機甲衛士 シュライガン
統一歴362年 7月18日 AM10:30
東部宙域 第3コロニー セクターβ
第1会議室にて
「それではこれより、プロジェクトSについての会議を始める。議題はシュライガンの武装についてだ」
円卓を取り囲むように青い光を放つホログラムが十ほど空間に映し出されている。
「私がプロジェクトリーダーを務めるミヤタだ。よろしく」
ミヤタと名乗ったそのホログラムは、きっちりとなでつけられた黒髪と、強固に結ばれた口元からいかにも神経質そうな印象を湛えて居る。
「開発チームのゴトーです。先日申し上げました通り、主武装としては、やはりドリルを推させていただきたい」
なんなら右手をドリルにすべきだと、ゴトーはこんこんと語った。
「しかし、その案はすでに却下されたはずです」
「シライ君、あれは却下されたわけではない。そもそもあの場は公式ではなかったし……」
ゴトーを遮ってシライは主張を始めた。
「ドリルなど機動兵器の武装としては時代遅れもいいところです。確かに緑宙戦役ではドリルが活躍しましたが、あれは当時主流だった機動兵器にたいして、ドリルが有効だった、それだけです。≪ヴェイド≫に対抗するにはドリルでは力不足でしょう。私シライとしましては、電磁砲を採用すべきかと」
「なるほど」
ミヤタはゴトーを制すると一拍おいてコカジに意見を求めた。、
「コカジ准尉。≪ヴェイド≫との交戦経験のあるパイロットとして君の意見を聞かせてくれないか」
「……パイロットの立場から言わせていただくと、腕をまるまる武器化するのには反対です。その点ではゴトー氏の意見には賛同しかねます。≪ヴェイド≫の外皮は個体によって性質が全然違うので、武装を固定してしまうよりも両手とも取り換え可能な装備を充実させ、相手に応じて様々な兵器を使い分けられるようにするべきだと……、つまりプロジェクトの初期案をそのまま採用すべきだと、私は考えます」
「……コカジくん。人の意見に反対するんだからもっと建設的な代案を用意してくれないかな」
年老いた科学者は嘲笑するように若い軍人を一瞥した。
「Dr.ゴトー、それはどういう意味でしょうか」
大柄な軍人が眉間にしわを寄せた。ただでさえ威圧感を与える体格に制服、それに加えて明らかに不機嫌そうな一段と低い声。
「ど……、どういう意味も何も、君の意見は話にならないといっているんだ。所詮は一パイロットでしかないのだから、科学的知見を求めるのは最初から期待していないがね」
「なにがどう、話にならないのですか。少なくともあなたの推す案よりはヴェイドに有効な提案だと思いますが」
「ちっ、これだから頭の固い軍人は嫌いなんだ」
ゴトーは吐き捨てるように一言呟くと、勢いよく立ち上がり両手を広げた。
「わかってないのはお前たちの方だ! 古来より巨大ロボットの武装はドリルと決まっている。これは歴史的にも証明された真理である。火星第三戦争の折、ネオ・オセアニア連邦が開発した超音高機動掘削機の登場から300年あまり、人類と宇宙の歴史は常にドリルとともにあった。人類の勝利と進歩は常にドリルによって支えられてきたのだ。緑宙戦役での活躍だってエレメンタリースクールで学び、その映像に心躍らせなかった者などここにはいないだろう。以上のことを鑑みるに、人類の分岐点たる今、ドリルに頼らず一体何に頼るというのだ」
一同はゴトーの演説に、ポカンと口を開けていた。唯一コカジ准尉のみは、意気揚々と語り悦に入っているゴトーを冷ややかに眺めていた。しかしコカジは「お前の方が非科学ではないか」とは言わない。幸いにしてホログラムの体では、貧乏ゆすりもばれにくいようで、演説に聞き入る連中はコカジなど気にしていないようだった。
「それに、ドリルは格好いい!」
最後に一言、会議室に反響するほどの大声でゴトーが演説を締めくくると、聴衆となっていた出席者たちは小さく拍手をはじめた。拍手は徐々に大きくなり喝采へと変化したが、その中でも2人だけ、拍手には加わることのない者たちがいた。ミヤタとコカジである。
「いい加減にしたまえ。ゴトーくん、君は巨大ドリルが好きなだけだろう」
ミヤタは冷たく、しかしよく通る声で喝采を止めた。先ほどまでの盛り上がりが嘘のように議場は静まり返る。喝采の追い風を失ったゴトーは、夢から覚めたような見開かれた眼でミヤタとコカジを見据えた。
「君たちは、今の盛り上がりが一時の熱狂だと思っているのだろう」
別人のように落ち着き払ったゴトーの様子に一同は固唾を呑む。
「実際、その通りだ。私とてヴェイドにドリルが有効だとは思っていない。しかし、私は見たいのだ。巨大なドリルを武器に人類の脅威に立ち向かう英雄の姿が」
今度は静かに、訴えかけるようにゴトーは話を続ける。
「……後生だから、私の案を飲んでくれ。頼——」
ゴトーの最後の言葉は部屋に響くことはなかった。ミヤタの手の中にはホログラムのスイッチが握られていた。
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