第31話 次の国王に、就任してもらってイイですか?(前編)

「えっ、私!?」

「そうだ。私は、君に次の国王を務めてほしいと思っている」


 フィリップによる唐突なクラリスの推薦。

 あまりに予想外の急展開に場が騒然となる。


 そんな中、突如ブノワが怒りに顔を歪ませ声を荒らげた。


「や、約束が違うじゃないですか! 貴様、辺境の草原生まれの分際でブノワを騙しましたね!」


 フィリップに指を突きつけ、睨め付けるブノワ。

 それに対し、フィリップは至って落ち着いた態度で応じる。


「騙した、とはどういう意味かな? 私は別に君を推薦すると約束した覚えは無い。応援しているとは言ったかもしれないがね」

「応援するということは、支持することと同義でしょう! こんな非道な行いがこの国王選で許されるはずがありません! そうでしょう皆さん?」


 ブノワが周囲の参加者に賛同を求めるが、誰一人として首肯しない。それどころか、全員が関わりたくないといった様子で目を逸らしている。


「くっ、貴様ら……。このブノワに、九十万の民の前で恥をかかせるつもりですか!」

「自ら恥を晒しておいて、責任転嫁は良くないね。それでは恥の上塗りだ。とにかく、君はこの時点で候補から脱落となる。即刻退場してもらおう」


 フィリップの命令により、強制退室となったブノワ。


「ブノワ様、こちらへ」

「覚えていなさい。必ずやブノワは、いつしか王座に就いてみせますから」


 彼は警備兵に連れられながらも、最後まで言葉での抵抗を続けた。


 扉が閉まった後も、しばらくはブノワの喚き声が聞こえていたが、やがてそれも届かなくなる。

 静かになったところで、フィリップがスピーチを再開する。


「さて、少々騒がしくしてしまったね。話を戻そう。私がクラリスを推薦する理由だが、それはテレートで一番強いからだ」

「一番強い? この出来損ない女ハーフエルフがか?」


 冗談だろと嘲笑するリシャールやその他貴族たち。


 その瞬間、柳瀬Dは隣でセリーヌが殺気を放ったのを感じた。きっとクラリスが侮辱されたことに苛立ちを覚えたのだろう。

 だが、当の本人は言い返すどころか俯いてしまっている。


 そんな彼女を見兼ねて、フィリップが言葉を継ぐ。


「確かにクラリスはハーフエルフだが、出来損ないという認識は間違っている。クラリスは必死で努力し、Sランク魔導師にまで上り詰めた。実力は本物だ」

「だが、それでもこいつは……」

「まだ何かご意見でも? 推薦に関する質問なら受け付けるが、クラリスへの疑義を問うのならこれ以上私に言うことはない」


 こうして半ば強引に反論を封じたフィリップは、クラリスに向き直ると優しい口調で言った。


「クラリス、君には一瞬で世界を変えてしまう力がある。だから、もし君が国王になったならその力は抑止力となり、この国は他国とも対等に渡り合えるようになるだろう。そうなれば、君の望む平和な世界に一歩近づく。やってみる価値はあると思わないかい?」


 すると、クラリスはゆっくりと顔を上げてぽつりと呟く。


「私に、出来ますか……?」

「ああ、出来るとも」

「本当に、私が国王になってもいいの?」

「当然だ。君にもその資格はある」


 真っ直ぐに彼女の目を見つめるフィリップ。

 柳瀬DやAD白崎、セリーヌも遠くから頷きかける。


 それからしばらくして、クラリスは意を決したように表情を引き締めると。


「もし皆さんが選んでくれるなら、私は国王としてこの国を、世界を、平和に導きます」


 力強く、そう宣言した。

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