第28話 一発勝負の生中継、覚悟はイイですか?(前編)
翌日深夜。いよいよ宣伝特番一回目の放送を迎えた。
編集作業を中断し、柳瀬DとAD白崎はテレビの前で放送を見守る。
番組開始時刻になると、深夜の吉祥寺駅前の映像を背景に『異世界、ついて行ってイイですか?』のロゴが画面いっぱいに表示された。番組名こそ違うが、これは通常版と同じ演出でのスタートだ。
「これだけ見ると、ちょっとパロディーっぽく感じますね」
呟くAD白崎に、柳瀬Dは苦笑気味に答える。
「まあ、制作スタッフも一緒だから全然パクリじゃないけどな」
そして、いつものように何度か断られる映像が流れた後、クラリスへのインタビュー映像が流れる。
ここからがこの番組の本番だ。
彼女の存在にどこまでリアリティを感じてもらえるか、異世界への転移を事実として受け入れてもらえるか。
編集で出来ることはそこまで多くない。あとは映像の持つ力を信じるだけ。
コンビニでの買い物の場面が終わり、ついに運命の瞬間が訪れる。
「異世界転移、視聴者に伝わってくれ……」
祈るようにテレビを見つめる柳瀬D。
だが、そのシーンはほんの数秒。体験した本人ですら実感の無い出来事だったので、映像ではより伝わりづらくなってしまっている。
やはりもっと何か工夫すべきだっただろうか。
不安を感じる柳瀬Dの隣で、SNSでの反響をチェックしていたAD白崎が急に声を上げた。
「え待って、番組ハッシュタグがトレンド入りしてますよ! ほらここ、十三位」
十三位って、微妙な順位だな……。
しかし、放送途中でここまで話題になったのは大きい。番組終了後に投稿する人がいる点も考慮すれば、トレンド上位は十分に狙える位置だ。
「それ、どういうコメントが多い?」
問いかけると、新人ADはスマホを素早く操作し視聴者のツイートを拾っていく。
「家ついてかと思って見てたけど、これ何?」
「なんか変な深夜ドラマやってる。けど妙に映像がリアル」
「セット? CG? ってか予算掛けすぎじゃね?」
「リアル異世界、な訳ないよな……」
「みんな早く7チャンをつけろ! アニメじゃない本物の異世界転移だぞ!」
「とかまあ、そんな感じです」
「そうか、ありがとう。引き続きSNSチェックしといてくれ」
もちろん反応は様々だが、AD白崎が読み上げたコメントを聞く限りでは否定的なコメントは意外と少ないように感じられた。
セブンチャンネルは近年、ドラマとドキュメンタリーが融合した独特な雰囲気の番組を深夜に放送していたこともあり、それが良い方向に働いたのかもしれない。
そして放送終了後。
SNSではハッシュタグが日本のトレンド五位、翌日の民放見逃し配信サービスの視聴数ランキングでも他局の連ドラに並んで上位に入るなど、深夜の十五分番組としては異例の話題となった。
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