二十二話『偽装カップルのデート②(占い編)』
きっちりとスーツを着こなした女性が水晶に手を翳し、むむむと唸った。
そしてばん、と水晶の載ったテーブルを叩き立ち上がる。笑顔だ。
「────出ました。恋愛運、大凶!!! 密室空間と歌がラッキーアイテムです!! 取り敢えず声を出すと良いでしょう!!! オススメは駅ビル三階のカラオケです!!!! GO!!!」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! やっぱりダメなのぉぉぉぉぉお!!!! 三十までに結婚なんて無理なのぉぉぉぉぉ!!!??」
謎の強風に吹き飛ばされながら内藤先生くらいの背丈で内藤先生によく似た声の女性……サングラスにマスクにコートなんていう季節外れの服装の不審者が、占い師の前で波打ち際に打ち上げられた魚みたいに、或いは駄々っ子のように暴れていた。
「あああああああああ、あ、あ……あ?」
後続の客(俺達)に気が付いた女性が固まった。
「……………」
それから何事もなかったかのように立ち上がり、体の埃を払う。
「……あ、あれー、君たちは、国本に宝田? き、奇遇だ「え、誰ですか知らない人ですねごめんなさい人違いですよ、ね?」────は、はひ」
俺が食いぎみに言うとコクコクと頷いた職業教師(27)によく似た女性は油を差し忘れたロボットのごとくギクシャクとした動きで店の外に出ていった。ソレニシテモイマノヒトダレダッタンダロウナー、サッパリワカラナイナー。
はい。
宝田さんが顔を背けました。
◆◆◆
────今のは見なかったことにしよう。
俺と宝田さんの心は今ここでようやく初めてひとつになったかもしれない。こんなところで。
俺達は無言で頷き合うと、占い師の前に用意された椅子に座った。
「スーちゃんの紹介ね!!!! どうも当方辻占いさせて貰ってます『エゴイスト
「ちょっとなに言ってるか分かんないですね」
すっとぼける俺に、占い師……エゴイスト紗己さんがチッチッチ、と指を振る。
『キューン……』
犬の声が聞こえた。後ろに用途不明の手のひらサイズのスピーカーが置いてあった。エゴイスト紗己……長いから占い師さんでいこう。
占い師さんは振り返って肩を落とした。
「あっ、なきごえでしたね! ハズレです!」
……あっ、ゆびをふる、か今の!!?
アタリだったら何が起こるのだろうか。割とどうでもいいしそもそもなんで今指振ったんですかよ。何故。
「ちょっと声抑えられません?」
「無理です!! 当方のアイデンティティ!!! ですので!!!!」
うわ寧ろ声が大きくなったぞこの人。あーもう身を乗り出すな一言言う毎に宝田さんがビクッと肩を震わせているのが見えないのかな?
「……あとで先輩に文句言っておこう」
「え"」
「ん?」
「あー、あー、……声、落とせばいいんですか?? はー、仕方ないですね、しょーがないですね、当方数少ないアイデンティティなんですけどね、アイデンティティなんだけどね。本当に声小さくしていいんですかね、本望ですかねこれで。会う人会う人に言われるんですけどね、声ってデカければデカいほどいいんじゃないですかね」
急に態度が悪くなったが、声が小さくなった。何故そうしようと思ったのかは不明だが……それほどまでに声小さくするのがそんなに不服なのだろうか?
「という訳でスーちゃんの方には『最高の占い師────あーっ!!!!? この男こうまでしても『うるさ過ぎて話にならなかった』って告げ口する気だ!!!!!? 最低!!! ド腐れ!!! 唐変木!!!! その目の水晶体えぐりだしてやろうか!!! おまえ名前は国本って言うんか!!! ほぉ!! そっちがその気ならこっちだって考えがあるわ!!!!」
「事実無根ですやめてくださいお客様」
「こっちが店員だぜよ!!!!?」
おっといけない。バイト先に現れた厄介なお客思い出してしまった。つい平謝りしてしまったがよく考えたらこっちが客だった。……それはそれで厄介だな?
「……そういう事ばっかりに悪用するから、自分の店を構えることが出来ないんですよ。今は占い師を名乗ってるようですけど、情報屋は廃業したんですね?」
「…………た、宝田のご息女!!? 嘘んっ!!?」
……驚いた。宝田さんはこの人の事を知っていたらしい……。ちゃんと教えていれば、事前に予定から弾けたのではと思うとなんだか悪いことをしたような気になってしまう。
というのが顔に出ていたのだろうか。宝田さんが慌てた口調で補足する。
「いえっ、国本くんが気にすることはないですよ? これもお父様の知り合いと言うだけでここに来るまでは全く知りもしませんでしたし、まあ、その、父の知り合いはだいたい優秀ではある、ので……恐らく腕は確かでしょう……ただ当時と職が違うのは……」
「ええ!!? 当方、もとより天職は自他共に認める占い師!! ですから!!? 間違いなく占い師ですからね!!!優秀ですとも!!? ね!!!? 記憶違いじゃないですかね!!!? ねぇ!!!?」
ゴリ押し。うるさいよ。
「はいすいません占います」
「「…………」」
ゆびをふった。
『────ィィィィィン』
きんぞくおんだった。
「あっ、いやなおとでしたかー、ハズレですね」
そっちかよ……って。
「どういう占い!!?」
「これはですねー、ゆびをふる占いです!!」
「隠す気もないの!!!?」
「ええ!? 何を隠す必要が!!? こちら四十年は続いてるゆびをふる占いですよ!!? 寧ろこっちが本家ですが!!?」
「あの、二年前はまだ情報屋名乗ってましたよね、あなた。この道のプロって自慢げに」
「占い師さんどうみても二十代にしか見えないけどそれはどういう事だよ」
「えっ若い?? それほどでもあるかな!!!?」
褒めてないです。
「……………………えっ、不服??」
ものすごく意外そうな顔だった。
「いやそもそもなんの占いだったのかも説明ないので何がどう外れたのか分からないんですよ占い師さんの占いは」
「エゴイスト紗己です!!」
「いや」
「エゴイスト紗己ですよ!!」
「あの」
「エゴイスト紗己……もしや名前も覚えられない!!? なんとまあ!!!」
「エ」
「エゴイスト紗己、でーすよ?」
──いますごい言おうとしただろうが!!!!?
おっといけない。平常心平常心。あの探偵といい、なんか今日相手するのに苦労する人多いなあ。
「あっ、因みにこの占いは本日の全体的大まかな運命を(ゆびをふる)(猫の鳴き声)あっ、ねこだましですねー、ハズレです。ストライッ!!!! スリーアウッ!!! チェンッッッ!!!」
思い切り腕を振り回す占い師。これは野球ではないし、ねこだましは猫と直接的な関係はない。
もう何ならアタリなんだろう。
「じゃあ次の占いやりましょうかね」
「「…………。」」
はい、ともいいえ、とも言わなかったけれど占い師さんは急に猫耳バンドと赤色の……おいこれ。
「当たるもはっk────」
アウトぁ!!!!
◆◆◆
「何でですかいいじゃないですか天下のゲーム会社に媚びたって。今の人知らないですし。バレやしませんよ最新作出てないマイナーキャラですよ?? ……あっ、ひょっとして冷やかしですか!!? 駄目ですよスーちゃんの知り合い騙って来たらどう足掻いても非業の死は免れ……いや知り合いなのは本当? じゃあなんなんですか!!! スーちゃんからの嫌がらせですか!!!? 有り得ないです!!! けど!!!? いや、いまちょっとありえるなって……はい」
はいじゃないです。あとマイナーではない。いい加減にしてください
────ピロリロリン♪
「あ、今出ました」
「…………FAX?」
俺は言った。一息で文句を言いきったからか占い師はすこしテンションが落ち着いた感じだった。平然と答える。
「天声◯語です」
新聞!!?
「まあ、これもね、一種の占いですよ。別にこれである必要はないんです。それこそヤ◯ーニュースとかでもなんでも、文字の羅列がそこにあればいいです。これを……ほらー、文字が浮かび上がってくるでしょう?」
「…………。」
浮かび上がりはしない。本人の感覚みたいな物だろう。宝田さんを見るが、見えてる様子は……ん?
「…………『なかまわれ』……?」
「おっ見えました!? さすが宝田家の才女っ!! よっ、天才!!!」
「やめてください、伏水先輩に言い付けますよ」
「理不尽!!!?」
……どうやら見えないのは俺だけらしい。
なかまわれ……仲間割れ? 不吉な。
「仲間割れですね。ハズレ三回も恐ろしく出目が悪くないと出ませんし、たぶん今日ロクな目に合わないですね!! やったぜざまあみろ!!!」
「…………」
◆◆◆
────後日『うるさ過ぎて話にならなかった』って告げ口した。
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