第14話 少女漫画の取材③

 映画が終わった後は映画の話を語りながら昼食を摂って、次のデートへ。

 これまた定番なショッピング。

 そろそろ夏休みに入るため、俺が霧山とレティシアの水着を選ぶということになった。なぜこんなことにと文句を言おうとしたが、これもデートの取材のためと思って言葉を呑み込んだ。

 それにこれがーー。

 出かかっていた言葉を閉ざして二人の元へ歩き出す。


「はい、春田君。これとこれどれが良いと思う?」


 女性客が多い周りの視線を極力意識せずに、霧山が持ってきた二つの水着を見比べる。

 片方は白を基調とした黒の水玉模様。

 もう片方はピンクの花柄をした水着とパレオ。

 どちらも無難なチョイスで、どちらも霧山に似合う水着だ。何だか面白くないと思った俺は近くにあった水着を手にした。


「これなんてどうだ?」


 俺は布面積が限界まで小さくなった水着を渡した。


「ちょっと春田君? 私がどちらかって二択で選択肢を与えているのに、なぜ春田君が第三の選択肢を選ぶのよ。そ・れ・に! なぜそんな際どい水着を選ぶのよ! ほんっとう春田君ってスケベよ! ほんっとう春田君ってスケベバカよ!」


 顔を真っ赤にして、怒りを見せて俺を睨む霧山は罵倒してくる。

 霧山なら似合うと思って選んだのだが・・・・・・お気に召さなかったようだ。半分冗談で渡したけど。

 とりあえず俺は水玉模様の水着を選んだ。

 霧山は俺が選んだ水着を手にして試着室の中へ入った。

 さてレティシアの方はどうかな。


「レティシアはどんな水着が良いか決まったか?」


「数が多すぎて私ではどれが良いのか判別できないわ。ソラト、選んでくれないかしら?」


 確かに色んな水着がズラリと並んでいるから悩みどころだろう。というか女子の水着ってこんな種類が豊富なんだな。

 俺は近くの水着を吟味していると、店員が近寄ってきた。


「お客様、彼女さんの水着をお探しでしょうか? あら? 外国人の彼女さんですね。こんな可愛らしい彼女さんを捕まえるなんて彼氏さんも隅に置けませんね」


 俺の隣にいるレティシアを見て、店員は獲物を狙うように目がキラリと光ったように見えた。しつこくあれこれと聞いてくる店員に、俺は少し面倒な人に絡まれてしまったなと思った。あと否定するのも面倒だから彼女ってことにした。


「彼女に似合いそうな水着って何ですか?」


「そうですね・・・・・・。スタイルがとっても良いですね。それなら攻めた水着とかどうですかね? このフリル付きの黒い水着はどうですか? フリルが可愛らしく、黒のアダルティさも合わさった感じですが・・・・・・彼氏さん好きですよね?」


「・・・・・・確かに」


 店員に俺の好みがバレてしまう。超能力者かこの店員?


「あとは・・・・・・今年のトレンドといえば、このオフショルダーなんてどうでしょうか? 色は・・・・・・彼氏さんの好みだと黒か赤でしょうね」


 俺の好みが筒抜けなんだが・・・・・・。なぜこうも店員にバレてんだ?

 と、俺は視線を落として自分が手にしている黒い水着や赤い水着を見て納得した。


「レティシアはどれが良いと思う?」


 店員が持ってきた水着をレティシアに見せて、選択させる。

 どちらもレティシアに似合っているから、俺としてはどちらでも良いと思っている。


「そうね・・・・・・。私はソラトを選んだ水着を着るわ」


 どうやら俺が決めないといけないようだ。

 それなら最初のフリル付きの黒い水着を差し出した。

 レティシアがそれを手にして試着室へ入る。

 店員はニヤニヤと浮かべて「ごゆっくり~」と言ったあと、別のお客さんの対応をする。

 そしてタイミングよく霧山がカーテンから顔を出して、恥ずかしそうにしていた。


「着たのか?」


「着た。けど恥ずかしい」


「なら見なくていいか」


「見てよ! 私の水着見たいって言ってよ! これデートなんだから私の水着がどうしても拝みたいって土下座して頼んでよ!」


「そこまで俺は飢えてないよ・・・・・・。それにレティシアの水着が見れたら満足するし」


「なんでそこで別の女の名前を出すのよ。浮気?」


「いやいや付き合ってもないから。それでどうするんだ? 見られたいんなら『私の淫乱な身体を隅々まで見てください。見られて興奮する露出狂なんです』って言ったら見てやらんでもない」


「・・・・・・」


 汚物でも見るような冷ややかな目を向けられた。


「で? いつまでそうしてんだ?」


「そうね・・・・・・。わかった。見せる。いくよ?」


 顔を引っ込めるとカーテンが開かれた。

 そこには水着姿の霧山が耳まで真っ赤にして、恥ずかしそうに内股になっていた。

 普段制服に隠されているから霧山のスタイルはわからなかったが、そのシミ一つない真っ白な肌。強調された胸。ウエストはきゅっと引き締まって、お尻は少し大きめ。ほどよい肉付きの太股から爪先まで光に反射して眩しい。

 意外といえば失礼だが、スタイル抜群のグラビア体型のようだ。ワガママボディとは霧山の事を言うんだろうな。


「あの・・・・・・ジロジロ見ないで感想は?」


「尻大きい。そしてエロい」


「スタイルの感想は聞いてないの春田君。水着姿がどうか聞いてんの」


 再び冷ややかな目で、汚物を見るような視線を向けられ、俺は怖じ気づいた。

 霧山怖い。いつか刺されるんじゃないか。


「似合ってると思うぞ。・・・・・・可愛いと思う」


 霧山相手に何を恥ずかしがってんだ俺は・・・・・・。


「そ、そう? えへへ、ならこれにしようかな・・・・・・」


 俺が褒めた事で、一瞬にして破顔した霧山は嬉しそうな顔になる。

 カーテンが閉じられ、霧山の水着姿がカーテンの向こうへと消えてしまった。もう少し見てみたい気持ちもあったが・・・・・・。

 今度はレティシアの試着室のカーテンが開かれる。


「ソラト着たわよ」


「お、おう・・・・・・これはヤバいな」


 フリル付きの黒い水着を試着したレティシアの姿は控えめに言ってエロい。

 モデルをやっていると言われると納得のいくプロポーション。胸は弾力があって零れそうなほど大きい。腰からお尻まで見事なS字ラインを描いている。これが誰もが羨む理想のボン、キュ、ボンである。

 他の客や店員までレティシアのスタイルに憧れな目を向けていた。

 だが俺は一度このスタイルを不可抗力とはいえ目に焼き付けている。まあこんなにじっくり見てないけどな。

 しかし・・・・・・死神ってレティシアのようにスタイルがよく美少女が結構いるのか? それともレティシアが特別なだけなのだろうか。


「ソラト?」


 ぼーっと見つめていた俺は、レティシアの声に我に返った。


「に、似合ってるぞ」


「似合っている・・・・・・。そうなのね。ふふ、ありがとうね」


 レティシアの笑みに不覚にもドキッとした俺は視線を逸らした。


「この水着は海に入るときに必要になるのよね?」


「ああ、そうだな。夏休みに入れば、みんなで海に行くのも悪くーー」


 そこまで言って俺は言葉が続かなかった。

 当たり前のように夏休みを迎えて、みんなで海に行ったり、肝試しをしたり、花火を見たりーーそれが当然だと思っていた。

 レティシアの告げられた言葉が過ぎる。

 言葉の通りなら俺は夏休みを向かえることができない。


「・・・・・・ソラト」


 レティシアが俺を呼ぶ声に頭を振って、自分の気持ちを押し込める。ダメだ。・・・・・・こんなところでダメだ。

「お前はみんなで海に行くんだ。その水着は俺が買ってやる」


「・・・・・・」


 レティシアの目を見ず、これ以上ここに居たくなかった俺はその場から離れることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死神の眷属(白猫)になりました 凉菜琉騎 @naryu0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ