閑話4『元生徒会長と風紀委員長』

 俺はこの高校のトップだ。厳正なる選挙、不正なき投票により選ばれた生徒会長────だった。


「なるほど、こうなンのか」


 もうすぐ梅雨の季節だろうが、太陽はギラギラと輝いている。まるで俺のよう────だった。今の俺は、生徒会長。かつてほどは輝いていない。


 もう最強と傲ることはない。告白祭の首謀者として処分されたからだ。


 俺は嘘は吐かない。嘘は、常に自分へ帰ってくるからだ。嘘を吐くやつは見ただけで分かる。最強──だったからだ。ま、最強は関係ねぇか。


 俺は特別らしい。俺だからな。当然だ。


「………………」


 俺の周りは、誰一人近寄らなくなった。大体2メートルは。


 納得するわ。だって生徒全員に平等に接するべき生徒会長が生徒一人にお熱だった訳だからな。それで端から見たら振られた嫌がらせであんなんやりゃ、そりゃ道理。俺が他人ならこんなやつキモくて近付く気力もおきねぇわ。


 はークソ。


 俺とて言い訳言い分の1つや2つ、思い付かないわけではない。伏水睡蓮のせいだと喚き散らすことも出来た、否認するための材料なぞ数多にある。本気で否定すれば、確定する材料など無いのだ。ましてや俺だ。不可能などない。


 ぶっちゃけ確かに俯瞰してみれば俺としても不可解なところがあんだよなァ。十中八九睡蓮の手が入っている。あいつがあの場で言った『私が悪い』というのもあながち嘘じゃねぇだろ。


 でもよ、全部あいつに被せたらよ、だろ?


 結果追放されたのは俺一人。上等だろう。


 まあ、真相は神のみぞ知る。俺は神。神は俺。つまり知ってるわけだ。いや、知らんけど。


 一つ、俺と副会長の折り合いは悪かった。アイツ、そこそこ使う手が汚いからな。


 二つ、副会長は書記を意識している節があった。あの催眠術は有用だからな。知っているなら当然の反応だろう。


 三つ、催眠術の事を言い出したのは副会長だった。元より知っていたか、相談されたか。だとしたら前者だろうな。信用はあまりされていないあの男の事だから。


「………………さて、面白ぇことしやがるじゃねぇか」


 四つ、『元生徒会長・立入禁止』の貼り紙が生徒会室に貼られている。マジで嫌われてンな。俺。


 まあ、伏水睡蓮の催眠術。あれが悪用されれば恐らくロクなことにならない。一時期不穏な動きをする風紀委員を見張らせるために潜入をさせたが、あの日まで殆どバレることなく過ごしていた。


 、だ。これは伏見睡蓮の素養が大きいかもしれないが、これは俺も重く見ている。


 席を追いやられても俺はこの高校の元生徒会長。再度その座に着くことは出来ない生徒会には興味はない。


 だが、生徒会長の命令に忠実な催眠術師の存在は危険。無視できない。


「────あら」


「あぁ? てめぇは……」


「生徒会長……いや元だったか? 久し振りだが、落ちぶれたな。こんなところに何の用……ああ、過去の栄光にすがろうと言うわけか。憐れだな」


「相変わらず口を開くと嫌みしか言わねぇなァ? 風紀委員長さんよぉ?」


 これまた風紀委員長とは。変なとこで会ったもんだ。本来こんなところに来るやつではないんだが。


「なんでここに、という顔だな。簡単な話だろう、もうじきがある。そのときの配備案の提出だ」


「あぁ、そういやそんな季節か。つかどんなもんだ、見せてみろ」


 俺が手を伸ばすとこの女はバッとその紙を上へ。手が空ぶるのを真面目腐ったその顔で見てくる。


「風紀委員長として犯罪者おまえに見せる訳には行かない」


「あぁ、そうだなぁ。そうしとけ」


 まったくもってその通りだ。俺は素直に生徒会室に背を向けた。


 風紀委員はどいつもこいつもクソ真面目。長となればそれはもう真面目な岩頭だ。生徒から反感も強く買ってるだろうに、今時そんな融通の聞かないことを出来る奴は少ない。俺はその点は高く評価している。


「待て。一つだけ質問がある」


「は?」


「その、お前は、本当に宝田希の事が好きだった、のか?」


「は???」


「いや間違えた忘れてくれ」


「顔だ」


「か、顔か……そうか」


「顔が直るかも知れねぇって思ったらそりゃな」


「あ、そっち?」


「は?」


「は??」


 何故か風紀委員長はメンチを切ってきた。切り返す俺。


「ごほん。お前は、これからどうする」


 風紀委員長がなぜそんなことを聞いてきたか、俺には分からなかった。さっきのもそうだが、質問が抽象的だ。基本的に生徒会とは敵対関係みたいなもんだったし、視界に入れるのも嫌だと前に語っていたのだ。マジで分からん。


 だが答える。俺はそうする。


「……知らねぇな、今暫くは俺、反省期間だからな。自粛だ自粛、よーやく学業一つに専念できてせいせいしてらぁ。余計なもんに目を向けて痛い目見た後だ。何も考えたくねぇくらいだぜ」


「そうかそうか、お前はそう言うと思ったな。ところで耳寄り情報だ」


「いやところでってなンだよ」



「………………へぇ? 詳しく聞かせろ」


「やはり食い付くか。お前はそういう顔、私は好きだぞ」


「は?」


「……は????」


 取り出した鏡を見ても無表情のままである。何を言ってるんだろうこいつは。風紀頭と一緒に目まで腐ってるんじゃなかろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る