十四話「職業探偵と偽装彼女」
扉を開ける。
三歩進む。
振り返る。
「生徒会室」
────その時、眩暈がした気がして周りを見渡す。さっきまで居た場所と違う。
ってことはまた記憶が飛んでるのか?
時計を確認する。帰りのホームルームが終わる時間から大体十分くらいの時間だ。
……催眠か?
効果時間十分程度って言ってたし催眠だな。うん。
……うん?
「いやなんで俺、生徒会室前に居るんだ?」
「────国本くん!!」
宝田さんはなにやら焦った様子で息を切らしながら現れた。
「宝田さん、どうしたの? そんなに焦って」
「はぁ、はぁっ、ど、どうしたの?? って、えっ?? いや、その、国本くん……大丈夫なの?? 何かされなかった??」
「……さあ? わかんないや」
「わかんないや、って国本くんそれ本当に大丈夫!?」
「まあその、体に特に異常はないから」
「……もうっ!! そう言う話じゃないよね!!?」
怒ってらっしゃる。全身から怒りがにじんでらっしゃる。こりゃあヤバい……けど宝田さんってこんな感情を表に出すような人だったっけ?
「国本くん、とにかくすぐに帰っ!! ……いや、先に帰っててもらっていいかな?」
「あんまりよくないと思うけど。俺の役割的にもそうだけど差し置いても宝田さんが危な、」
────宝田さんが俺の両肩をガシッと掴んできた。
顔が近付く。いい匂いがする。目と目が合う。真剣な眼差しだった。そして棘のある声音で。
「い・い・か・な?」
「いや、」
「じゃあ
「はい今すぐ帰らせていただきますとも!!! ええ、ええ帰るね!!」
「あ、ええ……これでいいの……? まだひしか言ってなかったのにこの反応……むぅ……複雑」
どないせーと。俺を先に帰して一人で何をする気かは知らないけれど、平乃を引き合いに出すってことはそれつまり……つまり……ええと、どう言うことですかね脊髄反射で頷いたので分かんないです。
まあ、とにかくさっさと邪魔な俺を帰したいということだろう。平乃はなんでもすぐに話すからな……特に仲のいい宝田さんがこう、俺にセクハラされたとか言えば社会的に死ぬのは確定的に明らか。そしてそうなったら人殺しを見るような目でこう言うのだ。
『──美都ってそういう奴だったんだ。知ってたけど。一生近付かないで。というか死んで? 社会的に……そうだここで全裸になって土下座してよ希にセクハラしたんでしょ??? 全国ネットに晒して上げるからさ』
うわっ辛ダメだ想像しただけで今から死ぬ(確定事項)。
「さよなら……ぐふっ……」
「く、国本くん……?」
「…………いやインターネットに写真を上げる発想をするのは解釈違いなんだが??」
「国本くん????」
◆◆◆
あれはたぶん、平乃の事を考えていたんだろうなぁ。
何やら深刻そうな顔になって壁に頭を打ち付けたり、急に真顔になったりする国本くんをなんとかかんとか先に帰した私。
「でぃ……でぃてぃくてぃぶ……す、スティーカ!」
「────はいはーい!! 呼びましたか? お嬢サマー?」
ぬっと開いた窓の外から現れたのは今の時期だと暑くなってきているであろう茶色のトレンチコートを着て、鹿撃ち帽を被ったニヤケた顔の少女だった。尚、ここは四階である。
ちなみに鹿撃ち帽は[探偵][帽子]で検索するとすぐ出てくるザ・探偵帽子だ。帽子を外し、短い白髪を露にした小柄な少女はくるくるとその帽子を弄ぶ。
「あの、この呼び方……やっぱり恥ずかしいからやめにしない?」
「激レア激マブな照れるお嬢サマが見れるんですから一生止めないよ当たり前だよねぇそんな事を言うなんて可愛らしいなぁお嬢サマふふふふふ」
「……はぁ」
「こほん。気を取り直して……スティーカちゃんをお呼びですな!??」
彼女は
ついでにいうと我が家のハウスキーパーも兼ねている。因みにすでに成人済み、そしておそらくここには無断で来ているはずなので不法侵入者である。
「呼んだわ。須智佳、見ていたんだよね?」
須智佳は、意味ありげな笑みを浮かべる。
「……スティーカですよ、お嬢サマ??」
「須智佳、さっき生徒会室で何があったか教えてくれるかな」
「スティーカです」
「須智佳の事だから多分生徒会室にも目と耳くらい置いてる、そうだよね?」
「……スティーカ」
「須智佳」
「スティーカ」
「須智佳」
「スチーカ」
「須智ぃ佳」
「スチカ……あっ……お嬢サマ、強情っ!!」
「やたっ、勝った!」
よし勝った。いや勝ったじゃない。でも勝ったし。そして須智佳はむくれた。
「はいはい敗者は大人しく勝者に従いますよーだ」
「それで、須智佳は知ってるの?」
「ええ勿論ですよ、スティーカちゃんを誰だと思ってるんですかディティクティブ・スティーカちゃんですよ!?」
「そうね」
「お嬢サマ冷たいっ!!」
「────という訳でこれが生徒会室に巧妙に隠しておいた超小型ペン型盗聴器ですが……あー? えいっ(バキッ)あー!! 真っ二つ!!! こりゃ壊れてますね!! アハ!!」
「今自分で壊したよね須智佳……? ぇ、なんで壊したの!? あほ! 馬鹿力! スティーカっ!」
「あっはははははそれほどでも────今罵倒のノリでスティーカって言いませんでしたかお嬢サマ!!?」
ああ頭痛がする。須智佳はこういうことをする。理由も理屈も説明せずに、人を小馬鹿にしたような事をする。そして後々正しかったと判明する……そういうところまで分かっててやるから、性格が悪いと言われるのだこの職業探偵は。
「……なんで壊したの?」
「えー? こういうのってプライバシーの侵害? 見られると困っちゃうじゃないですかー?? お嬢サマえっちだね……?」
案の定答えない。答えないと分かってても聞かずにはいられないのを分かっている辺り本当にスティーカ。
「これ、国本くんの安全のためだから、須智佳。分かるよね?」
「うふうふうふ、スティーカちゃんからすればみんな丸裸で歩いてるようなものだからねーえ。当然国本美都の個人情報調べてました! だから、ま、分かるかどうかで言うと、そうだね!! 分かるよ!! でも言っわなぁーい!!」
「須智佳、あくまでも答えないって言うならお父様にお給料減らすように掛け合ってくるけど」
「うぎゃあっ!? それだけは止めてくださいお嬢サマ!! 間に別会社挟んでるからクレーム即クビキリなんですよ!! ……へへ、お嬢サマ今までお世話に……」
「……はぁ」
お父様は私に甘い節があるので言えば当然のように須智佳は居なくなるだろう。が、居なくなられるとおそらくお父様がすごく困る。
だからそういうことが出来ないのだと、須智佳は分かっている。少なくとも私の一存ではどうしようもないことは分かられてるだろう。
……本当に性格が悪い。
「須智佳」
「スティーカです!!」
「そうだ須智佳、1つだけ聞いていい?」
「スティーカですよー? お耳ついてないのかなー??? 頭の横についてるものは御飾りなのねーえ???」
「…………えっとたしか須智佳って経験豊富とか……昔言ってた、よね?」
「スティーカですね。……ん?? そうですけど、それがどうしたです??」
「……その。聞きたいことって言うのは、週末……服、なに着ていったらと思う?」
「…………ええ……?? さすがのスティーカちゃんも想定外ぃ、お二人別に好きあってないですよね?? 国本美都のことはオママゴトでしょ?」
「…………」
「黙りですかー。まっ、そんなお嬢サマも可愛ぃっ!!」
「いい加減にして。須智佳」
「ンフーっ! やぁだ!! そもそもスティーカちゃんってば、あの人になんとフラグを未然に破壊するように言われてるんですよねぇ!! ほらあの人、親バカの過保護だからぁ……、ね? 分かるでしょう??」
確かにお父様は過保護だ。あの人なら私達の仲を誤解している今邪魔するように須智佳に言っていても変じゃない。
だけど、それ以上に須智佳が『命令されたから』で邪魔するとは私には思えない。
「あ。ていうか、スティーカちゃんはフラグが何を指してるかは全く分かりませんけどね!?」
「……」
ほらね。
「あーガチ睨みじゃないですかぁお嬢サマー??これでもスティーカちゃんお嬢サマには優しーく、優しぃくしてるんですけどねぇ?」
どこがだ。
「本気になったら駄目ですからね? あの人、多分そうなったらいじけだしてめんどくさいので。もうすでに面倒ですけど。お嬢サマが『彼氏できたー』なんていきなり言い出すからほんともう会話しにくくなっちゃってるんですよ」
「それは、」
「でもま、今のあの人チョー面白いから報告してないスティーカちゃんも悪いねっ! ハハッ!!」
「…………はぁ」
やっぱりこの人は、本当に性格が悪い。
「で、服だっけ? なんでもいいと思いますねぇだって男なんてなんてどうせ性欲でしかもの考えてないモンですからねっ!!」
「ほんともう須智佳に聞くんじゃなかった!! はやく帰って!!! 帰れ!!!」
「ちぇーっ!! はーしかたないなー!! 帰りますよーだ!!! ☆BYE☆」
言うなり窓ガラスを粉々にぶち破ってそこから外に飛び出していった。最後まで迷惑な人だ……。
「…………本当に須智佳って性格悪いよ、だってこれ、データ無事だ……はやく帰って確認しよ」
須智佳を呼び出すといつもこう。無駄に疲れる。さっき須智佳が真っ二つに折った盗聴器を拾い上げて、私は本日何回目かの大きなため息を吐いた。
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