第29話 一発勝負の生中継、覚悟はイイですか?(中編)

 深夜特番『異世界、ついて行ってイイですか?』は二回目、三回目と放送される度、SNSでの盛り上がりは大きくなっていった。

 そして生中継当日となる水曜日には、ここまでの内容の考察や生放送に関するネットニュースが掲載されるほど世間の注目を浴びていた。


「いよいよ今夜だな」

「ですね」


 柳瀬DとAD白崎は頷き合い、カメラ倉庫からクラリス達の待つお屋敷に転移する。

 自分たちがここまでにやれることは全てやった。後は今晩の国王選中継を成功させるだけだ。


 二人が沓摺くつずりを跨ぐと、目の前でセリーヌが待ち構えていた。


「こちらの準備は終わった。柳瀬殿、白崎殿、ここまでの経過は?」

「事前の宣伝は上手くいきました」

「バッチリです」


 その答えにセリーヌはこくりと首を縦に振ると、一つ大きなあくびをした。


「じゃあ、私は夜まで寝る。おやすみ」


 そのまま踵を返し、ふらふらと歩いていってしまう。


「作業、徹夜だったんですかね?」

「セリーヌさんなら一瞬で終わらせられるんじゃないか? 知らないけど」


 AD白崎と柳瀬Dが顔を見合わせていると、クラリスが声を掛けてきた。


「柳瀬さん、白崎さん、戻ってたんですね。今日はよろしくお願いします」


 律儀に頭を下げる彼女に、こちらこそとお辞儀を返す。

 そして、ふとご当主様がどうしているのか気になり質問を投げかける。


「えっと、フィリップさんは今どちらに?」

「フィリップ様もロニエとクロエも下で集まってます。お二人もどうぞ」


 どうやらセリーヌ以外は全員ダイニングに集合しているようなので、クラリスの後に続いて階段を下りる。


「やあヤナセ君、シラサキさん。準備は万端かね?」


 ダイニングに入ると、いきなりフィリップに問いかけられた。


「はい、ここまで完璧です!」


 どこまで強心臓なのか、自信たっぷりに答えるAD白崎。

 すると、それをどう受け取ったのかフィリップは愉快そうに笑った。


「ははは、それは何よりだ。国王選のサツエイは絶対に失敗は許されない。期待しているよ」

「はい、任せてください!」


 おいおい、もしもの時に責任取るのはこっちなんだが。

 柳瀬Dはため息を吐きつつも、プレッシャーを感じていない様子の新人ADに多少の頼もしさを感じていた。


 しばらくして、メイドのクロエとロニエがティーポットやお菓子の乗った皿を手にダイニングに姿を現した。


「ヤナセ様、シラサキ様。国王選まではまだ時間があります。しばらく休憩なさってはいかがでしょう?」

「お茶やお菓子も用意してあるでございますよ」


「そうですね。それじゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」

「やっぱり気合い入れるには甘いものですよね!」




 それから、柳瀬DとAD白崎はクラリスやフィリップ達と一緒にのんびりとした時間を過ごした。そのおかげもあってか、過度に緊張することもなく生中継開始の夜七時を迎えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る