第30話 一発勝負の生中継、覚悟はイイですか?(後編)
五秒前、四、三、二……。ジャスト十九時。
「この時間は『異世界、ついて行ってイイですか?』緊急生放送スペシャルをお送りします」
セブンチャンネルの第一スタジオ、進行役の女性アナウンサーがカメラに向かって言う。
番組ロゴが表示された後、女性アナが続ける。
「では早速ですが、ここからは異世界にありますテレート王国で行われている、次期国王選出会議の模様をライブ映像でご覧頂きたいと思います」
そして、映像が切り替わる。
テレート王国の王都モヤサーマのとある建物の一室。
円卓を囲むフィリップやクラリス、ブノワらの姿が映し出された。
「それでは、これより国王選を始める。分かっているとは思うが、これはこの国の次の長を決める大変重要な会議だ。気を抜くような真似は決して許されない。なお、今回は東京セブンチャンネルによるサツエイが行われている。もしも誰かが不正を働いたならば、それは証拠として未来永劫残されるとともに、カメラの向こうにいる多くの民に晒されるということを覚えておくように」
フィリップの挨拶で、国王選が幕を開ける。
「まず最初は立候補者の方の演説から。リシャールさん、お願いします」
一瞬だけカメラに視線を向けたクラリスが立候補者の一人である名家の子息を指名する。
それを受けたリシャールが立ち上がり、深々と一礼してからスピーチを開始。
カメラは流暢に言葉を紡ぐ彼の顔にズームし、その表情を捉え続ける。
その右上にはワイプでフィリップやブノワと言ったその他の参加者の様子が映し出され、国王選の厳粛な雰囲気を伝える。
「ここまでは順調だな……」
「そうですね。SNSでも早速トレンド入ってます」
部屋の片隅、どのカメラからも死角になる場所で静かに見守っていた柳瀬DとAD白崎。
その隣では、セリーヌが何でもありの魔法の力によって全てのカメラワークとスイッチングを一人でこなしていた。ここまでを見る限り、彼女の仕事ぶりはプロのそれとも遜色の無い完璧なものだ。
「突貫作業で繋げたWi-Fi、調子は?」
セリーヌがタクトを振るように魔法の杖を動かしながらAD白崎に問う。
「はい、問題なく接続出来てます」
「なら良かった」
小さく頷くと、彼女は再び無言で機器の操作に戻る。
AD白崎が異世界でSNSをチェックすることが出来ているのはセリーヌの魔法のおかげだ。セリーヌ曰く、東京セブンチャンネルのオフィス内に飛んでいるWi-Fiをどうにかしてここまで引き込んだらしい。
数十分後。ブノワを含めた立候補者全員の演説が終わり、次のステップへと移行する。
「それでは続いて、各会派の代表による推薦に移ります。私がお名前を呼びましたら、ここまでの立候補者、もしくはこの場にいる参加者を指名し、推薦理由を述べてください」
その後、クラリスに名指しされた人が順に推薦者とその理由を挙げていく。
そして、フィリップを残した時点でリシャールを推す意見が最多となった。
「最後にフィリップ・モナール様。推薦者の名前と理由をどうぞ」
一体誰を指名するのか。室内が緊迫した空気に包まれる。
おそらくテレビの向こう側では、視聴者も同じような緊張を感じているだろう。
だが、柳瀬Dとセリーヌはその答えを知っている。
セリーヌはこちらを一瞥すると、一台のカメラの向きを変え、ある人物にピントを合わせた。
リシャールは真剣な表情を浮かべ、ブノワが不敵に口元を緩める。
その直後。フィリップがゆっくりと立ち上がり口を開いた。
「私が指名するのは、クラリス・サルティーヌ。君だ」
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