二十七話『幼馴染みと友達と偽装彼氏と催眠術師と』
ピー━━━━━。
ピピー━━━━。
◆◆◆国本美都◆◆◆
「……よかった生きてた……」
笛を適当に吹いていたら、急に伏水先輩がそう言った。
ほう。生きていることはいいことだ。それに感動することはたまにある。ヤーさんに護身術叩き込まれてるときとか常にそうだった。非常に同意したいことだ。
「へ?」
ただ今それ言われるのは違和感しかないですけどね。えっ、俺いつの間に死にかけてたの?? いつ?? ひょっとして今??
「だって私が宝田ちゃんに催眠を掛けたら急に血を、血を吐いて、倒……れて……!!」
「……血を吐いたの? なんで?」
「……ぅ……わかんない。その後私も気を失ったから……信じられないけど、催眠を掛けられたんだと思う……ごめん今自分に催眠をかけて探ってみる」
わからない、か。口から血の味はしなかったけど、後頭部の鈍痛を鑑みると、信じられないけど宝田さんにやられたのかな……マジかぁ。歩き方や走り方を見る限り、かなり動けそうな人だとは思ってたけど……不意打ちで人を昏倒させられるタイプの人間だとはこの俺には全く。ところで、知ってそうな人は……。
ひーらーのー?
「あー、希なら出来ると思うよ? あんまり暴力振るうの好きじゃなさそうだけど、ちょっと前に十人くらい不良に囲まれた知らない子を一分掛からずに殲滅してたし」
まーじーかー?
「マージーだーよー?」
乗ってきた。かわいい。
……ふざけてる場合じゃなかった、とは言え平乃の言葉は常に真である。←疑うつもりがないだけ
「……っ、あ、たぶん宝田ちゃんは国本くんが死んだって思い込んじゃって、そのままどっかに……これっ、もしかして会長の居場所 ……、…………!!?」
会長。伏水先輩がその言葉を発した瞬間、止まって、そして弾かれるように立ち上がった。
「い、いかなきゃっ!!」
「待ってくださいよぉ伏水家の鬼子さんよぉ、会長ってのは生徒会長のことですよねぇ?(カンペチラ見)」
「えーっと、伏水パイセンアレっすよねぇ(カンペガン見)……えっ会長の事好きだったのかしら!!? あの能面みたいな無感情男を!!? かしら!!?」
珠喜と白浪さんがメモ紙見ながら伏見先輩に詰め寄った。白浪さんは途中から脱線して伏見先輩の肩を掴んで揺すった。
「うえっ!!? べ、ベツニ? ぶぇベ、べツニそそそそンナコトナイヨ??」
伏水先輩は先輩でめちゃくちゃ動揺してるし。
「ねぇ墨渦ちゃん、さっき僕の説明聞いてた?」
「墨渦ちゃん言わないでください。かしら」
「いったぁ!? 殴ること無いだろ暴力女!!」
「おーっと虫酸の走る顔が真横にあったから、つい?」
「ぐぬぬぬ……覚えてろよかしら隊長ォ……」
「あん???」
「おォん???」
仲が良いのか悪いのか分からない二人だ。ほぼ白状したようなものなのに、そっちのけでメンチ切って喧嘩している。
「なるほど、大体分かった」
平乃!!?
「つまり、伏見先輩はやむを得ない事情で無理やり従わされてたんだよ!! せーとかいちょーに!! いやぁあたしの希が可愛いのは周知の事実だからね。おまけに有能! 生徒会が欲しがるのも分かる気がするねぇ……そうだよね! 先輩!!」
「ぇっ、いや、単に私が好きで……やってたので……無理やりとかは……会長はこんな催眠術しか能のない私を優秀だって……催眠術以外の部分を見てくれて……はれ? それなのに私は催眠術で……私は……私は何を……?」
これまた急に頭を抱えだした伏水先輩、けれどこれまで以上に動揺している様子で、僅かに振るえているのがその尋常のなさを表してるように見えて。
平乃さんどうやら地雷踏んだみたいですね、たぶんさっき自分の催眠を解こうとしていた影響で、珠喜の言っていた恋愛感情から来た自己催眠を自覚した、ってところだろうか。
『催眠術以外のところを見てくれて』、か。
……今日の事は独断か、共謀か、その辺りは気になるけれど今聞くのは気が引けた。
「えっ、違った? ってか大丈夫ですか先輩!!? ……美都、任せたよ!」
えっここで投げるんですか平乃さん!!? サムズアップされても応えられないよ!!? というか他の奴居るだろ!!?
「なーにが合言葉よきもちわるい!! そーゆーとこ嫌いかしら!!?」
「はぁ!!? 隠れオタクがよく言うよ合わせてやってるんだよ僕はね!!」
「合わせろなんて言わないかしら!! 単に、好きなアニメは好きなアニメ!! そんなことしなくても話し相手くらいなるかしら!!!」
「ああそうかいじゃあ今度からは遠慮なく会話をしにいってやるよ!!!」
「悪評を流したらその時点で縁切るけど、それまでは仲良くしてやるかしら!!!」
珠喜はまだ喧嘩してる。うるさいよ。……いやこれ、喧嘩なのか???
「いぇーあ!! ごちゃってる間暇だから歌うぜぅえーい!!」
「おういったれ百瀬ェーッ!!」
「じゃあ歌います『ゆりゆららら────」
あっちじゃ大事件歌ってるし。百瀬、声は野太いけど歌は上手かった。
……居ねぇじゃん。
「あの、伏水先輩。多分行き違いとか勘違いとか、今そういう考えるのは止めましょう。俺としては楽し────」
…………俺、今楽しかったと言おうとした?
「……迷惑だったでしょ、私たちは」
「俺としてはとりあえず会長に話を付けて手を引いて貰えればそれで「あたしは許さないよ!!」……平乃はこう言ってるけど、まあそこら辺は宝田さ「許さないからね!!」平乃!!」
「美都はなんでも許容しすぎ。さっきだって話が本当なら蹴り殺されてたってことでしょ? 先輩のせいで──── 許 せ な い よ ?」
「でも俺は生きてるじゃん。蹴られたなんて嘘かもしれな「口。血の跡あるもん」…………マジ?」
急にケータイを取り出した平乃は俺に向かって写真を撮るように構えた。
「マジだよ、ほら」
平乃が俺の目の前でケータイのカメラのシャッターを────ああああああああフラッシュァァァァァ!!!? 目がァァァァァ!!!?
「わっ、ごめん、やっぱ携帯よく分かんないや。でもほら」
見えないんですけど。目の前でフラッシュ焚かれたせいで見えないんですけど!!?
「だから先輩? 美都が危ない目に遭うのはさすがにあたし、許容できません」
「そっか、そうだよね。許さなくていいよ。覚悟は、多分、してたんだけどね……あはは、取り乱したね」
「なので、はいっ!」
「手……?」
「握手です!! いや指切りの方がいいのかな? 協力するならこういうことするべきだと思うし!」
「協、力……」
「だってほら、あたしたちだーれも、会長の場所知りませんし、希が本当に蹴り殺したと思ってるなら多分会長倒して私も死ぬーって動きすると思うから。今はまだあたしは許せないけど、美都はお人好しだし? これでトントン、って感じで?」
「えっ」
「先輩は一人で止められるかな。あたしたちはしょーーーじき、希に迷惑かけてた人なんてどうなってもいいと思うとは思わないかな?」
「……なにそれ、脅しにすらなってないじゃない」
「いーえ。これは脅しでーす! ほら、暴走した希止められる人、多分先輩しか居ないですから?」
「……」
「早くしないと、ですよね? 先輩」
◆◆◆
目がようやく見えそうって時に手を引っ張られて強引に街に連れ出されまして。目的地に着くまで五回くらい蹴躓いたが、まあ平乃のことだ。許そう!!
生徒会長がいた場所は生徒会室だという。
「さっきまでは、分かってたんです。自己催眠に気付いてからは……ちょっと」
伏水先輩はそう言って、申し訳なさそうに目を伏せた。
休日だけど、高校は開いている。部活動をしている人達が居るからね。教室のほとんどは鍵が掛かりっぱなしだったけど俺達は一直線にその一室を目指した。
「……居ないじゃん」
誰かが言った。先を越されたのだろう。宝田さんは先に行っていたのだから、当然だ。
俺は落ち込む伏水先輩の頭から葉っぱのアクセサリーを引っこ抜いた。チラチラ見えていたが強引に刺されていたように見えたので。というかよく考えたらこんな被り物をしてるのに誰一人それにはキレないのちょっと皆人が出来てるなぁ……。
と思ってたら白浪さんが書記の席から取ってきた何かをバサァっと伏水先輩に被せた。
御姉様見守隊の布だった。お化けみたいになった伏水先輩は少しだけ声に元気が戻った。
「あ、こっちです。……あ、なんか急に分かるようになりましたッス」
窓から指差す。
その先は、未だシーズンではない為汚水が張られているプールだった。
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