 先日のことを引き合いに出し鼻で笑い、どこか八つ当たり気味に言い捨てますが、


「シオーネ……冒険者ギルドのマスターに聞いたわ。貴女、一体なにをするつもりなの?」


 かつて七人パーティの仲間まで私の親友だった彼女、ノンネ・クレールスは昔と変わらぬ様子で優しく問いかけてきます。

 エルフィーナ氏め余計なことしてくれましたね……。いや、これは彼女なりの気遣いですか……。せめて昔の仲間には全てを伝えろという……本当、お節介です。


 そう心中で愚痴りつつ、ノンネへの対応をどうしようか迷っていると、


「グラディとシエールも心配していたわ。シオーネ? 無茶な考えは起こさないで?」


 全てを察しているのか他の二人の名を出し諭してきます……。

 片腕を失った剣士グラディ、両足を失った魔術師シエール、懐かしい友人たち。

 昔からそうでしたよね、ノンネ……なにかと暴走しそうになる私をあの手この手で止めようと必死でしたっけ……。


 だとしてもっ……譲れないものはあるんですよ、ノンネ。

 私はアイツを許せない……。私たちから多くを奪ったあの魔物を……。

 貴女だって、あんなことがなければ両目を失わずに済んだじゃないですか……。好きだったんですよ、ノンネの月のように輝く銀色の瞳。


 ふふっ……ありがとうございます、ノンネ。実は貴女と話をするまで自分の確かな気持ちが分からずにいたんですよ……。

 おかげで決心がつきました。私はアイツを討伐します。そう言って笑いかけると、どこか諦めた様子でため息をつくノンネ。


「止めるつもりが逆効果だったみたいね、シオーネ。貴女、変わったわ」


 まぁ、そうかもしれませんね……。ささっ、景気づけに飲みましょう、ノンネ。

 木杯へお酒を注ぎ、勧めると躊躇いがちに口を付け、


「結局、本当の意味での冒険者は貴女だけだったのかもしれないわね……」


 昔と同じような微笑みを浮かべながら呟く親友。

 そんなわけありませんよ……だって、今の私は吟遊詩人なんですから……。



 今夜のお酒

 ユウヒ超ドライ(麦酒)(度数5):一杯

 コッシノカゲトッラ 特別純米酒(度数15度以上16度未満):二本と少々


 おつまみ

 豆腐ハンバーグ、ポテトサラダ、根菜のサラダ、ご飯


 連続飲酒日数:二十日目


 お酒、美味しかったですねぇ……。

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