七話『幼なじみとあるバイト面接』

「んっんー、君が応募してきた子? 可愛いね、採用!!」


「バイト募集してるお店と聞きまして……その、はい!? 良いんですか!!?」


 バイト先に来たら事務室に平乃が居た。よそ行きの緊張で肩肘張った平乃も可愛いね。


 ……じゃないよ。そんなの聞いてない。俺全く聞いてないよ。聞いてないからね大体平乃お金に困ることはないし、部活やっててバイトなんてする暇……。


「いいのいいの、たまに来てくっコロプレート食べきってくれる子でしょ? 食べさせ甲斐があるね」


「は、働き手として雇ってくれるんですよね?」


「……んー。君。どうしてウチで働こうと思ったの?」


「え、それはお金が必要だったからです、けど」


「まあー、そうは言うけど君。ぶっちゃけ?」


「っ、違います!!」


「こちとら店長だからね。見れば分かるんだよ、君、多分この業種あんまり向いてないよ。料理、あんまりしないよね?」


「それは、はい────」


 平乃は目線を下へどんどんと落ち込んでいっている。俺はそんな面接に割り込む事はせず、その横を迂回して通り過ぎていく。


 近寄ってしまったら、平乃は無理に働かなくていいよ、なんて言ってしまいそうだったから。


 ◆◆◆


 なのでバイト後。


「という訳なんですよね先輩」


「……あ、今日来てた子? 別にどっちでも良いんじゃね?」


 以前クッコロプレートじゃんけんに敗北した先輩一章十六話ファミレス回後編参照に当店自慢の『オールスイーツレボリューションパフェ(¥2880+税)(1.7kg)』を奢ることになった。


 裏方からは悲鳴が上がっていた。今日は店長がいるので+300gあるだろう。2kgのクソデカパフェ。運ぶ奴を見て先輩はご満悦だったようだ。口許が歪んでやがる。


 ……まあ運んだの俺ですけどね。はい。最後の仕事だぁって押し付けられまして。言うほど重たくはない。


 ただ夜の人間は太りやすい。本人たっての希望ではあるが少し反対したが『うわ、口答えすんの? そのご身分で??』と。


 ……まあ太ればいいんじゃないかな。良いとおもうよ。


「先輩的には。人間、働きたきゃ働けば良いと思うし、勝手に来たなら勝手にやらせときゃ良いと思うんだけどね」


「あれ、相談のってくれるんですか。意外」


「相談料貰っちゃったから、しゃあない」


 そう言ってかつかつとスプーンでパフェの載った大きなグラスを叩く。先輩の顔面にはでかでかと『面白そうじゃん?』と書いてあった。


 それからスプーンで対面の座席を指すので渋々俺も座る。


「それじゃ、俺に超絶可愛い幼なじみがいることは前に話したかと思いますが」


「ちょい待てや。なにその、いや、そんなん聞いてないが???」


「え? あ、前に話してないですか? いやでも……常識ですよね?」


「あー……まあいいや、続けろ」


 どかりこ、と座席に足を組んで座り直す先輩(女)(十七歳)。俺は常日頃から言ってるので寧ろ聞いてない方が悪いくらいじゃないか?


 まあともかくだ。気を取り直して。


「究極に可愛い幼なじみがここの制服来たら女神降臨、世界は滅びるじゃないですか」


「は?」


「何がおかしいんですかまあいいや続けますね。そもそも超究極女神が」


「はい国本くんストップ。わざと??? わざと困らせようとしていない??? 三千円のパフェ奢らせたのは悪いと思ってますからちょっと一回落ち着いて」


「なに言ってるんですかこれからですよ、相談に乗ってくれるって言ったじゃないですかぁ」


「わ、悪かったよ。この通り謝る」


「なんか謝られてますが、なにも謝ることはないですよ。なぜならこれから神『もうやめてよ』……神? 『困ってるよね彼女』……神ィッ!!?


 ◆◆◆


 ノリノリでイマジナリー平乃と会話していたらドン引きされちった。てへぺろ?


「……国本くんこっわ、今後近寄らんとこ……」


「…………まあ本当のところ、バイトする必要のない幼なじみが急にバイト始めようとしてるのが奇妙で引っ掛かってるんですよね」


「うわぁ、急に正気に戻るなぁ!!?」


「俺的にはパワー型の平乃が猪突猛進をしてスピード型の平乃が」


「ごめん正気戻ってきて!?」


「あいつ人の話を聞かない節があるんですよね、自分が他人に与える影響を過小評価してるというか」


「あんたも充分人の話聞いてないよね!?」


「まさか。聞いてますよ、大丈夫です。……平乃が可愛いって話でしたっけ?」


「ちっげぇよ!!!? んだコイツ!!!? 真面目にやってくれないとさぁ……君にはバイトでちょいちょい代わって貰ったり助けて貰ったりしてるし、ちゃんと奢ってくれるし。そういうの加味して、柄になくちょっとは聞こうと思ってたんだけど」


「あ、先輩、パフェ溶けてますよ? なんで食べないんですか?」


「はークソがッ!!! もう知らねーわっ!!!」


 そう指摘すると先輩は怒ってガチャンとスプーンを叩き付けて置いてテーブルに突っ伏した。自分で立てた音にビックリして先輩はちょっと跳ねた。


 そして顔を伏せたままで言う。


「……まあ、その、お金が必要になるなんてよくあることだし、バイト、高校生の割に国本くんかなり入ってるじゃん? ……案外国本くんのためかもよ?」


「…………ですか」


 俺のため?


 俺のためにバイト?


 平乃が?


 何故?


「え、何その反応。あんなに持ち上げてた幼なじみちゃんがそんなんでも嬉しくねーって?」


「……いや持ち上げてませんよ?」


「ありのままだって? やかましゃ」


 ゴツ、とテーブルに頭突きした。


 先輩はそのままの姿勢で深い溜め息を吐いた。


「そんななにもせんでぐだぐだしてるなんて国本くんらしくねぇっての、はよ本人に直接聞いたれや……クソが……」


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