グラウンド、真っ赤な太陽。
なんでこんなことになったのか。
ため息をついて、やってられねぇ、と叫べばいいのか、見ないふりをすればいいのか。頭の上からはじわじわと熱い太陽が降り注いで、頬から汗がこぼれおちる。「ぎゃくてんっ! ぎゃくてんっ!」 こっちの心情も知らずに、外野がうるさい。「ちゃんと、女の子を守れよー!!」 ほんとにうるさい。
ちらりと視線を後ろに向けてみた。お姫様が、こわごわと両手を合わせながら、俺と二人きりのコートの中ですっかり小さくなってしまっている。なんでだよ。
あんた、運動なんて得意じゃないはずだろ、とわけも分からず本日二度目のため息がでた。けれどもそれで相手が待ってくれるわけもなく、でかいボールがこちらに向かう。避ければ外野に飛んで、内野とパスを繰り返して狙い撃ちだ。ひええ、ひええ、とお姫様が悲鳴をあげる声がきこえる。ちょっと静かにしといてくれ。
「3組、優勝ーーーー!!!」
クラスメートの坊主頭が叫んでいるが、まあそれは無理だろう。
日差しも熱くなってきたこの時期だ。球技大会、という言葉を聞いただけで辟易する。とはいえ、ただのドッヂボールなのだから、さっさと当たってさっさと外野に消えて、欠伸をしながら余裕の観戦を行うはずが、あれよあれよと味方が消えて、気づけば俺とお姫様の二人きりになっていた。いやほんと、なんでだよ。
男からしてみれば女子にボールは当てづらいものだから、いつの間にやら後回しにされて、気づけば残ってしまったという姿だ。お姫様はボールが飛ぶ度に意味もなくあわあわと動いている。隣のコートでは、ツインテールの女子に向かって男子の怒声が響いているし、もう少し力を抜いてもいいんじゃないか、と思ったところでこっちの方が重要だ。
(こんなもん、さっさと終わらせよう)
相手とこちらの人数を見てみれば、逆転など無茶苦茶だ。それならお姫様と二人、さっさとボールに当たって終わってしまう方が健全だ。「ぎゃくてんっ! ぎゃくてんっ! ぎゃっくてーん!!!」 相変わらず外野はうるさいが無視した。
そうと決まれば行動だ。内野と外野のパスを適当にかわした。そのうち適当なところで当たってやればいいだろう、というタイミングを見つけようとしたとき、あちらも面倒になったのか、唐突にターゲットを変更した。「えっ、あっ、えっ」 俺に対するボールよりも、ずっと手加減されていた。あれくらいなら痛くもない、そうわかっているはずなのに、体が勝手に動いていた。うちのお姫様に何をしやがる。
すくうように片手でボールを受け止めた。端から投げて、敵を沈めて味方を増やす。イライラする。腹が立つ。「大丈夫かよ、お姫様」 人の後ろで固まっているものだから、呆れて声を落としてしまった。「は、はい、お陰様で……えっ……お姫様?」
口元をおさえた。言ってはならないことを言った。俺は一体、何を言っているのか。
「いや、あの、今のはあんたのことだけど、その、深い意味があるわけじゃなく」
「そ、そうなんですか。えっ、やっぱりお姫様って言いました?」
墓穴を掘っていた。
「いや、ほんとに。あれだ、あんたが、そんな雰囲気だったから、思わず言っちまっただけで、そういうことで――――」
助けたついでに、大丈夫かお姫様。こんなのおかしなやつと思われても仕方がない。必死の否定の言葉を考えて、ついでに口を動かそうとしていたとき、「うっぐ」 後頭部にボールがめりこんだ。
くそいてぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます