十五話「偽装彼氏と味方のいないファミレス会:前編」

 俺は宝田さんと別れて素直に帰ることにした。


「やぁ」


 正門にもたれ掛かる人影一人。何かを企んだような、抑えが効かず漏れだした邪悪な笑みを浮かべたそいつ。


 俺はその人影を無視して、素直に帰ることにした。


「なあ無視することはないじゃないか。君の大親友、珠喜くんだぞ?」


 帰ることにした。


「おいおい素通りとは、」


 腕を掴まれた。


「いただけ──「舌噛むなよ」──ぬぁぁぁ!!!?!?」


 投げた。背負い投げ。背丈の割に軽いよなこの男。


 そしてちゃんと受け身を取るあたり、投げられなれているな……普段から合川か百瀬と取っ組み合いして負けてるもんなこの男。あ、それともちろんちゃんと受け身を取れるように投げてますからご安心を。


「いやいやいやいや安心できないけどぉ!!? 投げることないじゃないか、昼休み助け船出してやったろう?」


 助け船? いやアレは確かにその意味合いも合ったかもしれないが────


「……だからだよ。珠喜は面白がってただけじゃん」


「へぇ、そう言うか。じゃあ君はあの一連の騒ぎで君たちの関係に疑問を持つ人達がそこまで増えなかったのはあくまで自然なことだと? 能天気だねぇ実に結構」


「……で、本音は?」


「いやぁ~やっぱ君と赤城平乃は"推せる"ねぇ~!!!! ……はっ!!?」


「やっぱじゃねぇか!!」


「まあどちらも本音だからね、感謝してよね?」


「はいはい感謝してます神様仏様珠喜様」


「ふふふ、苦しゅうないぞ、土下座しろ♪」


「いやだけど……」


「はー???」


 そうは言うが……確かに珠喜の言うとおり助かった部分は大きいのだ。


 大きいが……。普通彼氏彼女って言うのは自分達が付き合いたいから付き合うのであって、他人は関係などないものだろう。


 だからそれを認めてしまえば、と声高に宣言してるようなものだ。宝田さんの為にもそれは出来ない。


「……ひょっとして君、僕のこと嫌いだったりする?」


「これからバイト行く学生取っ捕まえてあまり面白くない長話を仕掛けようって奴、好きな人いるかな」


「やっぱり今日バイトだったんだね?」


「うん、分かってんじゃねぇか」


 尚言った記憶も匂わせた記憶もない。なんで知ってるんだよ。


「じゃあ終わった後会おう!」


「まあ、いいけど……」


「ふははははは!!! 言質は取ったからなぁ!!!」


 珠喜は走り去っていった。


 そもそも珠喜にはバイト先もその終了時間も教えてないけど……珠喜なら来るよなぁ、という信頼と不安しかない。


 ◆◆◆


「来ちゃった♪」


「かえれ」


 マジで来た。


「やぁだ! もー!! 誘ったのみつみつじゃーんっ!!」


「女子みたいな可愛い子ぶり止めてくれるかな……寒気と吐き気が同時に襲ってきたから」


「やーん美都冷たーいっ(本気の猫なで声)」


「マジで風評被害食らうから止めろって……ここなんだぞ」


「いやー、美都がファミレスで働いてるとは……想定内だけど、やっぱりサマになってるね。さぞやおモテになるでしょう?」


「料理作るのは嫌いじゃないからな……あとモテてないからね、それはガチで」


 モテたいわけじゃないし。あとモテたことはないな……告白どころか小中とあんまり友達もいな……うん……………この話止めよっか。


「…………で。なんで更に増えてるの?」


「あや、一人じゃ寂しいからねぇ、特別ゲストだよ、ビップだよVIP。VブイIアイPピー!」


 へえVIPねぇ。俺は今日集まった他のメンバーに顔を向ける。


「デートと聞いて来ました。多分宝田が国本に愛想を尽かして二人は永遠に幸せになると思うんですけど(迷推理)」←合川


「デートと聞いて来ました。多分赤城がデートに嫉妬して乱入告白して宝田が自分の本当の気持ちに気付く展開だと思うんですけど(迷推理)」←百瀬


「御姉様のデートと聞いて来ましたわ。不備があれば殺しますね。この釘バットで……(物騒)」←丸眼鏡の女


「最近流行りのくっつきそうでくっつかない負けヒロインの代名詞である幼馴染みが勝てそうなラブコメが見れると聞いて来ましたっs……す、すいません。興味半分で……(そわそわ)」←狐面の女


「以上の四名のエントリーだぁ!! どうだ? VIPだろう?」


「ほうほう味方がいな……いや最期の誰!? 誰ですか!!?」


 というかそもそもバイト先も教えてなかった上に既に九時過ぎなのによく集まったな!!? 外真っ暗だぞ!!?


 ……にしても最近覆面系女子と縁があるなぁ。あんまり嬉しくないかしら。というか釘バット女お前もしかしなくても 御姉様見守隊の『かしら』の人!? なんでいるの!?


「あ、この人は生徒会の書記やってる伏水ふしみ睡蓮すいれん先輩。一つ上の先輩だね」


「どもっ! 噂は聞いてるよー? 偽装恋人なんだって??」


「どうも……いや偽装じゃないですガチですガチです」


 珠喜の紹介で敬礼のように手を振った伏水先輩。偽装恋人は多分珠喜の言だろう、マジでいい加減にしてくれ……っていうかなんでここに先輩(面識ゼロ)が?


 んん? いや……なーんか、その小柄で特徴的なシルエット……見覚えのあるような、ないような。最近何処かであってたりとかしてそうな。


 ……思い出せない。なーんか引っ掛かるんだけどなぁ。それは紛れもなくヤツ催眠術さ……最近こういうことは全部催眠術だということにしている。


 例えば冷蔵庫の消費期限切れのプリンがなぜかなくなっていたり、ささやかなバイト代でヨーグルト製作器なるものを買ってみたのものの作り方ミスったヨーグルトらしき何かが知らん内に消えていたり。そうだあれは催眠術だったのだ。


 なんかどっちもその後平乃が何故か体調崩してた気がするけど催眠だったのなら跡形もなく消失しているのは納得だな!! 便利だね催眠術!


 ……いや言ってて無理あるわこれ。関係ないです。はい。じゃそういうわけで次。


「あとこいつが白浪墨渦。親が金持ち。今日の会計はこいつ持ちだよやったね皆!!」


「あの、鎧塚さん……?」


 パキリ、と彼女の拳がなった気がする。いや気のせいではないめっちゃ拳握り締めてぷるぷるしてる。


「何か疑問でもガチ百合お嬢様???」


「はい??? なんですかタマキいきなりそれ、ちょっと? だーれが会計持つって言いました?? 今手持ちそんなにないのですけれど……いつもいつも本当に無茶苦茶言って……今度という今度は怒りますよタマキ??」


「いつもキレてる癖によく言うよ。それでも口調だけは崩さないんだぜこいつ、面白いでしょ? これが白浪ね」


 因みに配置は


 ろ  鎧塚 白浪 伏水 壁

 う  テ  ー  ブ  ル 壁

 下  合川 百瀬   俺 壁


 ……こうである。現在目の前で二人取っ組み合いが始まり伏水先輩が壁際で仮面抑えて震えています。守護らねばならぬ……でも対面だから難しいね。


「あのーここファミレスかしら。俺の職場なのかしらよほんと風評被害あるかしらねなのでマジ迷惑かしら。少し静かにするかしら」


「国本美都覚悟……天終!」


「ディートリア流剣術!!?」


 盾とかと合体とか別にしてない釘バットが振り下ろされるのを避け……るのは不味いのでなんとか白羽取りを試み────っぶねぇ!!! セーフ!! セーフですよギリギリ取ったわ!!!


「店内ではバット振り回さないでよ物騒な姐ちゃーん。というか白羽取りしたことよりもとっさにユ○シスの奥義が出てくる方がビビったよ僕は。美都ソシャゲやらないイメージだったし? ねえ」


「白羽取りに驚いてくれ。全く怪我してないぞこれ!! ……まあ確かにスマホゲームとかは自分からはやらないけど、グラ○ルに関しては平乃が始めようとしたのを先回りして始めたんだよ」


 平乃はそもそもダウンロードから出来ないというトンデモ機械音痴を発揮して……俺の方はというとお金も時間もないので暇が出来たときにイベント読んだりたまにガチャ引く程度で留めてますね。ガチで育成とかやらなきゃ時間なくても出来るし。


 はい閑話休題。釘バットを心底不服そうにしまう白浪さんを尻目に珠喜が店員さんを呼んだ。


「──注文お願いします」


「あ、じゃあこの店舗&季節限定クッコロでか盛りパーティープレート(¥8900+税)で。以上で」


 え、頼むの……? あの、調子のって注文した人が逆に謝ってくるあのくっ殺盛りを???


「ちょっ鎧塚さん??? 高くないですか??? 処しますわよ??」


 これヤバイと思ってるのは俺だけみたいだ。多分知らないのだろう。


 白浪さんは慌ててるけどこれは値段を見て、だ。当然のようにアレ値段よりも量多いからね。そっちの方がヤバイからね。六人いてもかなりキツいからね。


「かしこまりましたー。店内ではお静かにお願いしておりますので釘……釘バッ??? く、釘バットですか!!??」


「あ、いえ、これは……ですわ。ね!? 先輩!!」


 その言い訳は無理があるだろ。助けを求められた伏水先輩が困ったように笑う。……いや伏水先輩にこっち顔向けられてもなにも助けられませんよ流石に風船は無理がある。大体危険物なのでむりです……大人しく没収されてください……。


「え、あ、っす……か?」


「……次からは危険物の持ち込みはご遠慮頂けますでしょうか」


「………………はい……」


 白浪さんは申し訳なさそうにバットをしまった。


「m9(^Д^)プギャー」


「   」


 あーあ、白浪さんが珠喜の顔面掴んで雑巾がけするみたいに通路で放り投げられてら。


「だ、大丈夫……流石に?」


「タマキはこの程度ではどうもなりませんわよ。さ、積に戻りましょうか」


 尚、三秒で復活した。

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