第4話 遅刻の理由
学校に辿り着いた頃には二時間目の授業が終わっていた。俺はこっそりと教室の中に入って、席に着く。周りは俺の事を気にせずに談笑していた。基本的に友達がいない俺に話しかける人はいない。
と思いきや、俺の席の前に気配が。顔を上げると黒髪長髪で眼鏡を愛用した委員長が立っていた。
「どうした委員長?」
「ちょっと春田君。幼馴染みなんだから私のこと委員長って呼ぶのは、やめて欲しいって何度も言ってると思うんだけど?」
「実際委員長って役割を与えられてんだし、ラノベとかでも委員長の事、委員長って呼ぶじゃん? ん? 幼馴染みと委員長キャラが被ってるな・・・・・・。これは困ったことになった。委員長と幼馴染み、どっちの位置づけにすればいいのか」
「もう幼馴染みキャラが定着してるんだから、幼馴染みの位置づけていいのよ。あと委員長って呼ばない」
「う~ん・・・・・・。まあ霧山が委員長キャラって感じはしないからな。幼馴染みポジションの方がしっくりくる」
友達がいなくても、俺には一応幼馴染みがいる。小学校からの付き合いで、幼馴染みしてる理由は覚えていない。いつの間にか霧山が隣にいた感じだ。ただ昔は霧山の性格は内気だった記憶はある。今では友達も多くいるし、委員長を務めている。
「それで今日はどうして遅刻してきたの?」
授業中にしか掛けてない眼鏡を外して、俺に非難の視線を向ける。
「あー・・・・・・。死神と出会って色々とあった」
「春田君、嘘をつくならもっとまともな嘘をつきなさいよ」
実際本当のことなんだが、まあそんな反応をする事は分かっていた。普通は信じないだろうな。
「まああれだ。腹痛だ」
「知ってる春田君。春田君が嘘をつくときって私の目をジッと見つめてくるのよ。目を逸らすと、直ぐにバレるからあえて見つめてくるの。ふふ、私の前で全て春田君は丸裸なのよ! って裸なんて春田君のえっち!」
俺なにも言ってませんけど?
しかし、霧山の前で直ぐに嘘がバレるのは、そんな理由があったからか。確かに言われてみれば、俺は誤魔化すときにあえて目を逸らさずに、相手の目をジッと見ていた。俺も無意識にやっている癖だから言われるまで分からなかった。
ただ死神の話は本当なんだが、それまで嘘だと思われているのか。霧山もまだまだのようだな。
「ふっ、霧山もまだまだだな」
「よくわからないけど、誤魔化しても無駄だからね。そ・れ・で? 遅刻の理由ーー」
チャイムが鳴ると、霧山は溜息を吐いた。次の休みにもう一度聞きにくると言い、自分の席へ戻った。
いくら委員長だからってそこまで俺の遅刻の理由を聞きたいのか? 俺以外にここまでしつこく理由を聞いてくること無かったと思うんだけどな・・・・・・。
それから俺は普通に授業を受けて、レティシアの事を考えていたら3時間目が終わるチャイムが鳴っていた。先生が教室を出て行くのと同時に、視界に霧山が席を立つ姿を捉えた。これはおそらくさっきの話の続きをするはずだ。それならトイレで少し時間を潰させて貰うか。
「ちょっと! 春田君!」
俺が教室を出て行くと、案の定霧山は俺に用があったらしい。遅刻の理由なんてさっき話したんだけどな。
少し時間を潰してからトイレで用を足して、トイレから出る。視界の端に俺を睨む霧山の姿が映った。俺はげんなりして霧山に向き直る。
「こんな所まで追いかけてきてなんだ? 告白か?」
「ち、違うわ! さっきの、続き! 委員長として、幼馴染みとして、春田君が遅刻した理由を聞く権利があるのよ!」
「俺以外にも遅刻の理由聞いているのか?」
「聞いてない。春田君だけ特別枠なの。監視対象なの」
監視されるほど、遅刻の常習犯でもないし、素行が悪いワケでもないんだが・・・・・・。
「俺だけ特別扱いってアレか? もしかして霧山・・・・・・俺の事が?」
「違う! 違います! それは春田君の自意識過剰! そうやって直ぐに自分に気があると勘違いするのは童貞の証です! って何言わすのよ! 春田君のえっち!」
顔をゆでだこのように赤くし、怒ったように怒濤の勢いでまくし立てると。今度は羞恥で顔を赤らめる。
いや、だから俺は何も言ってないからな?
「そろそろチャイムが鳴るぞ」
「え? もうそんな時間? むむむ、なぜ遅刻の理由を話さないのか怪しい。絶対に何かあるに違いない」
「遅刻の理由なら既に言ってあるんだがな」
「春田君の妄想癖でしょ? あ、それともそういうゲームの話? ゲームに夢中で時間に気付かずに遅刻しちゃったとか? でも華ちゃんに何か言われたりしないの?」
「あー・・・・・・もうそれでいいか。華から一言もなかったよ。ちょっと夢中になっていたから、聞こえなかっただけかもしれないが」
「仕方ないわね。春田君、ゲームはほどほどにね。・・・・・・やっぱり、春田君が遅刻しないように向かえに行った方がいいかな?」
遅刻の理由はゲームに夢中になっていたということで一旦落ち着いた。最後何か呟いていたが、俺は聞かなかったことにした。
霧山と仲良く教室へ戻ると、イケメンが俺たちの所にやってきた。
爽やかな微笑みで俺と霧山を交互に顔を向ける。何か祝福するような優しい目をするな、頷くな。
このイケメンーー川宮夏也は絶対誤解している。
「二人の結婚式には必ず行くよ」
「気が早いし、する予定もねーし、そもそも付き合っても無いからな」
「え?」
いやいや、なぜ霧山は悲しそうな顔で俺を見る。
「そっか、それは残念。霧山さんが空斗の事追いかけていったからこれはもしやと思ったんだ」
「実は俺、霧山にストーカーされてんだ。このままだと俺刺されるかもしれない」
「刺しませんし、ストーカーなんてしてないわよ! そこまで私重い女じゃないからね! ・・・・・・重い女じゃないよね?」
「霧山さんが重いなんてそんな事ないよ。霧山さんみたいな綺麗な女の子に何度も迫られたら嬉しいと思うよ。空斗って照れ屋だから、内心は舞い上がっているはずだよ」
「そ、そうよ! 春田君の心の中では、『るりなたん! るりなたんぺろぺろしたいお! ぐふふ、るりなたんにこの立派なぶっといものを差し上げるよ?』って思っているに違いないんだから! ・・・・・・ごめん、それはちょっと気持ち悪いわ」
別にそんな事思ってないのに、勝手に引くなよ。逆に俺が引くよ。
「え? 春田くんってそんな趣味があるの・・・・・・?」
ってほらー。隣の席の石川さんが気味悪がって机離されたじゃんか。俺が本当にそんな事を口走ってる危ないヤツだって誤解されてんじゃん。マジでやめてくれ・・・・・・。俺は被害者だ。
「これ以上、根も葉もない噂を流すんじゃない。俺は紳士だから、霧山に変態的衝動を引き起こしたことは一切無い。誹謗中傷で訴えるぞ」
「はは、空斗と霧山はいつも通り元気がいいね。そういえば空斗遅刻してたよね?」
「あーそれか。死神と出会って色々とあったんだ」
「?? それはゲームの話なのかな?」
やはりゲームの話になってしまう。本当のことなんだが、まあ俺も同じ反応をしていたはずだし仕方ないだろうな。
「そうなの。春田君ってばその・・・・・・エッチなゲームして遅刻してきたのよ!」
「おい、俺は一言もそんな事言ってないからな」
勝手にエッチなゲームと捏造されていた。この幼馴染みの記憶力は一体どうなってんだ? 俺の知らない間に、他の出来事も勝手に捏造されてんじゃないのか? こわっ。
「ごめん、俺にはその手のゲームの話は知らないから、空斗と話し合えないよ」
なぜか夏也にも俺がエッチなゲームを好むオタクだと認識されている。ちょっと興味があって一度プレイしたことあるが、そこまで詳しく知らないからな。
ただもう否定するのは面倒で、もうそういうことにした。
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