四話『偽装カップルと落とし穴』
────貴様、何故このような手段を取ったのだ?
────我々は要望に応えたまで。手段は我々を頼った以上前提、話題にするまでもありますまい?
────素直に連れてくるだけでよかろう、それをこんな……。
「…………んぐ……手足拘束目隠し付き、かぁ……」
またか。デジャヴか??? ひょっとして意識奪って誘拐拘束するの流行ってるのか?
記憶の最後は落とし穴。拘束されるに都合よく頭でも打ったのだろう。あの偽物は罠だったのだ。
……宝田さんは!?
「────どうです、我々穴堀同好会特性『必ず気絶する落とし穴』は!! 素晴らしいでしょう!!?」
「学舎に穴を空けてまでそうする価値があるとは思えない、と先程から言っているのが分からないらしいな?」
「ぐへへ、まあ彼氏持ちとはいえ美少女の落とし穴へ落ちる瞬間を激写したわけでこれだけで六桁は余裕で稼げますから?」
「……くだらん」
二人。会話しているのが聞こえる。ゲスい方は聞き覚えがないが、堅苦しい方はどこか聞き覚えがあった。山勘で言った。
「その声、まさか鶴来先輩……?」
声は試合観戦で聞いたことがある。男にしては高い声をしていたのが耳に残っていたから覚えていたのだが、果たして相手は。
「……ほう、剣道部に入ろうともしない腑抜けがこの私の事を覚えているとは意外だな」
しゅるり、と目隠しを外され、俺はゆっくりと目を開──こうとしたがなにか柔らかいものが押し当てられてなにも見えなかった。
……ん??? 何が押し当てられてるのこれ???
そう思うのも束の間、鶴来先輩が慌てたように弁明した。
「す、すまないっ。目隠しを取ろうとしたのだ。他意はない。気付かなんだ……」
押し当てられていたものが遠ざかり、ゆっくりと視界が元に戻り始める。ぱちぱち。相変わらず手足は拘束されてるので瞬きを繰り返してようやく鶴来先輩の体に焦点が合────有り得ないものを見た。
「……なんだ、何がおかしい?」
「あれじゃないすか? 落とし穴が記憶喪失を引き起こした!! ああですと非常に心苦しく、多大なる誤算でございますが、ええ、ええ!! 我々の勝利でございましょう!!?」
「何を言っているのだ貴様? ……さて、国本美都。この頭のおかしい者たちが迷惑をかけた。こやつら、落とし穴がまるで意思があるかのような口振りで、手足を拘束したと抜かすのだ」
「その通りなのですから!! そうなのです!!!」
「……と、このような事を。ああ、私の事を覚えていた手前、手足の拘束は解こう。不当だからな?」
「巨、乳…………だと?」
「ふひっ!!?」
しまった。視界にあったものが強烈すぎてつい口走っていた。
口走ったのに反応して胸元を隠す鶴来先輩の胸が巨乳だった。巨乳。なるほど。巨大な胸、と書いて巨乳である。男性であるはずの鶴来先輩の胸が巨乳であると言うことはつまりデブであると言うことだが否!! 全く腹も腕も足も顔も太くないしスリム体型だ胸を除けば。そんな彼いや彼女? 凄まじく美形である顔面か視界に入ってそういえば間近で見たこと無かったけど紛う事なき美少女だないやいや男じゃなかったっけ剣道部の大会で登録されているとき間違いなく男だった俺は記憶力が良いので間違いなく男だったと断言できるなんならたった今確認してやるスマホに画像があるぜほーら男だスマホ買い換えてないからねデータ消すの面倒だってそのままにしてて良かったぜ。ほらほら。ついでに鶴来先輩(男)の写真が。これなんで撮ったっけ……そうそう付きまとってくる女子部員が『じゃあ撮ってきてくれたら付きまとうのやめます』って言うから撮ったのに結局キャーコラ言ったあと普通に付きまとってきたからね。なんで???
──……で、誰ですかこの目の前の美人さん。誰???鶴来先輩? 俺が知っている鶴来先輩は男なので別人だろ??
「きききききき貴しゃま!? とちゅじぇんにゃにゃにゃ!!?」
……猫????
「猫じゃにゃい!!! くっ、噛んだだけだが!!? そんなこと言うと手足縛りっぱにするぞ!!!?」
それは困る。
「……だろう? であれば、きょ……などと同様を誘うのをやめるのだ」
事実だし、俺の知っている鶴来という剣道選手は男なのでおかしいではないですか。あ、もしや女装ですか? 大丈夫ですそういう趣味でも別に興味ないので気にしなくて良いですよ、うん。
「ぐぬ……貴様、とことん性格が悪いのだな……!? これは女装じゃないぞ、悲しいかな、この胸は偽物ではない……本物なのだ…………はぁ」
どうしてか悲しげに彼女は自分の胸を鷲掴みにし肩を落とす。目に毒。手のひらに乗ってそこからさらに倍くらいの体積がはみ出ているのは最早凶器と言うべきじゃないかな。ねぇ珠喜くん?
「んごふふ(さすが背後の僕に気付くとはね美都ゥ!!)」
えっ嘘マジで居た!!?
「ほう、気が付いたかストーカー1号?」
「んごふは(俺たちを忘れてもらっちゃ)」
「ふふごご(困るぜ??)」
振り向くと口に布を噛まされている三人が居て、そのさらに後ろ。
「…………むーっ!?(こっち見ないで国本くん!!?!?)」
天井から手枷で吊るされた上で全身亀甲縛りされている宝田さんがいた。足が浮いているので手首に凄まじい負担かかかっているに違いないが、平然とした──いや急にバタバタし始めた。やはり腕がきついのだろうか?
「我々特性落とし穴、如何かな? 素晴らしいできではないかね? んっんーっ?? どうかね!!? んーっ???」
顔を赤くして暴れだした宝田さんの両脇に立っていたとても濃い髭面の男子二人が同時にそう言った。平均から見てもとても低い身長、大体140cmぐらいだろうか。それが己の身長ほどあるスコップを担いでキラキラとした目で宝田さんを見ていた。危ない目だ。亀甲縛りで縛られた異性に向ける目じゃない。
俺は女装疑惑の晴れない先輩を睨み付けた。
「な、そんな見つめられても何も出ないぞ……?」
「はよアレ何とかしろください、巨乳先輩??」
「え……あ、そうしゅる……」
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