九話『偽装彼氏と忠告』
「ごめんなさい、つい、力んでしまって……」
手を繋ぐと指がキマり、腕を組むと肘がキマる。なんでさとは思ってたけどなるほど力んでたからか、宝田さんはお茶目だなぁ。だいじょぶだいじょぶ、全然痛くないからね、あ、そうだ、ちょっと用事思い出したから先行ってて?
「…………分かった、美都くん、またね?」
「んじゃ、またねー」
うんうん。これでよし。……宝田さんちゃんと先に行ったな?
「えーと、隠れているのは分かっ──
「ここであったが数年目往生せいや国本美都ゥッ!!!! かしら!!!」
──ってんのわぁ!!? っぶなぁ……」
出会い頭の釘バットをひょいと避けて、布を被った刺客に向き直る。見なくても分かる、
「で、今日は何の用があって来たの?」
「言わなくても通じると思いますかしら」
「じゃあ帰ってください」
「話が通じませんわね……分からないかしら?」
「分かったから帰れと言ってるんだよなぁ」
「仕方ないですわ……簡潔に言うかしら。剣道部が動きだすかしら」
「どや顔してるところ残念だけど白浪さん。剣道部が動くのは常識だよ? 今朝だって部活してるんじゃないかな」
「物理的には人間なんですから動くのは当然かしら、阿呆ですの!? ひょっとして国本美都まともに喋れないのかしらね!!!? ほぅ!!?もしやあほなのですかしらっ!! あほーぅ!!!」
「んだとぅ!!? アホって言った方がアホなんだよ!!! ばーか!!!」
「バカって言った方が(以下略)」
「(省略)」
◆
「御姉様は何故こんな奴を……取り敢えず叩きますわ」
「おっと話が振り出しに戻った」
疲れきった挙動で振られたスポチャン用の剣をひょいと避ける。なぜ朝から加減が出来ないと判断するくらいに疲れてるんだこの人。
「折角人が親切心で忠告に来ていますのに……」
白浪さんは被っていた布を投げ捨て、廊下に座り込む。先ほどまでは御姉様見守隊の隊長としての発言で、ここから先は個人としての発言だという事だろうか。
御姉様見守隊にはそこそこどころではない恨みはあるが、白浪さん個人に対しては────……いややっぱそれとなく切り離して考えてみたものの、そう考えられるものではないな。うん。
「それは……まあ悪いと思った」
「じゃあ腹切って来てくださるかしら? 介錯はいたしますので。かしら」
ほら。このとおり。どっちみち仲良くなれるような関係ではないのだ。そうであれば平乃に対しても言い訳は立つだろう? というわけで白浪さんから差し出された木製にしてはやたら重たい木の棒を押し返す。よく見たら中間に切れ目が入っていて引っ張ったら黒光りするものが見えたような気がする。
「…………何しれっとドス渡してきてるの!!?」
「大丈夫、介錯はすぐ致しますわ」
「そういう問題じゃなくない!!?」
「ええ、勿論元剣道部として逃げ傷は恥ですものね」
「は? ……いや背後から介錯は逃げ傷じゃないよね!!? そもそも背後から切られたところで恥でもなんでもないからね、逃げる相手を不意打ちする方が悪い」
「そうかしら。世にはこんな言葉もありますわよ。『最後に立ってた奴が正義』」
「……何それ」
「ペン剣十二話、主人公自らの手で広めた情報を悪役に利用されあわや壊滅の危機に陥った時の相棒の台詞ですわ。知らないかしら?」
「……ペン剣は知ってるけど」
「ああ詳細なエピソードが思い出せない? それならちょうどいい今ここになんとペン剣第一期のブルーレイ特典版が丸々ありますわコレを見て学習していただきましょうそれとここに第一期該当のコミカライズと初回の映画のノベライズがありますわよ是非コレも読むといいかしら私のお勧めはそう何と言っても────」
「ストップ近い止まれ!!」
「え、これからですのに。……で、何の話だったかしら。そうですわ、不意打ちされて倒されたとして、それをズルいと誰が糾弾できますの?」
「……ごめんやっぱわからない、何の話?」
「…………剣道部は一枚岩じゃないって事ですわ。いえある意味一枚岩かもしれませんが、手段の選択はしないかもしれません」
「鶴来先輩はともかく、剣道部が卑怯な手段を取ってくると?」
「……ふんっ、せいぜい足掻くと良いですわ国本美都ゥゥゥゥゥっ!! ……かしら」
そう言うとひょいと見守隊の布を片手に、白浪さんは教室の方へと歩いていった。
…………。
「えぇ……?」
◆◆◆
────その日の放課後、平乃は家に帰らなかった。
『────やっほー美都!? 元気してる?? 今ねー、鶴来先輩? 剣道部の部長さんとねー、しゃぶしゃぶに来てまーす!! え、羨ましい!? そうだよねぇ……食べ放題来たことないもんね!! そんでそんでこの後なんとお泊まりしちゃいまーす!! ね! 先輩!! 良いんだよね!?「勿論いいぞ! 私が怪しくない人間だと何日でもかけて証明してみせよう!!」というわけで今日は家帰らないで泊まっちゃいまーす!!』
「……あの、鶴来先輩、大丈夫っすか?」
『「何がだ? まず国本美都、貴様の信頼無くしては部活に顔を出すまい? その為の行為、恩義に感じてくれよ?」』
「あー、いや。ま、いっす。それはそれで助からないこともないですから」
『「そうであろう?」そんじゃすいませーん!! 五人前くださーい!!「ん?? 五人前?」 ふふーっ、たべるぞー!!! 「今五人前と」あー、すいませんコレも追加でーっ!! そんじゃまたね美都!!』
「おうまたなー……って返事聞く前に切ってら……」
◆◆◆
……Zzz……ん…………深夜にスマホが鳴り出した。電話か。
『────すまないが、国本美都…………彼女を引き取ってはくれな───』
俺は聞ききる前に通話を切断した。
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